サプライチェーンマネジメント論

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第3章 ロジスティクス・コストとロジスティクス・パフォーマンスの測定

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利益に対する分析が確実ではなかった従来の原価会計方法が過去1世紀以上に渡って用いられてきたが、経営者たちはこの方法の信用性に疑問を持ち始めている。大部分の企業が未だに用いている会計方法では、間接的な費用の振分けが企業ごとに異なるため、製品と顧客の両者が創出する利益を歪めているのである。元来は製品のコストを測定しようとして考え出されたものであるから、こうした従来の会計方法は顧客とマーケットの利益分析をするには適していないのである。

 ロジスティクス・マネジメントはサプライヤーからエンドユーザーまでを1本のラインでつなぎ、そこに資源を集約するという“フロー(流れ)”の概念であるから、その“フロー(流れ)”へのコストとその効果を評価する手段にならなければならないのである。

ロジスティクスと流通のマネジメントに一貫して取り組むことが大部分の企業にとって困難であるのは、コストに関する情報が不足しているからである。流通システムは原価会計システムと連動している。概して、従来の会計システムではコストは広範なカテゴリーに分類されているため、特定のプロダクト・ミックスを顧客に与えるサービスの本当のコストについて、より詳細な分析がなされてこなかった。この広範なコストデータを細分化しない限り、ロジスティクス・システムのコスト・トレードオフを明確にすることはできないのである。

 一般にトレードオフの効果は次の二つの点で評価される。

-トータルコストに与える影響、及び、営業収益に与える影響

 例えば、トータルコストが増加するように、コストをトレードオフすることは可能である。しかし今日では優れたサービスが提供されており、それによっても営業収益が増加している。収支が黒字になれば、サービス提供の他にトレードオフがコスト効果を改善させたとみなすこともできるが、ロジスティクス優先の適切なコスト・システムを導入しなければ、どの程度の費用便益をあるトレードオフによってもたらせたのかを把握するのは非常に困難である。

トータルコスト分析

 直接的あるい間接的に、一つの決定の与える影響が企業システムにおいて考慮されないため、ロジスティクス・マネジメントではオペレーション上多くの問題が発生する。ある部分における決定が他の部分で不測の事態を招くことなど日常茶飯事である。例えば、最小のオーダー価格という政策を変更すれば顧客のオーダーパターンに影響を与え、追加コストが発生するかもしれない。同様に、生産性の改善を意図して生産スケジュールを変更すれば、完成品アベイラビリティに変動をきたし、顧客サービスに影響を与えるかもしれない。

 流通政策が全システムに与える影響を識別することは非常に大きな問題である。ロジスティクスはその性質ゆえ、企業の一般的な組織機能に影響を与えるが、とりわけロジスティクス・コストについてほとんどの機能に影響を及ぼす。従来の会計システムでは会社全体のコストとして捉えるのではなく、コストの内からロジスティクス関連についてのみを抽出するという方法が主であった。例えば、オーダーを受けてからのコストには様々な要素が含まれており、そのコストは多岐に渡った業務において発生したものであるから一つにまとめるのは大変難しい。図3.1は一つのオーダー処理工程に含まれる様々なコスト要素を示しているが、それぞれの要素には固定部分と変動部分があり、最終的には一つのオーダーに対するトータルコストとなるのである。

 オーダー
 
 オーダーエントリー
 
 クレジットチェック
 
 書類作成
 
 オーダーピッキング
 
 配送
 
 請求・集金
  図3.1 オーダーから集金までの経緯 

 予算や標準設定のための会計は企業会計を区画化してしまう傾向がある。したがって予算は機能ごとに設定されがちである。問題は政策ごとにかかるコストは通常明確に区分できるものではなく、ロジスティクスの本質として、石を池に投げ入れるように、直接の政策以外のことにも影響を及ぼす。

 適切なコスト情報の創出を複雑にしているロジスティクスのさらなる特徴は、ロジスティクスについての決定が通常の既存システムの基準に反して行われることだ。ここでいうトータルコスト分析の目的は、ロジスティクスについての決定によってもたらされたコストの違いを把握するということである。つまり、コストはトータルコスト内での変化によって把握されなければならないのである。流通ネットワーク内に倉庫を一つ増やせば、輸送、在庫検査及び通信のコスト費用が変わってくるだろう。この場合、決断をするにあたっての適切な会計情報は、倉庫を設置するか否かという二つのオプション間の原価増加分の違いである。図3.2はデポの増減によってどのようにトータルのロジスティクス・コストに変化があるかを示している。

  全流通コスト
   
  トラック輸送費用
コスト 在庫コスト
  出庫コスト
  現地配送コスト
  オーダー過程コスト
 出庫数 

図3.2 流通ネットワークのトータルコスト

ロジスティクス・コストの原則

 既に述べたように、適切なロジスティクス原価計算システムを創り出すことに焦点をおかなければならない。ここで要求されるのは、流通システムによる顧客サービスに焦点を当て、そのサービスに係わる特有のコストを特定することが重要である。従来の会計システムではこうしたことは念頭に置かれていなかったため、欠如していたのである。

 ロジスティクス原価計算の基本原則の第1は、貨物の流れを反映させていなければならない、ということである。つまりは、顧客サービスに係わるコストを特定できるようにしなければならないのである。二つ目の基本原則は、顧客のタイプごとに、マーケットのセグメントごとに、または流通チャンネルごとに収支の分析を別個にできるようにしなければならない、ということである。この二つ目の基本原則は、従来のやり方では単に平均値-例えば配送の平均コスト-で処理するという危険性があったために必要となる。平均値は、平均を出す前の値の重要な変化を隠してしまうことがある。

 これら原則を実施するには「アウトプット」型の原価計算が必要である。言い換えれば、まずロジスティクス・システム上必要となるアウトプットを特定し、次にそれに係わるコストを特定するのである。ここで「ミッション」という概念が役に立つ。ロジスティクスの流れの中では、ミッションとはある特定の製品、マーケットの状況においてシステムで達成されるべきカスタマーサービス目的の集合である。ミッションはどのようなマーケットでどのような製品を扱い、サービスやコストについてどのような制限をうけているかによって定義できる。また、ミッションはその性質上従来の企業の機能ラインにまたがるもある。図3.3はこのコンセプトを示し、ミッションに基づいた「アウトプット」の方向と機能に基づいた「インプット」の方向を説明するものである。

  購買 製造 セールス マーケッティング 輸送 その他 
ミッションA             
              
ミッションB             
              
ミッションC             
              

図3.3 機能別組織の枠にまたがるロジスティクス・ミッション

 ミッションが成功するためには、組織内のあらゆる機能別分野、そして活動拠点からのインプットを含めなければならない。このように、効果的なロジスティクス原価計算システムはロジスティクスの目的(アウトプット)に合致したトータルコストを特定し、更にこうしたアウトプットに対応するインプットを特定しなければならないのである。利益とはこうした取り組み-ミッション原価計算-から生まれるのである。

 図3.4では3つの流通ミッションが活動拠点や機能別分野のコストに差のでる影響を与える様子を示している。それは企業内部のコスト計算の方法論となる。原価計算または予算算定方法としては、ミッション方式は従来の方式とは対極に位置するものである。ミッション方式では、機能の予算は提供するミッションによって決定される。このように図3.4ではミッションごとのコストが水平的に特定され、そこから機能の予算が垂直的に算出されるのである。

 機能エリア/ 活動拠点1機能エリア/ 活動拠点2機能エリア/ 活動拠点3機能エリア/ 活動拠点4トータル・ミッション・コスト
ミッションA100902080290
ミッションB507020020340
ミッションC70305070220
活動拠点 インプット220190270170850

図3.4 プログラム予算(千ポンド)

 

ミッション原価計算理論が正しいと仮定した場合、実際にはどのように機能するのであろうか。この分野のパイオニアであるバレットはミッション原価計算の適応方法を発展させた。そこでは、まず輸送や保管、在庫管理といった流通ミッションに関連した活動拠点を特定し、次にそのミッションを遂行した結果発生した増加コストを活動拠点ごとに識別しなければならない。埋没原価や、ミッションを断念しても発生するコストは考慮に入れないことが重要なので、原価の増加分が使用される。この場合、属性コストという概念を利用できる。

 

属性コスト:製造や機能が中断した場合には企業の構造を変えずに回避できるユニットごとのコスト

 特定のミッションに属する、輸送のような活動拠点のコストを決定するときに、次のような疑問が生じる。

 「この顧客/セグメント/チャンネルに今後サービスを提供することがない場合、どのコストが回避できるのだろうか」

 この回避可能なコストとは、顧客/セグメント/チャンネルにサービスを提供した際の実増加分であって、実質的には平均コストより低いものである。というのも流通コストの多くは固定しているからである。例えば、ノッチンガムとリーズでの配送のための車両がロンドンのデポを出たとする。ノッチンガムでの仕事がキャンセルされて、リーズでの仕事がそのままの場合、トータルでの輸送コストはどれくらい変わってくるであろうか?大差はないはずである。逆にリーズでの仕事がなくなり、ノッチンガムでの仕事が残った場合には、輸送距離の短縮により大幅なコストセーブになるであろう。

 こうした考え方はカスタマー収益分析と合わせて考えると非常に有効である。というのは低収益の顧客であっても平均コストベースではなく、増加コストベースでは利益率がいいかもしれないからである。言い換えれば、そうした低収益の顧客であっても喪失しない方が幾分かはいいのである。

 こうした洞察はミッション原価計算という考えを顧客/マーケットセグメント/流通チャンネルに対する利益分析にまで拡張することによっても得られるのである。「顧客収益会計」とは、顧客/マーケットセグメント/流通チャンネルで創出される収益をそのサービスに係ったコストと関連させようというものなのだ。顧客収益会計については、本章の後半で詳細に掘り下げることとする。

ロジスティクスと利益

 20世紀の激動のビジネス環境の中で、経営者たちは意思決定のための財務指標に気を配るようになっている。利益は(多分誤った)会社の方向性を決定する推進力となった。場合によっては、短期間の限定的な(危険性を含んだ)推進力となるのである。したがってブランドや調査開発やキャパシティーへの投資は、それがすぐに見返りがあると分かっている場合を除いて、削減されてしまう。

 意思決定とマネージメントに同等の影響を及ぼすのはキャッシュフローである。強力なプラスなキャッシュフローは利益と同様マネージメントの目標となるのだ。

 3番目の財務指標は資源の有効活用であり、特に固定・流動資本の利用なのである。組織の中で最重要課題となっているのは資本に対する生産性の改善である。(つまり財産の利用である。)この点に関しては、投資利益率(ROI)が通常用いられる。ROIは純利益とその利益を出すために使用された資本との比率であり、その式は次のとおりである。

ROI(投資利益率)利益
使用資本

この比率はさらに次のようになる。

ROI(投資利益率)利益X収益(売上)
収益(売上)使用資本

 これによりROIはつぎの二つの比率からなっていることが分かる。一つ目は一般的にマージンと呼ばれる収益(売上)に対する利益であり、二つ目は資本回転率と呼ばれる、使用された資本に対する収益である。ROIを改善するにはこの二つの比率のどちらかをまたは両方を上げなければならないのである。多くの会社はROIを上げようとマージンに注目するものであるが、ROIを上げるために資本回転率を上げたほうが効果的であることが多いのである。例えば在庫量の制限や、平方フィート当たりの高収益性や、所有ではなく賃貸店舗等資本の生産性が高いなど、ほんのわずかなマージンからでも優れたROIは達成できるということを多くの成功している小売業者は以前から認識していたのである。

 図3.5ではマージンと資産回転率のいずれか、または双方を上げることによってROIが上昇する様子を示している。同じROIがマージンと資産回転率との異なった組み合わせによって達成されることを各ISOカーブが示している。ロジスティクス・マネジメントとはこのISOカーブを如何に右側に持っていくかということである。

 ロジスティクス・マネジメントがROIに影響を与える方法は多種多様である。図3.6にあるのはROIの主な要素であり、それがより効果的なロジスティクス・マネジメントによって改善される可能性を示している。それぞれの要素について見ていこう。

利益/収益     20%ROI
(マージン)   15%ROI
    10%ROI
 収益/使用資本(資本回転率) 

図3.5 ROIに対するマージンと資本回転率の影響度

カスタマーサービス営業収益    
   プロフィット  
ロジスティクス効果コスト    
       
 在庫 ÷ 投資利益率
      
資産活用売掛金    
   使用資本  
 現金    
      
 固定資産    

図3.6 ROIに対するロジスティクスの影響

セールス収益

 サービスとセールの直接の関係は測定できないかもしれないが、優れた顧客サービスがセールスの改善に繋がる確かな根拠がある。他の条件が同じであれば、第2章でも述べたように、サービスはマーケットでの差別化に非常に効力を発揮し得るのだ。

コスト

 ヨーロッパ及び北米の産業界ではセールス収益に対しての流通コストは一般的に5%から10%との間と言われてきた。

 ここ数年流通コストは高度化したロジスティクス管理によりその比率を下げてはいるが、依然として企業にとっては相当の負担である。付加価値に対する比率で見てみれば、ロジスティクス・コストは大半の企業で上昇している点も認識しておかなければならない。これは部品や梱包、サービスといったもののアウトソースが増加するにしたがって、付加価値は下がっていくからである。多くの企業は、ロジスティクス・コスト管理を改善することでプロフィット・レバレッジを得られるであろう。図3.7は流通コストと相対的に利幅が低くても、利益率が拡大する可能性があることを示している。

 図3.7の場合、ロジスティクス・コストが10%削減できれば、他の条件が同じ場合、利益については20%の改善となる。

 ロジスティクスの見えないコストが在庫品に掛かる利子である。これは経営会計システム上明確に識別されることなどまずないから、多くの経営者はどの在庫品がコストを膨らませているのかに気づかないのである。もちろん在庫品に対しての利子や資本コストだけではない。貨物の劣化や保険料や在庫品の損失、在庫管理コストといったものも考慮にいれなければならないのである。これらは最低でも年間に帳簿価格の25%のコストであると見積もられている。

5%プロフィット6%プロフィット
    
10%ロジスティクス・コスト9%ロジスティクス・コスト
  

図3.7 プロフィット・レバレッジとロジスティクス

資産活用

 多くの国では実質利子率は非常に高い。実質利子率とはインフレ率から名目利子率を引いたものである。だから、名目利子率が12%であってもインフレ率が18%であれば、実質利子率は-6%となる。しかし仮にインフレ率が4%で、名目利子率が12%のままであれば実質利子率は+8%である。この高実質利子率は業界に大きな損傷を与え、資産生産性の大幅な改善を促してきた。

 ここでもより高度なロジスティクス・マネジメントが業績の改善に大きく貢献した。表3.8は貸借対照表の主たる項目とロジスティクス・マネジメントの内容をリンクさせたものである。貸借対照表の各項目を見ていけば、最終的にどれだけロジスティクス変数が深く係わっているかが理解できるだろう。

貸借対照表 ロジスティクス変数
資産  
現金 オーダーサイクルタイム
  オーダー遂行率
売上債権 請求書の正確性
在庫 在庫政策とサービスレベル
土地・工場・施設 配送施設
  輸送機器
負債  
流動負債 購入政策
部門 在庫品、工場、施設に対する財務上 のオプション
株主持分 

キャッシュと売掛金

 流動資産はビジネスの流動性に不可欠である。ここ最近、多くの企業が資金繰りで圧迫されているため、このことは非常に重要視されるようになってきている。しかしながら、ロジスティクス変数が貸借対照表上の流動資産に直接影響を与えているとは必ずしも認識されていない。例えば、オーダー・サイクルタイム(顧客が注文してから商品を受け取るまでの期間)が短縮されれば、請求もそれだけ早く起こすことができる。同様に、もしも商品が無事届けられるまで請求書が発行されないのであれば、オーダー達成率もキャッシュフローに影響する。キャッシュと売掛金に影響している見えにくいロジスティクス変数の一つが、請求書の正確性である。顧客が請求書の間違いを見つけた場合、顧客は支払いをしないであろうし、支払期間もその間違いが修正されるまで延びることになる。

在庫品

 企業の流動資産の50%以上が在庫品であることは珍しくない。ロジスティクスとは原材料から完成品に至るまでのあらゆる在庫品と関係している。企業の在庫レベルと保管場所に係わる意思決定は在庫全体に影響してくる。また、在庫レベルの管理にまで影響し、ついには在庫品を必要最小限に抑えようとする事業システムにまで及ぶのである。

土地/工場/施設

 如何なるビジネスにおいてもロジスティクス・システムは固定資産を活用するものである。レンタルやリースではなく所有している場合、ロジスティクス・ネットワークを構成する工場や倉庫は、現実的に評価すれば固定資産のかなりの部分を占める。また、荷役機械、車両、保管と配送に関わる他の機器も固定資産の大きな部分を占める。多くの企業では貸借対照表上こうした固定資産を取得原価で評価しているため、ロジスティクス上の固定資産の本質を見誤ってしまっている。例えば倉庫は保管や搬送機械に相当な投資を必要とするが、その際「この投資は資産を生かすために1番有効な方法なのだろうか」という疑問が生じるべきである。

流動負債

 ビジネスでの流動負債は一定期間内に返済されなければならない借金である。ロジスティクスの側面から見れば、重要なものは購入した原料や部品等の支払いである。これは購買とオペレーションの集約化により利益を生むことも可能であるということである。従来のやり方では、実際の製造量や流通需要を反映しない場合には、大量の原材料在庫を抱えることになった。ロジスティクスの需要全体に合致する購買の調整は、資材所要量計画(MRP)と流通所要量計画(DRP)により実現される。早い段階で原材料のオーダーが最小化されれば、流動負債の改善に繋がるのである。

資本負債比率

 資本と負債のバランスはビジネス全体の財務管理にさまざまな問題を投げかけるが、ロジスティクス戦略の影響を熟考する価値はある。多くの企業が工場施設や装置をリースするようになっており、固定資産を継続的な支出に転換しようとしている。同時に、サードパーティーを利用した倉庫運営や輸送の外注が増加している。この転換は明らかにビジネスの資金需要に影響している。それは資金調達の方法にも影響を及ぼしているかもしれない。つまり資本ではなく負債を増加するということである。通常、「レバレッジ」とよばれる資本に対する負債の率は株主資本利益率に影響し、利子の支払いや負債の返済といったキャッシュフローにも影響を及ぼしていくことであろう。

ロジスティクスと株主価値

 今日企業の業績を測る重要な手立てとして株主価値がある。これは企業の価値とは何かということを意味する。上位の企業では株主価値を上げることを目的にする経営が広まっている。実際の株主価値を算定するには色々と複雑な問題があるが、最も簡単に言えば将来のキャッシュフローと正味現在価値によって決定される。このキャッシュフローは次のように定義される。

純利益
税金
流動資本投資
固定資本投資
税引き後キャッシュフロー

 更に近年では、株主価値の創出にEVA(経済付加価値)という概念が広く用いられるようになり、株主価値の考え方をさらに発達させている。EVAの考え方は、元々は今から100年以上前の経済学者であったアルフレッド・マーシャルが発展させた「経済的収入」という概念から来ているのだが、EVAという言葉は企業コンサルタントであるスターン・スチュアートが生み出したものである。

 EVAとは利益を生み出すために消費された資本を税引き後の事業収益から差し引いたものである。

EVA(経済付加価値)=税引き後利益 - 資本コスト

 上記よりEVAがマイナスとなる可能性のあることが分かる。言いかえれば、資本コストは税引き後利益よりも大きい場合がある。この負のEVAの影響が特にある一定期間続いた場合に株主価値は下がる。同様に、EVAが改善されれば株主価値は上昇する。未来の予想EVAの正味現在価値を計算すれば、資産の評価基準であるMVA(市場付加価値)が割り出される。MVAは株主にとって事業の価値をはかる指標となるもので、簡単に説明すれば次のとおりである。

株価 X 発行株式
総資本コストの簿価
MVA(市場付加価値)
前述のとおり
MVA = 予想EVAの正味現在価値

 

 ロジスティクスの実績と株主価値との間には多くの重要な関係があることが分かるだろう。つまり、ロジスティクス・サービスが純営業利益に影響を与えるだけではなく、資本効果(資産回転率)にも影響を与えるということである。供給者から最終顧客までをつなぐ長いパイプラインと高度な資本集約的なロジスティクス施設が、EVAと株主価値に影響を及ぼすことに多くの企業が気付いている。パイプラインを短縮しようとした結果、使用資本の需要は削減されたのである。同時に流通施設や輸送車両といった固定資産のあり方を見直し、多くの場合サードパーティー・ロジスティクス業者を利用することでこれらの固定資産を貸借対照表から削除しているのである。

顧客収益分析

 従来の会計方法では答えに窮する質問の1つが、この顧客は他の顧客と比較してどれくらいの収益性を持つのだろうか、というものである。通常、顧客収益は実際に購入された製品構成の全利益、言い換えれば顧客から得た一定期間の営業収益から販売された商品のコストを引いたものより計算される。しかし、顧客ごとの本当の収益性を把握するためには、算入しなくてはならないコストが他にもたくさんあるのである。異なったマーケット・セグメントや流通チャンネルの収益性についても同様である。

累 積 寄 与 額110   
    
    
0   
 累積顧客率(%)

図3.9 顧客収益分析

 カスタマーサービスの結果発生するこれらのコストの意義は、今後どのようにロジスティクス戦略を発展させていくかという点で重大である。第一に顧客収益分析で分かることは、マイナスの貢献をする顧客の割合である。(図3.9)こうなる理由は単純で、一人の顧客に対するサービスに係るコストが多様だということである。それは同じ商品を購入する二人の顧客の間にも生じる可能性がある。サービスはまずオーダーを受けるところから始まるが、セールス担当者はその顧客にどれくらいの時間を費やしただろうか。また、その顧客とフルにもしくは部分的にでも関わることのできるアカウント・マネジャーはいるか。これらの売上に対する手数料はどれくらいか。

 その後オーダーを受けてからさらにコストが発生するが、そのコストはオーダーによって変わってくる。この他にも輸送費や加工費、在庫管理費、保管料といったものがある。顧客が多ければ集荷費用や広告費用やディスカウントといった費用が発生することもしばしばであろう。特定の小売業者へのパック売りといったようなプロモーションの場合は、サプライヤーへの追加的な目に見えないコストがある。例えば、製造予定の混乱や在庫費用の追加といったものは通常計算に入れられないし、顧客に転嫁されるものでもない。

 顧客収益分析の基本原則は、サプライヤーはすべての特殊なコストを個々の会計項目に算入することである。これらのコストを分析するときに注意することは、「この顧客の仕事をしなければ回避できたコストとは何か」ということである。

 この「回避可能コスト」原則のポイントは、カスタマーサービス・コストの多くは、実際には数社のまたはもっと多くの顧客にも分配可能である、ということである。そのいい例が倉庫だ。サプライヤーが他の目的のために保管スペースを貸さないかぎり、特定の顧客に全保管料の一部を割り当てるのはおかしい。

 特定顧客の損益計算書を作成する際に算入すべきコストのチェックリストが表3.1である。

表3.1 顧客損益計算書
収 益純収益
マイナス 
コスト営業コスト
 手数料
 セールス・コール
 ディスカウント
 オペレーション・コスト
 プロモーション・コスト
 商品マーケッティング・コスト
 基準外梱包
 在庫管理コスト
 保管スペース
 加工コスト
 輸送コスト
 書類作成/通信費
 返品
 企業間信用(実際の返済期間)

 多くの顧客を相手にするビジネスにおいて、個々の利益率を分析するのは現実的ではないが、いくつかの顧客を抽出するやり方であれば可能であろう。そうすれば、様々なタイプの顧客、流通チャンネルまたはマーケットセグメントに関連したコストが見えてくる。

 このような分析においては、どのようなタイプのコストが念頭に置かれなければならないであろうか。図3.10は回避可能な顧客関連コスト(つまりその顧客が存在しなければ発生しないコスト)を特定する基本モデルである。

 スタートは総収益で、そこからまずディスカウント分を差し引く。これで純収益が残り、そこから製造原価または販売原価を除かなければならない。間接コストはその顧客特有というものでなければ差し引く必要はない。営業コストや全国広告といったマーケティング・コストなど間接コストについては、任意で差し引いてもよいが、通常は誤解の元となるので同様に扱われるべきである。その後、算入できる流通コストを総顧客寄与額に割り当てる。最終的には企業間信用や返品といったすべての顧客に関係するコストが差し引かれて算出される実質寄与金が、間接費と利益に割り当てられるのである。こうした計算できる「利益(または、損失)」は表3.2のようになる。

図3.10顧客収益分析

Gross sales value                            総収益

Net sales value                 純収益

Production contribution    製品寄与額

Marketing contribution    マーケティング寄与額

Customers gross profitability         顧客総収益率

Customer contribution to company overhead profit              企業間利益への顧客寄与額

Trade discount/Terms of trade       割引・取引条件

Production costs  製品コスト

Marketing costs  マーケティング・コスト

Distribution services costs              流通サービス・コスト

Direst   直接

Indirect 間接

Customer-related costs (direct)      顧客関連コスト(直接)

Sales calls           セールス・コール

In-store and co-operative promotion            プロモーション

Bounuses            ボーナス

Merchandising    マーチャンダイジング

Overhead costs (indirect)  間接費

Salesforce management   集荷管理

National advertising campaign      全国キャンペーン

Customer related costs(direct)       顧客関連コスト(直接)

Transportation   輸送費

Packaging/unitization      梱包

Stockholding       在庫

Warehousing       保管

Trade credit        企業間信用

Order processing 注文処理

図3.10 顧客収益分析:基本モデル

表3.2 特定顧客の収益とコストの分析
 ポンドポンド
総収益 100,000
 - ディスカウント10,000 
純収益 90,000
 - 販売直接コスト20,000 
総貢献額 70,000
 -セールス及びマーケティング・コスト  
  セールス・コール3,000 
  プロモーション1,000 
  マーチャンダイジング3,000 
 7,000 
  63,000
 -流通コスト  
  注文処理500 
  保管600 
  在庫管理700 
  輸送2,000 
  梱包300 
  返却500 
 4,600 
顧客総寄与額 58,400
顧客関連コスト  
クレジット1,500 
返済500 
 2,000 
顧客純貢献額 56,400

 この例では、総寄与度70,000ポンドからこの顧客についてかかるコストを差し引いた、純寄与度が56,400ポンドになった。仮に間接費にまでこの分析が及んだ場合、当初は利益率が高いと思われていた顧客が実はそうではなかったということも起こりうる。しかし純寄与額が黒字であり、顧客サービスに「機会コスト」が含まれていなければ、企業としてはその顧客を失うよりはましなのである。

 こうした分析は実を結ぶものである。この情報はまず次回の契約時に利用され、次に収益性を上げようと営業およびマーケット戦略に利用される。もっと大切なことは、サービスコストの高い顧客を管理する方法を変更できることだ。理想的には、すべての顧客が中長期的に収益をあげ、現在収益性が良い顧客はさらに収益を高めることである。

顧客純 収益防 衛コストダウン
改 善危  険 
  
  サービスコスト

図3.11顧客収益マトリックス

 図3.11は顧客収益マトリックスである。ここでは戦略的方向性の一般化されたガイドラインが提供されている。

 図3.11の4つの部分対する適切な戦略は以下のとおりである。

改善

 提供するサービス・コストも低いが、営業収益も低いというタイプの顧客層である。このような顧客層には、どのようにサービス・コストを上げずに取扱量を増やすのか、またどのように収益性の高い商品構成から購入するように導くか、ということがポイントである。

危険

 この顧客層は要注意である。中長期的に営業収益の改善、またはサービス・コスト削減の見通しはあるのか、戦略的にこの顧客を保持する意義はあるのか、利益寄与が低くても維持する必要があるのか、以上の点に留意すべきであろう。

コストダウン

 この層はサービス・コストが削減できれば利益率が上がる顧客である。小型化は可能であるか、混載輸送は可能であるか、新規の取扱いが同地域であればより経済的な輸送を展開できないか、セールスを電話セールス等のように効率的にできないか、といったことが課題である。

防衛

 高収益・低コストという非常に価値ある顧客層である。この層に対しては他社へ振り向かせない関係作りが大事である。同時に厳しいコスト管理をしながら、取扱量の拡大を常に模索しなければならない。

 理想を言えば、企業とは顧客の収益性に関するデータを常に収集し、分析できるような会計システムを模索していくべきである。しかし、多くの会計システムでは顧客よりも生産に重点が置かれている。同様に、支出報告も業務単位ではなく、機能単位である。例えば全体としての輸送機能のコスト、または特定の生産のコストは把握できる。特定顧客への特定貨物の配送コストは把握できていない。

 製品に対して同様、顧客及びマーケッティングに対する会計システムの必要性に企業は気づき始めている。上述したように、製品ではなく、顧客が利益の源泉である。

直接製品収益

 小売業界において広く受け入れられるようになったロジスティクス・コスト分析を応用した技術に、直接製品収益、略してDPP(Direct product profitability)と呼ばれるものがある。製品あるいはオーダーに付される全てのコストを、配送チャンネルごとに識別する点では本質的には顧客収益分析と類似している。

 顧客は製品の購入コストとは別に多くのコストを支払っているということが背景にある。これは保有コストとも呼ばれている。このコストは表面に出てこないことも多いが、製品によっては純利益を減少させたり、純利益を帳消しにしてしまうこともある。

 ローコスト・サプライヤーになれるか否かは、その流通過程で発生するコストに影響されるので、DPPを理解することは事実である。また、流通業者や小売業者の商品ごとのDPPに対する意識が高まっているので、サプライヤーがDPPに影響を与えるコスト要因を理解することは有益である。

 表3.3は粗利益からより正確なDPPまでの段階を示したものである。

 値引後の純利益が加算され、全コストが控除されたものが直接製品利益である。

 DPPという概念はもともと小売業に用いられているため、その原理はより広く適用されてはいるが小売業に沿って説明しよう。

直接製品利益とは以下の方法によって算出される利益である。

・品目ごとの取引、値引、即時支払割引等による総利益の調整

・個々の製品に直接反映するコストの特定(例:作業、在庫、輸送)

表3.3 直接製品利益(DPP)

 収益
販売コスト
粗利益
値引額
調整後粗利益
倉庫費用
輸送費用
小口販売コスト
直接製品利益

 製品の性質及び関連コストは品目ごとに非常に多様(容量、重量、パッケージ数、取扱コスト、占有面積、回転率等)であるため、小売業者は品目ごとにDPPを観察する必要がある。同様に、売り場面積には限界があるため、1平方メートル当りのDPPはパフォーマンスを測定する際の重要な要因である。

 表3.4は、小売業者の配送システムにおいて、製品別に1平方メートル当たりのDPPが総利益とどれほど異なるのか示している。

表3.4 直接製品収益性(DPP)

 総利益DPP平均DPP/㎡
 
離乳食113.40.11
大豆及び米113.90.24
ショートニング/オイル117.30.98
紙製品197.20.47
ケーキミックス1910.10.44
ゼリー/ジャム2216.71.01
家庭用掃除機2417.31.05
アイスクリーム236.20.99
バター104.61.97
冷凍果物3423.12.60
冷凍フルーツ2417.33.28
タバコ1213.26.56
歯磨き粉3118.61.42
ティッシュペーパー15(0.01)

 サプライヤーにとってのDPPの重要性は、顧客サービス戦略の主要目的が顧客の所有コストを削減するという命題に基づいている。つまり、サプライヤーは自分の製品をよく観察して、「製品の性質を変えるか、流通方法を変えることによって、顧客のDPPにどんな良い影響を与えることができるだろうか」と自問しなければならないのである。その例は以下に示すとおりである。

 包装形態以外にも、包装サイズを変える、配送回数を増やす、店頭直送にするといった方法で1平方メートル当たりのDPPを改善するなど、製造者またはサプライヤーが変更することのできる要素はたくさんある。

■ 直接製品収益と商取引 ■    今日まで、DPPは個々の品目を分析することに用いられることが大半であった。(以下のマトリックスを参照)  米国では、P&Gがアイボリーシャンプーのパッケージの形状を変えることで、広告料をケース当り29セント削減することができた。従来の丸型ではなく、円筒型のプラスティックボトルを使用したことで、配送経費、作業費、保管費用を削減できただけではなく、斬新な形が受けて売上が伸びたのである。類似のケースとしてScottがトイレットペーパーのパッケージ形態を変えたことが挙げられる。現在、1ケース当たり商品の11%増、1パレット当たり1ケースの6%増でパッケージされている。形状を変えることにより、パレット全面を有効に利用できるようになり、その結果ダメージや返品も減らすことができた。年間1,600万ケースを超える配送量がセーブされたことは大きなメリットである。  配送の少量化は製品収益性改善を求める小売業者の要望を反映している。多くの製造業者は配送センターへの合い積みを要求され、多くの小売業者は見本分だけを個々の店舗に提供する配送施設を運営している。  洋服の迅速な配送は小売業者へある課題を与えた。商品が陳列に間に合う様に配送されれば、アイロンがけの人件費が削減されるとともに、顧客が商品を手に取るまでの貴重な時間もセーブできるのである。Marks & Spencer や多くの高級ファッション店はこれらのことを実現しようとしたが、設備投資や保管スペースの拡充といったトレードオフも発生したのである。  DPPの究極は合理化である。Woolworthsは広い業務範囲でこの技術を利用してロスの出るラインを排除した。  化学会社のBootsはメインフレームに沿ったDPPシステムを徹底分析した結果、ペットフード部門を完全に切り離した。この決定は、特にMarks & SpencerがBoots撤退後すぐにペットフード業界に進出して以来、常に見直されている。  Coca-Cola Schweppesは大手スーパーマーケットと連携して、ソフトドリンクを41から18品目に、サプライヤーを7社から2社へ削減することにより何とか生き残ることができた。この決断によって大きなロスが生じるどころかロスが改善され、収益性が20%、価値にしておよそ700,000ポンドの改善されたのである。   マーチャンダイジング・マトリックス  
D P P(ユニット)宣伝・売場格上げ 動機刺激・価格の見直し宣伝促進・効果を最大にする陳列 店頭在庫の維持・増量 
売場面積削減・選択肢削減 価格の見直し・廃止作業見直し・価格の見直し 売場格下げ・宣伝費削減 
   
  ボリューム(ユニット) 

コスト・ドライバーと活動基準原価計算

 本章の冒頭で簡単に説明した様に、特にロジスティクス・マネジメントに関しては、従来の原価計算方法では不充分である。その問題点は次のとおりだ。

  • 異なった顧客 /流通チャネル/マーケットセグメントについての目に見えないサービスコストが把握されないでいる。
  • コストの区別が細分化されていない。
  • 全部原価配分に重点が置かれている。
  • 従来の会計システムはアウトプット志向ではなく、社内だけで機能している。
  • 企業は製品コストについては理解しているが顧客コストを理解していない。しかし利益を生むのは製品ではなく顧客なのである。

 これらの根底にあるのは、コストはロジスティクス・パイプラインで発生するため、そのコストが認識しづらいということである。理想を言えば、ロジスティクス・マネジメントに必要なのは、製品及びオーダーが顧客に届く際のコストを認識することである。

 この問題を克服するには原価計算の基準を根本的に見直す必要がある。つまり、全ての支出を(任意の基準によって)製品等に配賦しなければならないという考えを変え、支出を細分化し、資源を消費する活動に配賦するという方向にするべきである。活動基準原価計算(ABC)のポイントは、コストを発生させるロジスティクス・パイプラインに沿って、資源を消費する「コスト・ドライバー」を把握することである。例えば、注文に対するオーダーピッキングのコストを尋ねられたとき、従来であればその平均コストを基に算出していただろう。活動基準によるアプローチでは、一つの注文でのライン活動がピッキング資源を消費しており、こうしたライン活動をコストドライバーとしてとらえるのである。表3.5ではABCアプローチを従来のものと対比させている。

 活動基準原価計算の利点は、顧客ごとに異なるオーダー方法および流通に関して、その顧客特有な性質を個々に把握できる点である。ピッキングライン当りのコストや配送当りのコストのように、コストがいずれかの活動に配賦されれば、真のサービス当りのコストが明確になってくるのである。ABCも厳密にはコスト配賦方法ではあるが.従来の方法に

比べてより論理的基準を利用した配賦が実施されているのである。

表3.5 活動基準原価計算 / 従来のコスト基準

従来のコスト基準千ポンド活動コスト基準千ポンドコスト・ドライバー
給与(社員)550 セールスオーダー 300オーダー数
賃金(パート)580 在庫保有 600発送
減価償却250ピッキング 300オーダーライン数
賃料/電気/電話700包装 100オーダーライン数
メンテナンス100積み付け 200重量
燃料200輸送 500顧客所在地
  顧客への引渡し 200配送回数
  問題解決 380オーダーライン数
   2,380 2,580 

 活動基準原価計算と本章の前半で紹介したミッション原価計算には類似点がある。本質的にミッション原価計算とは、あるマーケットセグメントをターゲットとしたロジスティクス/顧客サービス戦略により発生する特有なコストを特定することである。つまり、企業が限られた資源の中で、多様なマーケットのサービスニーズにより効果的に対応するための方針を策定することが目的なのである。支出に見合った利益の増加がなければ、コストをかける意味がない。

ミッション原価計算を有効に実施するには次の4段階による方法が考えられる。

  • カスタマーサービス・セグメントを定義する
    顧客ごとに異なるサービスニーズを特定するために第2章で説明した方法を用いる。すべての顧客が同質の均一なサービスを望んでいるのではない。顧客ごとに要求に応じた対応を取るというのが大原則である。
  • サービスコストの中で影響を与える要因を特定する

ここではサービスコストに、直接的または間接的に影響を与えるサービス要素も含まれる。例えば、プロダクトミックス、製品加工品、小型貨物/配送回数/直接配送といった配送形態、販売支援、特別配送などである。 

  • カスタマー・セグメントを支援するために使用される資源を特定する
    これは活動基準原価計算とミッション原価計算の原則を同時に満たすものである。ABCの基本原則は、コストを生む活動を特定し、そこにあるコスト・ドライバーを定義することにある。このコスト・ドライバーはオーダーごとのライン数、活動する従業員数、在庫支援、配送回数といったものであるかもしれない。
  • 顧客タイプ/セグメントごとに活動コストを帰属させる
     「回避可能」の原理を用いれば、サービス・ニーズへの対応に伴う資源の使用によるコストの増加は顧客に帰属することとなる。ここで留意しなければならないのは、これはコスト配賦ではなく、コスト帰属である。つまり顧客が資源を使用しており、コストの適切な配賦は顧客に帰属するのである。

 これらを実践するためには、ビジネスにおけるコストのコード化を再構築するという必須条件がある。言い換えれば、コード化によってオーダーを受けてから最終的にデリバリーが完了し、請求及び集金するに至るまでの過程で発生するコストを集約することができる。

 ロジスティクス・コスト分析の目的は、より効果的な資源の配賦を可能にする、信頼できる情報を経営者に与えるということだ。これまで見たきたように、ロジスティクス・マネジメントとは最終的には最も効率的な方法で顧客の要求に応えることだとすれば、最も正確で意味あるデータの入手を可能にすることが極めて重要なのである。