サプライチェーンマネジメント論

9レッスンの0が完了(0%)。

第6章 戦略的リードタイム・マネジメント

このレッスンへのアクセス権がありません

コース内容にアクセスするには、登録またはサインインしてください。

  「時は金なり」とは、ことわざとしては、使い古された陳腐な表現であろうが、ことロジスティクス・マネジメントの世界に限っては、このことわざは問題の核心を示している。時間はロジスティクス・マネージャーにとってコストを意味するだけではなく、長いリードタイムは顧客へのサービスを損なうのである。第一に、コストに関する限り、ロジスティクス・パイプラインとパイプラインの中に組み込まれている在庫との間には直接的関係が存在する。つまり、製品がパイプラインの中にある間は毎日コストを発生させる在庫が生じているのである。第二に、長いリードタイムは顧客の要求に対するより遅いレスポンスを意味する。したがって、今日の国際的競争環境におけるデリバリースピードの高まる重要性を鑑みれば、高いコストと遅いレスポンスの組み合わせは市場での敗北につながるのである。

  生産財であろうが、消費財であろうが、すべての市場の顧客は時間に敏感になっている。言い換えれば、顧客は時間を評価し、その評価が彼らの購買活動に影響を与えている。したがって、例えば、生産財市場において、バイヤーは、もっとも短いリードタイムを持ち、バイヤーの品質水準を満たすことのできるサプライヤーから仕入れる傾向にある。消費財市場においては、消費者は購入時に入手可能なブランドの中から選択する。したがって、もし好みのブランドが品切れならば、そのブランドに代用可能なブランドが購入されることになるであろう。

  過去、価格が購入決定に影響を及ぼす要素として最も重要であった。現在、価格はいまだ重要ではあるが、サプライヤーやブランドを選択する際の主要な決定要因は「時間コスト」である。時間コストは、端的に言えば、顧客がデリバリーを待っている間や代用可能なものを探している間に負担しなければならない付加的なコストである。

  競争変数としての時間の重要性を見直すことのできないサプライヤーや、保有するシステムが急速に変化する市場のニーズに合わないサプライヤーにとって、時間コストが大きな負担となり得るのである。1994年、世界のトップクラスのパソコンメーカーであるコンパックは、ラップトップおよびデスクトップコンピューターの品切れによって、500万ドルから1,000万ドル売上が減少したと推定した。

  これとは反対に、1990年代を通じて、ローラアシュレイの小売りチェーンは、サプライチェーンの失敗の結果、不適切な場所および不適切な時に在庫を抱えすぎたため著しい値下げ販売をよぎなくされ、重大な財務上の圧力を被った。

  タイミングが最も重要なのはハイテク産業やファッション業界だけではない。時間に敏感な市場を成長させる多くの圧力の中には以下のものが含まれている。

1. ライフサイクルの短縮

2. 在庫削減に対する顧客の圧力

3. 需要予測に頼ることがリスクとなっている変動の大きい市場

1. ライフサイクルの短縮

製品ライフサイクルの概念は十分確立されている。多くの製品にとって、発売から最終的な売上減少までの認識できるパターンが存在している。(図6.1を参照)

図6.1 プロダクト・ライフサイクル

Sales           売上

Introduction    導入 

Growth          成長  

Maturity                成熟 

Saturation      飽和 

Decline         売上減少

        Time            時間

  過去数十年間の特徴はこれらライフサイクルの短縮である。タイプライターのケースを例として取り上げてみよう。初期の機械式タイプライターは約30年のライフサイクルを持っていた。つまり、このライフサイクルの期間ほとんどモデルチェンジは行われなかったのである。これらの機械式タイプライターは約10年のライフサイクルを持つ電動タイプライターに取って代わられた。電動タイプライターは4年のライフサイクルを持つ電子タイプライターに取って代わられた。現在ワープロがその座を引き継いでおり、1年かそれよりも短いライフサイクルとなっている。

  このような状況において、新製品開発や市場の開発のため、もしくは、市場の需要に応じるために利用できる時間が明らかに大きく削減されている。したがって、製品開発、生産、および、ロジスティクスを「すばやく構築する」能力が競争戦略の重要な要素となっている。図6.2は市場参入が遅れることによって需要増に追いつくことが遅くなる効果を示している。

図6.2 ライフサイクル短縮化による製品投入タイミングの重要性増大

Sales                   売上

        Market                  市場           

        Late entrant            遅れて参入

        Obsolescent stock       陳腐化した在庫

        Time                    時間

        Less time to make profit        利益を上げるための短縮化

        Higher risk of obsolescent      陳腐化のより高いリスク

  しかしながら、重要なのは単に製品化までの時間だけではない。いったん製品が市場に出回れば、すばやく需要に反応する能力が同様に重要である。つまり、市場に製品を補充するリードタイムが、製品のライフサイクルの間、需要を掘り起こす組織の能力を決定づける。第7章では、クイックレスポンスの仕組みについて細かく見ていくが、オーダーからデリバリーまでのサイクルの削減を達成できる企業は、レスポンスのより遅い競争相手に強い優位性を持つことが明らかになるであろう。

2. 在庫削減に対する顧客の圧力

ここ数年のもっとも著しい現象の一つは、ほぼ全世界的に企業が在庫を削減しようとしていることである。在庫が原料であるか、部品であるか、仕掛品であるか、あるいは、完成品であるかにかかわらず、在庫に固定された資本を解放し、同時にその在庫を保有するコストを削減するために、在庫削減の圧力が働いている。この圧力によって在庫を削減している企業は、顧客に対する高い柔軟性と機敏なレスポンスの観点から自らが得ている優位を認識しているのである。

  川上にあるサプライヤーへもこの流れが波及している。今や、サプライヤーがジャスト・イン・タイムのデリバリー方式を提供できることが重要である。期限通りのデリバリー、つまり、顧客が要求した時間にすべてのオーダーをデリバリーすることが、オーダー獲得の第一条件となっている。

  多くの企業がいまだに、ジャスト・イン・タイム・デリバリーを要求する顧客にサービスを行う唯一の方法は、サプライヤーが顧客に代わって在庫を抱えることだと考えている。そのような顧客の要求はサプライヤーが顧客に近い場所に在庫を抱えることによってたいてい満たすことができるが、一方で、これは単にコスト負担をサプライチェーンの一部分から他の部分にシフトしているだけであり、さらには全体のコストがより高くなっている可能性さえある。それよりも必要なことは、サプライヤーが可能な時はいつでも在庫に代わり得る機敏なレスポンスをすることである。

図6.3 古典的サービス/コスト・トレードオフからの脱却

        Time compression                        時間圧縮

        Service enhancement             サービス向上                          cost reduction                        コスト削減

  本質的に機敏なレスポンスはサプライチェーンの中の時間圧縮によって達成される。顧客はよりすばやく、より柔軟性の高いサービスを得られるだけでなく、パイプラインが短縮されることにより、より低いコストも享受できるはずである。図6.3は時間圧縮によって企業がサービスとコストの古典的トレードオフから脱却できることを示している。つまり、より高いサービス・レベルか、より低いコストの二者択一の状況から、両方を得ることが可能な状況への変化を意味する。

3.需要予測に頼ることがリスクとなっている変動の大きい市場

  ほとんどの企業で起きている問題は需要予測の不確実性である。たとえどんなに高度な需要予測が行われたしても、市場の変動によって需要予測は間違うであろう。多くの需要予測における誤差は不適当な予測方法の結果発生するが、これらの問題の根本原因はリードタイムが長くなるにしたがって需要予測の不確実性が増加するということである。

  ほとんどの市場で、競争行為、販売促進、価格変動への予期しないレスポンス等によって、または、仲介業者の再発注ポリシーの結果として、需要の変動は増加する傾向を見せている。このような状況において、正確に需要の短期変動を予測し得る方法は存在しないといってよいであろう。

  すべての需要予測は間違う傾向にあり、予測範囲がより将来にわたれば、誤差も大きくなる。図6.4はどのように需要予測の誤差が予測期間の長さに対して急激に増加するかを示している。

図6.4需要予測の誤差と計画範囲

Forecast error  需要予測の誤差

        Time            時間

  この問題に対する伝統的な対応策は、需要予測の誤差に対する予防のために安全在庫を増やすことだと考えられてきた。しかしながら、需要予測の誤差を減らすためにはリードタイムを短くすることのほうが間違いなく効果的だと思われる。もしより短いリードタイムがより効率的な競争力へつながるとすれば、一体どうすればリードタイムを削減できるであろうか。

リードタイムの概念

  顧客の観点からはたった一つのリードタイムがある。つまり、オーダーからデリバリーまでの時間である。市場において時間ベースの競争が激しくなればなるほど、明らかにリードタイムは重要な競争変数となる。にもかかわらず、このことはリードタイムの部分的な見方のみをあらわしている。サプライヤーの視点からは、オーダーを現金化することに要する時間が重要であるように、原料が最初に調達された時から顧客の支払いを受ける時まで運転資金が投下されている時間のトータルが重要なのである。

  つぎにこのリードタイムの概念をそれぞれ検証してみよう。

1 オーダーからデリバリーまでのサイクル

  マーケティングの観点からは、顧客のオーダーを受けてからデリバリーを行うまでにかかる時間(オーダーサイクル・タイム(OCT)と呼ばれる)が重要である。今日のジャスト・イン・タイムの環境では、短いリードタイムは競争優位の重要なソースである。しかしながら、同時にそのリードタイムの確実性も重要である。時間通りにデリバリーを行うことへの要求は、短いリードタイムに対する要求に比べればより強いので、デリバリーの確実性が、少なくともある点までは、オーダーサイクルの長さより重要であるとの議論が実際にはできるかもしれない。しかしながら、今まで見てきた通り、長いリードタイムはより長い期間の需要予測を必要とするので、顧客はデリバリーがさらに短い期間で行われるように圧力をかけ続けるであろう。

図6.5 オーダーサイクル

Customer places order   顧客のオーダー 

Order entry             オーダーエントリー

Order processing                オーダー処理 

Order assembly          オーダー組み立て 

Transport               輸送 

Order received          オーダー受取

  これらのチェーンの中にあるそれぞれのステップは時間を消費する。ボトルネック、効率の悪い処理、および、処理されるオーダー量の変動によって、これらの行為が完結するまでに要する時間に大幅な違いがある。全般的な効果はデリバリーの確実性の大幅な減少につながる。図6.6は、5日間から25日間までの範囲を取り得るオーダーサイクルの累積効果を示している。

図6.6変動性を持つトータル・オーダー・サイクル

出展 Stock, J.R. and Lambert, D.M., Strategic Logistics Management, 2nd edition, Irwin 1987

1. Order communication                オーダーコミュニケーション

        Time range                      期間 

1 to 5 days                     1から5日間

2. Order entry and processing         オーダーエントリーおよびオーダー処理

Time range                      期間 

1 to 3 days                     1から3日間

3. Order picking and production         オーダーピッキングもしくは生産

Time range                      期間 

1 to 9 days                     1から9日間

4. Transportation             輸送

Time range                      期間 

1 to 5 days                     1から5日間

5. Customer receiving                 顧客受取

Time range                      期間 

1 to 3 days                     1から3日間

  オーダーが在庫から調達できずに、外部の売り手によって生産されるか、組み立てられるか、もしくは、調達される場合には、オーダーからデリバリーまでの時間のトータルに更におおきなばらつきを持つ可能性があるため、リードタイムはより長くなるであろう。図6.7はそのように長くなったリードタイムに含まれる主な活動を示している。

図6.7リードタイムの構成要素

Ordering reception lead time    受注リードタイム

Planing lead time               計画リードタイム                              Commercial and planning lead time        営業および計画リードタイム

        Processing lead time            工程リードタイム

Materials planning and purchase lead time           

原料計画および調達リードタイム

Supplier lead time              サプライヤーリードタイム

Transport lead time             輸送リードタイム                     

Materials lead times            原料リードタイム

Reception and inspection lead time        受取および検品リードタイム

        Assembly release and order picking         分解およびオーダーピッキング

Waiting time                    待ち時間

Processing times                工程時間                             

Assembly lead times             組み立てリードタイム

Transport time to next stage (e.g. To inventory assembly)

次の工程への輸送時間(例えば組み立て品の在庫などへの)

Despatch preparation time(documents, package) 

        配送準備時間(書類準備、梱包)

Distribution lead times                 配送リードタイム

Transportation time to customer         顧客への配送時間       

        Installation lead times         据付リードタイム

2.キャッシュからキャッシュへのサイクル

  すでに見たように、企業にとってオーダーを現金化するまでどのくらいの時間が掛かるのかということが基本的に重要である。現実には、オーダーを発注したり、請求書を作成したり、支払いを受け取ったりするのにどのくらい時間が掛かるかということが問題なのではなく、原料の調達から完成品までのパイプラインがどれくらい長いかということが問題である。なぜなら、パイプラインの中では、リソースは消費され続け、運転資金を調達する必要が生じるからである。

  原料および部品の供給と調達が決定された時点から、生産、組み立てを経て、最終的なディストリビューション、アフターサービスにいたるまで、時間は消費され続けている。その時間は、原料、仕掛品、もしくは、未着品としての時間であろうが、オーダーのプロセス、もしくは、補充オーダーにかかる時間であろうが、あるいは、生産等に掛かる時間であろうが、順番待ちやボトルネックの時間であろうが、パイプラインの中の在庫日数によってあらわされる。ロジスティクス・リードタイム・マネジメントは、このパイプラインを管理することである。図6.8はリードタイムが調達から支払いまでどう累積されていくのかを示している。

図6.8 戦略的リードタイム・マネジメント

        Cumulative lead time            累積リードタイム

        (procurement to payment)                (調達から支払いまで)

Raw material stock              原料在庫

Subassembly production          部品生産

Intermediate stock              中間在庫

Product assembly                        生産

Finished stock at central warehouse 中央配送センターでの最終製品在庫

In-transit                      輸送

Regional distribution center stock        地域拠点配送センターでの在庫

Customer order cycle (order-cash)       

カスタマー・オーダー・サイクル(オーダーの現金化)

  この章の後半で見るように、原料の供給から最終ユーザーまでのパイプラインが長くなればなるほど、そのシステムの需要に対するレスポンスはより鈍感となるであろう。また、より長いパイプラインは最終需要の「見通し」を曇らせ、その結果、生産および調達の決定と市場の需要をリンクさせることが困難となっていることも事実である。したがって、サプライチェーンを通してそれぞれの段階で安全在庫を保有することが不可避であると考える。経験則では、パイプラインの中での安全在庫量はパイプラインの長さの二乗にしたがって増加している。

  これらの問題を乗り越え、変動する需要にタイムリーにこたえるためには、リードタイムを管理するための新しく根本的に違ったアプローチが必要である。

ロジスティクス・パイプライン・マネジメント

  ロジスティクス・リードタイムをうまく管理する鍵はパイプライン・マネジメントである。パイプライン・マネジメントとは、その活動を通して、生産リードタイム、および、調達リードタイムを市場の需要にリンクさせることである。同時にパイプライン・マネジメントは、市場の需要にレスポンスするスピードを増す方法を模索することである。

  ロジスティクス・パイプライン・マネジメントの目的は以下のとおりである。

  • より低いコスト
  • より高い質
  • より高い柔軟性
  • より早いレスポンス

  これらの目的は、一つの組織としてサプライチェーンを管理すること、パイプラインの長さを短縮すること、または、パイプラインの中の流れを早くすることを追求することによって達成される。サプライチェーンの効果を計る時、行われている活動の多くがその価値以上にコストを増やしているなどということがよく見受けられる。例えば、パレットを倉庫へ移動し、倉庫内で移動および選別を行い、また運び出すことは、全体として多分、何も価値を生み出さず、トータルコストを大幅に増やしているであろう。第4章ですでに定義したように、付加価値を生む活動は製品を「売れる」ようにする活動である。すべての活動がコストを付加することは避けられないことではあるが、ロジスティクス・パイプラインの中のマイナーな活動だけがコストを増やしているということもまた事実である。逆に、付加価値を生まない活動は、例えば、パフォーマンス、機能、質、期待される価値などの顧客の利便を損なわずに減少できる活動である。ある企業は、オーダーからデリバリーまでのトータルオーダーサイクルを見て、たった10パーセントの時間だけが付加価値を生む活動に消費されており、残りの90パーセントの時間が実際には単にコストを増やしているだけであることを発見した。図6.9は、時間消費の点でチェーンを圧縮し、その結果、コストを増加させる時間を削減するというロジスティクス・リードタイム・マネジメントの目標を示している。

図6.9 付加コスト時間 対 付加価値時間

Value-adding time (Time, place and from utility)

付加価値時間(時間、場所、および、形態効用)

Raw material stock              原料在庫       

Production                      生産  

Finished stock                  最終製品在庫  

In-transit                      輸送  

Regional stock                  拠点在庫       

Customer delivery               顧客へのデリバリー

Cost-adding time (Promotion, storage and transport costs and the time cost of money)                

付加コスト時間(販売促進、在庫および輸送費用、および、資金の時間コスト)

  パイプライン・マネジメントにおいては、パイプラインの中の付加価値時間と付加コスト時間の割合を改善する方法を見つけ出さなければならない。図6.10は戦略的なリードタイム・マネジメントの目標、つまり、時間消費の観点から付加コスト時間を削減するためにチェーンを圧縮することを示している。

図6.10 付加価値を生まない時間の削減がサービス向上とコスト削減につながる

Value-adding time               付加価値時間

Raw material stock              原料在庫       

Production                      生産  

Finished stock                  最終製品在庫  

In-transit                      輸送  

Regional stock                  拠点在庫       

Customer delivery               顧客へのデリバリー

Cost-adding time                        付加コスト時間

  パイプライン・マネジメントでは、在庫を増やし、レスポンスタイムを増やすパイプライン中の障害やひずみを取り除くことが重要である。これらの障害やひずみは、長引く段取りと変更の時間、ボトルネック、度を過ぎる在庫、連続的に起こるオーダープロセス、および、不確かなパイプラインの見通しによって生じる。

  ロジスティクス・プロセスの改善は、リードタイムの個々の部分ではなく、リードタイムの全体に視点をあてることによって達成できる。特に個々のリードタイムのつなぎ目は細かい点まで吟味されるべきである。これらのつなぎ目の存在によって、ロジスティクス「バリュー・エンジニアリング」を行う意味が出てくるのである。

ロジスティクス・バリュー・エンジニアリング

  多くの企業が、生産にかかわる時間を短縮するという目的を持って、工場のオートメーションに多大な投資をしてきた。あるケースでは、完成まで何日も要したプロセスが、今では何時間かで完成し、また、何時間も掛かった作業が何分間かで終了するようになった。製品の生産に掛かる時間をスピードアップするオートメーションに何百万ポンドもつぎ込んだ同じ企業が、製品を配送センターや倉庫に何週間も販売するまで寝かせているのである。サプライチェーンが構築された方法をリエンジニアリングすることを通じて、どのように全体の時間を短縮できるかを検討するため、サプライチェーンの異なるステージを横断的に検証することが必要である。

  マネジメントが根本的に間違っているのは、長いリードタイムが安全を確保し、不確実性をカバーすると考えることである。実際にはその逆が正しい。企業がその調達リードタイムや、生産リードタイム、デリバリーリードタイムをゼロまで削減するというユートピアを想像してみよう。言い換えれば、どんなアイテムであろうが、そのアイテムを顧客がオーダーするやいなや、その製品は生産され、瞬く間にデリバリーされるのである。そのような場合、予測の必要も、在庫の必要もないし、同時により広い多様性が顧客に提供できるであろう。

  明らかにゼロ・リードタイムは現実の世界では存在するはずもないが、どんな組織でもロジスティクス・パイプラインの各ステージでリードタイムを短縮し、できる限りゼロに近づけることをそのターゲットにすべきであろう。たいていの場合、簡単な手続の変更によって、トータルリードタイムを短縮できる機会が見受けられるのである。

  この点を強調するために3つの例をあげよう。

例1 サイクルの構築/生産リードタイム

  商品のデザインやアレンジも行うあるファッション業界の小売業者は、年間を通じて二つのサイクルで活動することに慣れている。つまり、これは、ほとんどのファッション業界が春夏コレクションと秋冬コレクションに基づいて活動しているからである。

  その活動の方法は、事前にデザインを行い、そのシーズンを特定化することである。そして、例えば、2月や3月にサプライヤーを秋物のセールスプログラムに参加させるのである。このリードタイムは、商品を展示し、フランチャイズからの了解を得るとともに、サプライヤーの供給を確保するためにも必要である。商品がアウトレットに配送される準備が整った時点で、配送は一つのスタイルの中でサイズごとに3単位もしくは6単位のいずれかになる傾向にある。割り当てられた商品を販売するアウトレットの能力やシーズン後半に第二のトランシュを配送しなければならない可能性などは考慮せずに、配送量のサイズの選択は事務的なレベルで決定される。この小売業者は一般的に、多くのサプライヤーを確保することにより特によく販売されたスタイルに対しては、それらのサプライヤーの工場がすでに次のシーズンのものを引き受けているので、販売シーズン中にレスポンスすることができない。この小売業者はまたスタイルおよびサイズ両方の変動にこたえるためにアウトレット間で商品を移動させることもできない。この経営方法の結果、在庫保有期間は4ヶ月以上にのぼり、商品の60パーセントが「最終セール」でディスカウントされて売られる。

  この小売業者の在庫融資のコストと値下げにより失ったプロフィットは、実際の売上高の30パーセント近くにのぼり、年間生産予算全体にほぼ等しくなる。この小売業者がリードタイムの効率性を少し改善すればプロフィットは2倍になるであろう。産業形態は変更できないという言い訳に頼るのでは不十分である。イタリアのブランド企業であるベネトンは、需要のポイントから工場まで一貫したリードタイム・アレンジメントを行う事によって彼らのトータルサイクルを4週間までに短縮した。

例2 需要の予測とオーダー

  あるコンピューターメーカーは世界各地に製品を供給し、世界各国の市場で販売を行っている。部品供給を可能にし、工場積み込みを計画するために、このコンピューターメーカーの工場とサプライヤーは6ヶ月間の「生産計画」を必要としている。また、国内販売とマーケティング活動には、このリードタイムにしたがった需要予測が必要となる。急速に変動する市場のために、それぞれの国では、ひどく遅い在庫回転と顧客に対して顧客が本当に欲する商品を供給できないという二つの困難に直面している。需要予測の正確性はマーケティング会社のレベルで50パーセント以下であり、需要が頻繁に変動するために、工場とサプライヤーの間で供給の正確性について常に議論が起こる。

  この状況の結果、在庫は本当に必要とされる量より40パーセント多くなり、技術の陳腐化および棚卸し評価減の危険が増加する。また、供給不能による大幅な販売減も起こる。このコンピューターメーカーの当期営業の機会費用は粗利益率のたった5パーセントであった。

  供給計画に大幅な変更を加えるためのリードタイムは4ヶ月かそれ以上にのぼり、このように低い予測の正確性では、需要予測に対して変更を加えることに意味があるのか幾分疑問である。

  さらに、経験によって、このコンピューターメーカーの経営者は、顧客サービスを損なわないために何週間もの高いレベルの安全在庫を保有したがる。時間はしっかりとこの活動に組み入れられ、主要なコストを生み出している。例えば、以下のようである。

        供給のリードタイム      4ヶ月間

        安全在庫                        1ヶ月間

        予測の見直し            2ヶ月間

例3 倉庫ピックと配送

  現場のサービス技術者に部品を配送しているある企業は、その技術者に修理中の機械に必要な部品を緊急に届けることのできる「ホット・デリバリー」と呼ばれる配送サービスを確立した。このサービスのコンセプトは簡単であった。その日にオーダーを受けてピックし、その夜に発送し、翌日には受取、取り付ける。経営者が喜んだことには、このコンセプトは強い指示を受け、この方法により発送されるアイテムの割合が60パーセントにまで急激に増加したのである。その後の調査で、この方法で発送されたすべての部品のうち70パーセントまでもが受取から7日間取り付けられていないことが判明した。この企業は、世界的に24時間が当然と考えられている修理の完了に2週間も掛けたり、部品の配送だけで24時間も掛けるなどの、リードタイムの低い管理能力によって、1年に10万ポンド以上の高価な配送費用を事実上無駄にしていたのである。緊急でないのに24時間ベースで扱われる配送によって、部品が一時的に在庫切れとなり、本当に緊急のサービスを必要としている顧客に影響を与えていることも判明した。

  以上の例は単に企業システムの中にはめ込まれた個々のリードタイムの事例である。すべての例において、より効率的なリードタイムマネジメントを行う事により、コストを削減し、顧客サービスを向上させる機会はかなりある。

  これらの例は、企業がその資産から最大の価値と最適顧客サービスパフォーマンスを確保するためには、その企業のシステムにあるすべてのリードタイム構成要素が、個別的にだけでなく、ビジネス全体に与える影響の面でも、問題にされなければならないということを明らかにしている。

  それならば、なぜ企業はこのアイディアをもっとすばやく取り上げてこなかったのか。その理由は4つあるように思われる。

  • ほとんどのマネジャーがパイプラインの入り口から出口までのプロセスを理解していない。結果として、個々のプロセスの川上および川下両方において、その仕事を遂行する担当者の利便性や、部門ごとの垣根を守りたいという欲望や、その仕事の結果に対する無理解等をもとにして仕事が進められている。
  • 変革のための方針が主として部門ごとであり、システム全体のコストをめったに反映していない。そのため、例えば、ジャスト・イン・タイムに基づく製造業が、単に在庫をサプライヤーに押し付けたり、完成品倉庫に押しやったりしているだけかもしれない。この事が実際にトータルコストを押し上げ、柔軟性を低下させている。
  • 「息つく暇」を生み出す方法として、また、レスポンスのための隠れた柔軟性を提供する方法として、個々のリードタイムはそれぞれの管理人によって「保護」されている。したがって、個々の部門ごとのリードタイムはたるみを持つことは避けられず、これらが企業の処理システムに取り込まれた場合には、制度化されてしまう。
  • システムの中でリードタイムは特に考える必要のない要素として扱われている。ほとんどの経営者があえて企業のコンピューターシステムを問題にしないであろうし、そのシステムが仕事を遂行する正確さについてはさらに問題としないであろう。結果として、システムは何年間も再吟味されていない、時代遅れで、不適切なリードタイムの制約に基づいて運営されている。

リードタイム・ギャップ

  ほとんどの組織は本質的な問題に直面している。その問題とは、調達し、生産し、完成品を顧客に配送するまでにかかる時間が、顧客がその商品を進んで待ってもよいと考える時間より長いということである。

  これがリードタイム・ギャップの基本である。図6.11はこの問題を示している。

図6.11 リードタイム・ギャップ

Procurement     調達                   

Manufacturing   生産                   

Delivery                配送

Logistics lead time     ロジスティクス・リードタイム

        Customer’s order cycle  顧客オーダーサイクル

 Order fulfillment      オーダー履行

リードタイム・ギャップ

  顧客のオーダーサイクルは、顧客がオーダーしてから商品を受け取るまでの、顧客が進んで待ってもよいと思う時間の長さを反映している。これはオーダー履行に充当できる最大限の期間である。ある場合には、これは月の単位で計られ、別の場合には、時間の単位で計られる。

  明らかに、製品の持つ特質同様、市場の競争状態は顧客が待ってもよいという意欲に影響を与えるであろう。したがって、顧客は特別なオプションを持った車であれば数週間でもよろこんで待つであろうが、タイヤの新しいセットであれば1日しか待たないであろう。

  旧態依然とした組織では、ロジスティクス・リードタイム(すなわち、商品の仕入れから製品のデリバリーまでのプロセスを完了させるためにかかる期間)とカスタマー・オーダー・サイクル(すなわち、顧客がデリバリーを進んで待っている期間)との間のギャップを埋める唯一の方法は在庫を抱えることである。この方法には通常需要予測も含まれている。したがって、ほとんどの企業が、市場の需要を予測し、その需要に先立つ在庫を持つ事でこの問題に取り組んできた。不幸にも、需要予測がいかに高度であろうとも、予測の正確さは常に完全ではないということは経験からわかっている。需要予測に関するすべての間違いが、多すぎるか、少なすぎるかにかかわらず、結局は在庫の問題となることもわかっている。

  需要予測の正確さを改善することは常に目標となる。しかし、需要予測の間違いを減らすためには、予測技術を改善するためにより多くの資金やエネルギーを費やするのではなく、むしろリードタイム・ギャップを小さくすべきである。

  ロジスティクス・リードタイムと顧客が要求するオーダーサイクルを完全にマッチさせた企業は予測の必要も在庫の必要もない。

  ロジスティクス・マネジメントとは、この二つのリードタイムの間にあるギャップを、たとえ埋めることができないとしても、小さくする方法を捜し求めることである。(図6.12参照)

図6.12 リードタイム・ギャップを埋める

Logistics lead time     ロジスティクス・リードタイム

                Customer’s order cycle  カスタマー・オーダーサイクル

  ギャップを小さくすることはロジスティクス・リードタイム(パイプラインの入り口から出口までの時間)を短縮することによって達成できる。一方、顧客のオーダーサイクルをロジスティクス・リードタイムに近づけることは、改善された需要の見通しを通じてより早く需要の傾向をつかむことによって達成できる。

ロジスティクス・リードタイムの短縮

  企業は一般的に供給源と最終顧客をリンクさせるための、物と情報のトータルな流れをうまく管理してこなかった。現在でも、このプロセスを効率よく行えるチャンスが信じられないほど多く存在する。

  統一されたシステムとしてサプライチェーンを管理する重要性を認識していない企業では、たいていプロセスの中の隣接したステージの間にあるつなぎ目と非効率的に行われる手続で、大量の時間が消費されている。

  どの部門も、マネジャー個人も、ロジスティクスプロセスの完全な見通しを持っていないので、全体のパイプラインを通して時間を短縮する主要な機会を認識していないことがよくある。ヨーロッパのある電機メーカーは、工場で何日間も掛かった原料の処理時間を何時間かまでに短縮したが、完成品の在庫が倉庫に3週間も眠っていることを長年認識しなかった。その理由は完成品の在庫が生産管理に関係しない配送部門の担当であったからである。

  同一部門内でさえ、時間を圧縮できる機会がかなり多くある。伝統的な作業研究や組織と手法の技術が軽視されていく傾向にある一方、企業がこれらのシステムにある基本的なプロセスを再評価し、リエンジニアリングする必要が大いにある。なぜそのようなやり方で仕事を遂行しているのかを問い直すことが最優先課題である。

  重要なのは単にペーパーワーク(およびぺーバーワークの削減による間違いの機会)の削減ではなく、むしろ書類の発行と配送にかかる時間の短縮である。注目すべき基本的原理は、時間の中の一時間ごとがパイプラインの中の在庫量に影響し、結局、市場の需要に対してレスポンスする時間に影響するということである。

  石油パイプラインがこの状況によく似ている。精製所から港までのパイプラインが500キロメートルの長さだとしよう。正常な状態であれば、パイプラインの中には500キロメートルの長さと同量の石油が存在する。もし、パイプラインの端で需要の変化が起こった場合、(例えば、違う等級の石油を要求するとすれば)、その場合変更された等級が需要の変化が起こった場所までたどり着くためには、500キロメートルあるもともとの等級が汲み出されなければならない。

  ロジスティクス・パイプラインの場合、時間は動きの遅いプロセスの中で消費されるだけでなく、原料、仕掛品、ボトルネックでの待ち、もしくは、完成品在庫といった、不必要な在庫保有によってもよく消費されている。

  ロジスティクス・プロセスは、スループットのすべての時間に焦点をあてることによって全体として最適化するしかない個々の活動のネットワークとして捉えることができる。プロセスの個々の要素や活動を最適化することによって管理しようとするどのような試みも、全体としてみれば決して最適化とはいえない結果につながるであろう。最適化生産技術(OPT)としてよく知られている制約条件の理論を開発したゴールドラットがこのロジスティクス・プロセスの見方に対して重要な貢献をした。

  OPTの本質は、ロジスティクス・チェーンのすべての活動を「ボトルネック工程」と「非ボトルネック工程」のいずれかに分類することである。ボトルネック工程はチェーンの中のもっとも遅い活動であり、たいていは製造工程であるが、オーダー・プロセスのような情報の流れの一部分の場合もある。システム全体のスループットはボトルネック工程の活動によって決まる。当然の結果として、システム全体でスループットを向上させるためには、ボトルネック工程に焦点をあて、可能な場合にはキャパシティーを増し、また、適切な場合には段取りや段取り時間を削減することが重要である。

  しかしながら、同時に非ボトルネック工程は同じように扱われるべきではないということも認識しなければならない。非ボトルネック工程においてスループットを向上させることは不要である。なぜなら非ボトルネック工程でスループットを向上させることは、単にボトルネック工程における不必要な在庫の積み増しにつながるからである。したがって、ボトルネック工程を生み出す非ボトルネック工程における供給は、ボトルネック工程における需要によって管理されなければならない。

  これらのアイデアは、全体のスループットを向上させ、同時にシステムの中の全在庫を削減することをねらいとする、ロジスティクス・システムのリエンジニアリングに対して重要な影響を与えている。このアイデアの目的は、より大きいバッチ量とより少ない段取りを含むスループット効率化のためにボトルネック工程を管理することであり、非ボトルネック工程においてはたとえより長い段取り時間が必要となってもバッチ量を最小化するということである。このことは仕掛品の流れを早くする効果を持ち、これらの「トランスファー・バッチ」をより大きな「プロセス・バッチ」に融合し、ボトルネック工程を通じてより速い流れを可能にする。非ボトルネック工程における待ち時間は関心事ではない。つまり、もしその待ち時間がボトルネック工程における仕掛品の待ち時間を削減する効果があれば、非ボトルネック工程での待ち時間は歓迎されるべきである。

  また、パイプライン時間を短縮する機会は、通常サプライヤーのロジスティクス・システムのつなぎ目で見ることができる。長々しい、書面による再オーダー・システムはトータル・リードタイムを著しく増加させる。顧客が彼らの使用データをサプライヤーと共有しないことはさらに大きな問題となり、これによってサプライヤーは需要を予測し、在庫を抱えざるを得ず、さらに問題を悪化させているのである。多くの企業が、もしデータを適切に管理すれば、数週間か数日間にまでに短縮できるかもしれないが、現実には何ヶ月もの補充リードタイムに直面している。

需要の見通しの改善

  顧客のオーダーサイクルを「長くする」ことができるかもしれないという考えは、一見信じがたいように思えるかもしれない。確かに顧客が説得されて彼らのオーダーがデリバリーされるのをより長い間待つことなど期待できない。それどころか、すでに見てきたように、顧客はオーダーサイクルの時間を短縮するよう圧力を掛けている。

  だが、顧客のオーダーサイクルを長くするということは、顧客の需要の兆候をより早く得ようとすべきである、ということを意味している。第一にすべての需要浸透点がパイプラインのはるか末端にあり、第二に本当の需要が視界から隠れているため、結局われわれはオーダーばかりに頼る傾向にあるということがしばしばある。これらの両方の原因については更なる説明が必要となろう。まずは需要浸透点の概念の説明をしよう。

  需要浸透点とは、端的に言えば、本当の需要が計画に適合するロジスティクス・チェーンの中のポイントである。このポイントから川上では、すべてが予測や計画によって動かされている。川下では、われわれは顧客の需要に対応することができる。理想的には、もし需要が明らかでなければ、何も購入されず、生産されず、船積されないように、全てのことが需要主導型であるべきだ。

  ロジスティクス・マネジメントの一番の関心事は、需要浸透点をできる限り川上に押し上げる方法を探し出すことである。製造と購買が現在行っているように、より早く市場の現実を知るために情報を利用することも一つの方法かもしれない。この方法は第7章で扱うことにする。また、製品の最終確約を製品の最終形態まで延ばすことによっても、オーダー浸透点を川上へシフトすることができる。たとえば、ペイント・メーカーは販売の段階でベースとなる限られた種類の色を混ぜ合わせることによって、顧客に無限の種類のペイントを提供している。予測に対する在庫として広範囲な最終製品を保有するのではなく、限られた数のアイテムを保有するだけで、大幅に在庫を削減するとともに、顧客へのサービスを向上させ、顧客の選択の幅を増やした。図6.13は異なる産業と市場からみて、可能な需要浸透点の範囲を示している。

図6.13 需要浸透点と戦略的在庫

Driven by demand                需要主導

Driven by forecast      需要予測主導

Plants                  工場           

Distribution center     配送センター               

Warehouses              倉庫           

Depots                  デポ

  顧客のオーダーサイクルを長くするためには、彼らの要求をより早く知ることである。多くの場合、サプライヤーは、オーダーが届くまで顧客の実際の使用量を知らされない。例えば、顧客が一日に10アイテムしか使用しないかもしれないのに、顧客がただサプライヤーに断続的にオーダーするだけなので、時には100のオーダーを受け、時には150のオーダーを受け、時には200のオーダーを受けることになる。もしサプライヤーが消費される量について「事前の通知」を受け取ることができるならば、サプライヤーは顧客の需要を予想し、サプライヤー自身のロジスティクスをよりうまく組み立てられるであろう。

  ある意味では、もしわれわれの頼るべきものがオーダーだけしかないのであれば、われわれが受け取る情報は氷山の一角のようなものである。氷山全体のほんの一部だけを水面上に見ることができる。同じように、オーダーサイクルタイム(例えばオーダーからデリバリーまでの必要となるレスポンス時間)は、「情報の氷山」の目に見える一部分かもしれない。(図6.14参照)

図6.14 情報の氷山

        Order cycle time                オーダーサイクルタイム

        The order               オーダー

        Actual usage/demand     実際の使用量/需要

  氷山の水面下の部分は、サプライヤーの視点から隠されている進行中の消費、需要、もしくは、製品の使用をあらわしている。オーダーが発行された時にだけ、需要ははっきり目に見えるようになる。

  バイヤーとサプライヤーが、もし需要の情報を継続的に共有できるならば、相互優位の機会を実現しているといえる。もしサプライヤーがパイプラインの末端を正確に見ることができるならば、ロジスティクス・システムは実際の需要に対する機敏なレスポンスを実現できるであろう。したがって、顧客がよりすばやいデリバリーを要求する一方、もし現在の需要や使用量についての情報をサプライヤーに事前に通知することができるならば、サプライヤーの顧客へのサービスは高められ、サプライヤーのコストも削減されるであろう。

  このロジスティクス・リードタイムを短縮しようとしながら、同時に顧客のオーダーサイクルを長くする二方向からのアプローチは、決して完全にリードタイムギャップを埋めないかもしれない。しかしながら、多くの企業が、本質的な改善は機敏なレスポンスと需要の情報をより早くキャッチすることによって達成でき、その究極の結果がより低いコストでのより質の高いカスタマーサービスであるということを経験している。