サプライチェーンマネジメント論

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第9章 最先端のロジスティクス

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卓越したロジスティクスによる競争的優位の達成が強調されてきた。ここで紹介されたアイデアの多くはあまり試されてない。さらに、多くの企業にとってロジスティクスやサプライチェーン・マネジメントは未知の領域である。

しかしながら、ロジスティクスを主要な戦略的要素とみなす企業が増加しつつあることは確かである。ゼロックス、デル、日産、ベネトン、3Mといった企業は、反応性の高いロジスティクスシステムの開発に、かなりの投資を行ってきた。彼らの市場での成功には多くの要素が考えられるが、ロジスティクスがその役割を担ったことは疑う余地のないことだろう。

北米で行われたロジスティクス・マネジメント協議会(Council of Logistics Management)の研究では、ロジスティクスの先端を行く企業の特徴が明らかにされた。主な研究成果は以下の枠の中に要約されているが、これらの企業の重要な特徴は次のようなものである:

  • 顧客に対して最優先の配慮を示す
  • 計画の強調
  • 機能的管理を広範囲で行う
  • サービスサプライヤーとの外部提携を進める
  • 高度に形式化されたロジスティクスの手順をもつ
  • オペレーションの柔軟性を重視する
  • 包括的な業績指標の採用
  • 最新の情報技術への投資

<先端企業のロジスティクス・マネジメント>

組織の構造について、

・正式なロジスティクス組織を長期にわたって保持している。

  • 役員レベルが直接ロジスティクスを管理しようとする傾向が高い。
  • ロジスティクス組織に対してより柔軟性のあるアプローチを取り入れ、チャンスに優位に立てるように組織変更を頻繁に行おうとする。
  • 集中管理を行おうとする。
  • より中央集権的に、組織構造をミッションに適合させる。
  • より「伝統的な」スタッフやライン機能に対して責任を負う。
  • 組織の境界を拡大することやロジスティクス機能を外部に志向する傾向をもつ。
  • 従来、ロジスティクスに含まれないと考えられてきた機能や責任を「超えて」、あるいは拡大して組織を管理しようとする。

戦略的姿勢について、

  • ロジスティクスを、価値を創造するプロセスとして管理しようとする。
  • 顧客満足の達成と維持に専心している
  • 柔軟性を重視する、とくに通常と異なる特別なリクエストに応える場合。
  • 予期せぬ出来事に対応する姿勢が整っている
  • 外部のサービスプロバイダーを進んで起用する
  • サービスを提供する会社が、自社の管理および顧客サービスについて、どれだけ機能しているかを重要視する。
  • サービスとプロバイダーの関係をより戦略的提携と見なす傾向がある。
  • 将来、外部サービスの利用を高めることを計画している。

経営の姿勢に関して、

  • 正式なロジスティクス計画の作成に努力している。
  • 明確な物流ミッション別報告書を出して、経営目標や基準を公表しようとする。
  • ビジネスユニットの戦略計画にロジスティクスの担当役員が携わる傾向がある。
  • 予定外のできごとにも迅速に対応する。
  • 資産管理、コスト、顧客サービス、生産性、品質等、広範囲の経営基準を常に利用する。
  • データ処理技術を効率的に利用し、高品質の情報システム(IS)サポートを受けている。
  • 一般に最新式コンピューターアプリケーションを持ち、それを更新、拡大しようとする。
  • 電子データ交換(EDI)や人工知能(AI)といった新しい技術に携わっている。

出典:Leading Edge Logistics: Competive Positioning for the 1990’s, Council of Logistics Management, Oakbrook, Illinois, USA, 1989

新しい組織のパラダイム

これらの領域のすべてにおいて成功するためには、企業内の著しい変化が必要であることは明らかだろう。それは、組織図を書き直す以上の変化を要求し、そしてまたトップから社風を変えることを要求する。つまり、企業を伝統的に導いてきた基本原理は変革を迫れており、長い間産業組織を支えてきた基本パラダイムを変えることが要求されているのである。

ビジネスの根本的変化

わたしたちの多くは、階層的であり、垂直的であり、また機能的に定められた組織で働いている。一般企業における組織図はピラミッドに類似しており、そしてそれは一人ひとりがどこに属しているかを明確に示し、また通常お互いの関係を明らかにする。本質的には、これまでの組織構造はローマ帝国がピラミッド型の組織を先駆的に開発して以来、ほとんど変化していないのである。

この組織モデルが過去においては上手くいっていたことは疑いないが、今日、わたしたちが直面している状況の変化に十分に妥当であるかどうかについては、疑問がある。マーケティング環境の変化において起こったさまざまな変化の中でも、とくに大きなものはおそらく「スピード」であろう。製品のライフサイクルが短くなったため、市場に卸すまでの時間はよりいっそう重要になっている。同様に、製造業におけるジャスト・イン・タイム(JIT)方式の目覚しい成長は、その環境に適合しようとする企業にとって、顧客のデリバリーの要求に迅速かつ柔軟に対応できるシステムを持たなければならないことを意味している。実際、今日、ほとんどの市場において、組織は在庫を減らそうとし、ゆえにサプライヤーにとっては迅速な対応が可能であることが重要な要求事項となるのである。

あらゆるビジネスにおける課題は、あらゆる意味でより反応性の高くなることである。組織は顧客の抱える問題について革新的な解決策を提供する製品やサービスによって、市場の変化に対応しなければならない。変わりやすい要求に応えることが必要であり、高品質で柔軟なデリバリーを可能にしなければならないのである。

より反応性の高い組織とはどんな特徴をもつのだろう。明らかに、それは今日の機能重視の経営とは類似していない。多くの相違点があるが、主な変化はおそらく以下のようなものだろう。

  • 機能からプロセスへ
  • 利益から実績へ
  • 製品から顧客へ
  • 在庫から情報へ
  • 取引から関係へ

以下、それぞれについて順に検討する。

  • 機能からプロセスへ

伝統的に、組織というものは「垂直」の構造を持っていた。言い換えれば、経営は生産、マーケティング、販売、流通などといった機能を中心に組織されてきた。各々の機能にははっきりとした課題があり、そしてこれらの機能的な「サイロ」や「ストーブパイプ」(しばしばこう呼ばれてきた)の中で、従業員が地位の向上を望むであろう階級の存在が認められていた。

このアプローチの問題点は、アウトプットを創り出すことよりも資金を利用することに組織内部の関心が集中していることである。どんなビジネスであっても、そのアウトプットは利益に見合った顧客満足によってのみ測ることができる。逆説的であるが、これらのアウトプットは、組織を「水平的」に横断する共同作業と協力とが実現できたときのみに達成しうるのである。これらの水平的なつながりは、顧客と企業やサプライヤーとを結びつける物品や情報の流れを映し出している。つまり、それらのプロセスは経営の「コアプロセス」である。水平的組織においては、プロセスの管理が重要視される。これらのプロセスは、したがって相互機能的なのである。

この経営が革新的であるとする根拠は、これらのプロセスが事実上「将来性」を表わしているからである。そしてこの将来性によって、組織は競合する。言い換えれば、新製品の開発のプロセスやオーダー達成のプロセスなどの効率性は、そのビジネスが市場において成功する範囲を決定する。

2.利益から実績へ

すべての営利組織にとって利益を拡大することがその目標であることは、長い間議論の余地のないこととされてき。たがもし利益を得ることがゴールであるならば、それがどうやったら達成できるかを検討することに時間をかけるべきだという共通認識が浸透してきている。多くの重役会では毎週の会議を、財務状態の検討から始めている。要するに、他のことがらが議論される前に、収益について検討され、コストについてかなり詳細に述べられる。比率、生産力の活用、生産効率―これらは従来の経営において通用していた測定基準であり、したがって管理されるべきものである。

「測定されるものを管理せよ」ということわざがあるが、これは行動の決定は実績評価の中から選ばれた基準を通じて行われることを示している。したがって、従業員が出勤・退社の記録を毎日タイムカードに残すよう要求されているような市場では、時間を守ることについては改善されるかもしれないが、彼らが勤務時間を超えて働こうとすることは減るだろう。それゆえ、重要な実績の基準は何であり、何が測定されるべきかを理解することは重要となる。

このような観点の根底には、実績が利益を導くという考えがある。したがって、わたしたちがよい実績を得ることができれば利益はついてくる。

これらの新しい実績の指標の多くは財務上のものではない。すなわち、経営上の関心は顧客満足、柔軟性、従業員の献身というようなものに集中していく。それゆえ、近い将来の経営会議の議題は、財務上の問題点ではなく-それについては後述する-、以下のような非財務指標の検討から始めることになるだろう。

顧客満足

  • 顧客保持力
  • ブランドの撰好性
  • 販売者の満足度
  • サービスパフォーマンス

柔軟性

  • 準備時間
  • 部品と資材の共通性
  • 複雑さの削減

人的献身性

  • 従業員の転職率
  • 提案の提出と実施
  • 社内サービスの風土と文化
  • トレーニングと開発の指針

各々の組織にとって重要となる指標は必然的に異なる。しかし、利益性を生み出すものに焦点を絞るという原則はもっとも重要である。

  • 製品から顧客へ

マーケティングのコンセプトが産業界に広く受け入れられてきたとはいえ、依然として顧客よりも製品を管理しようとする傾向が根底に存在する。この重要な事実は、「ブランド・マネージャー」や「製品グループ・マネージャー」といった職名や、製品の利益性についての情報は正確に提供できるが顧客の利益性について評価できない経理システムなどに反映されている。

あらゆる営利組織にとって、顧客満足こそが究極の目標でなければならない。このため、マネジメントの構造やそれを評価するシステムにこの目標を反映させることは、必須といえるだろう。組織的な意味で、マーケット、ルート、顧客が管理でき、また適切な経理や管理手順が実践できるような方法を創ることが求められている。「需要の経営」は、顧客サービスへの統合的、機能横断的アプローチとして先端企業の中に現われつつある。

このようなアプローチは、顧客サービスのコストとそこから生じる利益性を十分に確認できる経理システムによって支えられる必要がある。20%の製品によって組織の80%の利益が生み出されるのと同じように、20%の顧客によって80%の利益が生み出されることもあるだろう。従来の経理システムでは、「サービスコスト」を正確に評価できなかったことが問題だった。しかし今や、「コスト計算に基づく活動」と「スループットコスト計算」を利用することによって、コストのかかるサービスを特定し、必要ならば顧客ごとにサービスパックの内容を調整することが可能になった。

マーケティング上の意味において、この変化は単なる「ブランド価値」だけでなく、「顧客価値」をより一層重視することを要求する。このことが本質的に意味するのは、サービスを供給する組織は、顧客がそのサービスを受けることによって彼らのもつ価値概念にインパクトを与えられるような、そのような「オファー」や「サービスパッケージ」を開発するよう努めなければならないということである。現在広く理解されるようになったのは、顧客価値の重要な要素はサービスだということだ。ある意味で、わたしたちはロジスティクスとマーケティングが共同して管理される必要がある時代に近づきつつあるのである。

  • 在庫から情報へ

ある解説者は「不確実性は在庫の原因である」と指摘しているが、これは組織にとって将来の需要は未知であるから、その不確実性に対して自らを守るべく在庫を持たなければならないということである。これに従えば、もし不確実性が減少するならば、それをカバーするための在庫もまた減少しうることになる。不確実性の問題に対する従来の解決方法は予測をたてることだった。

しかし、予測の不正確さは、多くの人に予測は偶然正しいだけだとか、予測に頼ることは自滅につながるなどと信じこませることになった。在庫の必要性は、予測の誤差に直接影響されるからである。だがその代わりに、実際の顧客が製品をどのように利用するのか、その情報がロジスティクスシステムにつながっていれば、予測の必要性はかなり軽減されるだろう。

これこそが、「在庫に替わる情報」というコンセプトである。イタリアのファッションメーカーであるベネトン社は、その世界的な強い地位を、革新的なスタイルやその強力なブランドだけでなく、マーケットの変化に反応できるスピードによって達成した。たとえスタイルや色のトレンドが地球のそれぞれの場所で異なっていて、また流行のサイクルが短くて変わりやすくても、ベネトンはその進んだロジスティクスシステムによって、通常マーケットの需要に応えることができる。販売部門で情報をつかみ、何が売られているかの詳細を即座に生産部門に伝えることによって、反応に要する全体の時間は何週間もかからなくなった。有名な製造工程の柔軟性と最新式のコンピューター化された世界的な流通システムとを組み合わせることによって、ベネトンは注文を受けてから数週間で製品を小売店に卸すことが可能になった。従来、この業界でもし完全に補充の注文に応じるには何ヶ月もかかっただろう。

5 取引から関係へ

多くの企業にとって、主要な目的のひとつはマーケットシェアである。しかし、マーケットシェアを盲目的に追求することが、ときに顧客を「維持する」というより「獲得する」ことを強調してしまうことがある。問題なのはシェアの絶対的なレベルではなく、むしろその質である。つまり、わたしたちのシェアはたくさんの一時的で気まぐれな顧客――やすやすとサプライヤーを変え続けるような顧客――から成っているのかどうか。あるいは、わたしたちの顧客の大半はわたしたちをサプライヤーとして尊敬し任せてくれているか。

調査によれば、長く続く顧客ほど利益率がよくなることが示されている。顧客はあるサプライヤーと長い関係になればなるほど、彼らを優先的とみなす。顧客がサプライヤーを減らし、「単一業者(Single Sourcing)」へと向う傾向はスピードを増している。このようなアプローチの利点は次のようなものである。質の改善、革新の共有、経費削減、生産と流通のスケジュールの統合など。以上のような点の根底にあるのは、買い手とサプライヤーとの関係はパートナーシップに基づくべきだという考えである。

ますます多くの企業が、サプライヤーとの相互に有益で、長期的な関係によって得られる利益に気づきはじめている。サプライヤーの観点からみると、そのようなパートナーシップが競争相手への手強い障壁となることは明らかである。パートナーシップを作り上げるための強力な道筋の一つは、優れたロジスティクスを通して得られる。このようなコンテクストにおいて、ロジスティクスはパートナー同士のチャンネルをつなげ、インバウンドとアウトバウンドとを結びつける糸になるといえる。

将来のサプライチェーン・マネジメント

これらのビジネス変革が成功裏に達成されるならば、組織が直ちに変わらなければならないだけでなく、それに役立つ技術もまた高められなければならない。

もし外部環境の変化のスピードが内部環境より速ければ、それは企業にとって、じきに問題にぶつかるチャンスだと言われてきた。変化を歓迎する風土を作り上げることは、ビジネスリーダーの主要な任務の一つであろう。

変化は人を通じて起こることから、絶えず変化している外部環境にふさわしい技術と能力をいかにつくりあげていくか、組織は注意を払わなければならない。表9.1は、これまで述べてきたビジネス環境の変化に対処するためのマネジメント技術と能力が、従来の伝統的なものよりも広範囲にわたることを示している。

表9.1将来のサプライチェーン・マネジメント

Paradigm shift                                    パラダイム変化

Leading to                                           結果

Skills required                                    必要な技術

From functions to processesb             機能からプロセスへ

Integral management・…・・                資材や商品に関する不可欠の管理

Cross-functional……                        機能横断的管理と設計技術

From products to customers               生産から顧客へ

Focus on markets and ・・・…              市場志向と顧客価値の創造

Ability  to define, measure・・・…       区切られた市場の要求するサービスを定義し、測定し、管理する能力、すなわち「完全なオーダーの達成」

From revenue to performance            利益から実績へ

Focus on the key performance…        利益を生み出すかぎとなる業績の志向

Understanding of the ‘cost-to …        「サービスコスト」と時間による業績指標の理解

From Inventory to information           在庫から情報へ

Demand-based replenishment…        需要にもとづく補充とクイック・レスポンス・システム

Information systems and ・・・…          情報システムとIT

From transactions to relationsihps    取引から関係へ

Supply chain partnership                   サプライチェーン・パートナー

Relationship management and ・・…  関係のマネジメントと「勝者同士」への志向

拡張企業とバーチャル・サプライチェーン

企業の本質は変化しつつある。今日のビジネスはますます「境界のない」ものになってきた。それは、水平なプロセスによるマネジメント志向によって企業の内部機能という障壁が薄くなってきていること、また外部的にはベンダー、流通業者、顧客、企業間の区別が徐々に小さくなってきていることを意味している。このアイデアこそがすなわち「拡張企業」であり、それは組織がどうすれば競争力を持ち、バリューチェーンが再構成されるかに関するわたしたちの考えを変化させるアイデアである。

拡張企業の概念を支えるのは、共有情報の「ハイウェイ」である。相互機能的、水平的マネジメントを実現するのは、共有された情報の利用である。より重要なのは、サプライチェーン内において各パートナーが情報を共有することによって初めて、パイプラインの一方からもう一方へ製品の流れる反応性を高めることができるということである。今日、バーチャル企業またはサプライチェーンと呼ばれているものは、実際のところ付加価値のある情報の交換に基づく各パートナー間の一連の関係なのである。図9.1はこの概念を示している。

図9.1 拡張企業とバーチャル・サプライチェーン

sources                                  ソース

converters                             コンバーター

retailers                                小売

product and service flow       生産とサービスの流れ

information flow                   情報の流れ

funds flow                             資金の流れ

suppliers                               サプライヤー

distributors                           流通業者

consumer                              消費者

パートナーシップの構築や協力関係の方が、従来のよそよそしい関係やときに競争相手となる関係に比べて効果的であるという考えは、だんだんと受け入れられつつある。このように、サプライチェーンは今や共通の目的を持ち、全体の価値の創造とそれを伝達するシステムを明確にした組織集団になりつつある。このプロセスはアウトソーシングへと向うトレンドが続くにつれ、加速しつつある。アウトソーシングは、ある仕事を専門家に単に委託するような「下請け」と混同されてはならない。ある意味では、「イン・ソーシング(in-sourcing)」ないし「リ・ソーシング(re-sourcing)」ということばを用いる方がいいかもしれない。この言葉で、わたしたちはバーチャル・サプライチェーンが立脚するまったく異なるパートナーシップのコンセプトを表現する。これらのパートナーシップは永続的なものではないだろうが、――ことによると特定のマーケットのチャンスを利用するためにだけ存在する――「継ぎ目のない」、真の共同作業的なのである。

組織が提携するサプライヤーの数を劇的に減らし、シングルソーシングへと向おうとしてきたのと同様に、多くのサプライヤーたちはより少ない顧客にしぼって、より多くのサービスを彼らに行おうとしてきた。この動きは、たくさんの顧客に同じ製品やサービスを売ろうとする従来の「水平的」成長戦略に対して、「垂直的」成長戦略と呼ぶことができる。自動車業界では、この垂直的成長戦略の模範的例が見受けられる。すなわち、第一段階のサプライヤーあるいは「リード」サプライヤーは、今や部品を供給するだけでなく完全なシステムを提供する責務を負っている。以下のメルセデス/スウォッチ・スマートカーの事例を見てみよう。

スマートカーとバーチャルサプライチェーン

ジュネーブモーターショーは、自動車メーカーのカレンダー上で最大行事の一つであり、自動車産業の提案する最新、最上車のショーケースである。1998のショーですべての人が望んでいたのは、輝かしい経歴を持った贅沢車の最新モデルではなかった。それよりも、ドイツのダイムラーベンツ社とスイスの時計メーカーSMH社という一見ありえなさそうなベンチャープロジェクトによって生まれたマイクロコンパクトカー社(MCC)がつくりあげたちっぽけで、安い、二人乗りの小型車。これこそが、待ちこがれた「スマートカー」だった。ヨーロッパ大陸の若い都会のドライバーに受けるようデザインされたこの車は、駐車スペースの節約、共同の借地契約、公共の輸送機関とのネットワークなどを含んだ、広い都会を移動するための機動性の概念に一部なっている。要するに、この革新的な小型車は、現在の街を走っている他のどんな車とも違うものとして予定されていたのだ。ひとびとは、そのコンセプトと車の概観の両方に興味をそそられたが、しかし他の自動車メーカーはMCC社の製造システムにもっと関心をもった。スマートカーはほんの7時間半で製造できたのである。これは自動車産業の先端を行く企業の製造時間よりも約2時間半少ない。この差は、MCC社が自動車の開発と製造に抜本的に異なるアプローチをした、まさに異なった種類の企業であるという事実による。

その車は、これまで自動車製造の前歴のない地域、フランス東部のハンバックという孤立した工業団地でつくられた。主要な組立ラインのある大きな十字型の建物が団地の中心にある。組立プロセスの大部分を請負うMCC社の七つの第一段階サプライヤーすなわち「システムパートナー」――多国籍の専門企業の集まり――の内の一社ないし数社の小さな建物群が、十字型の各々の端から四方に広がっている。これらのシステムパートナーは、設計部門の約70パーセントを引き受け、構想段階から開発に携わってきた。

その車は、「トライドン」として知られている完全なボディフレームに基づいて組み立てられ、そこに種々の組立部品やモジュールが取りつけられる。これらには、五つの主要な「スーパーモジュール」――シャーシ、パワートレーン、ドアとルーフ、電気系統、運転席――が含まれ、組立プロセスに完全に統合されているシステムパートナーによって、次々と生産ラインに供給される。一端モジュールが使用されればサプライヤーは支払いが保証されるので、このようなモジュールの組立部品は自動車メーカーのコストを削減し、MCC社の労働力が在庫に縛られることを防いでいる。パワートレーンや運転席のように、モジュールの中には前もってサプライヤーによって組み立てられる複合の組立部品もある。全部で、七つのシステムパートナーが、車の構成部分や組立部品(価値による)の約50パーセントを供給し、残りは16の統合されていないサプライヤーによって供給され、その中には工場から遠いものもある。

スマートカーに見られる統合された工場は、1990年代に見られた傾向、すなわち取引先の大きな自動車メーカーに隣接して設備をつくる第一段階サプライヤーの一群の必然的拡張であった。それによってまた、統合されたサプライヤーが実際にラインで部品を取りつけるようになり、自動車メーカー自身の従業員とそのシステムサプライヤーの従業員との区別をすっかりぼやけたものにしている。

ハンバックでは、工場の建物とその敷地設備の管理の所有権を専門のプロバイダーに委託している。さらに、プログラムマネージメントとITオペレーションは、すべて長期契約としてアンダーセン・コンサルティングに譲渡されてきた。アンダーセンはまた、経営と自動車の生産プロセスについてその開発と実行に携わり、スマートカーの市場への導入を監督する。車はショッピングセンター、あるいは人の集まりやすい都会の中の特別な「ライフスタイル・センター」にある販売代理店のネットワークを通して売られることになっている。そこでは、マルチメディアによって、顧客が画面上で個々の希望を具体化した車を注文できる。そして車は、欧州内にある5つの流通センターの一つを通して、一日のリードタイムでディーラーに届けられる。柔軟性を最大限に維持するために、製品のカスタマイズのいくつかの工程は流通センターで行われ、そこでは容易に交換できるモジュールや本体部品の在庫が保管されており、したがってスタイルは必要に応じて変えたり加えたりできる。さらにまた、モジュールによる車の組立とは、取り外しが簡単な組立部品や本体部品を単に取り替えるだけで、車が廃棄されるまでのどの時点でも、容易にグレードアップや再設計が可能であることを意味する。このことは、固定化された消費財からさらにもっと適応性をもった更新可能な製品へと、製品自体の本質を変えることになる。これは、逆流のロジスティクスとリサイクルという立場からの利益をもたらすのである。

実際に、スマートカーとそれを創り出す組織は、アウトソーシングと再統合の珍しいブレンドを提案している。MCC社は、先端を行く製造スペシャリストとサービスプロバイダーらの専門技術を完全に保証する一方、この草分け的計画に関して投資と財務リスクを分散してきた。仮に人びとが小型車に夢中になれば、プロトタイプが高速安定性テストに不合格になったという決定的な失敗に関わらず、スマートカーのメーカーは当初の予定どおり、最初の5、6年の生産サイクルの間、180億マルクの投資の埋め合わせができるだろう。これが実現すれば、スマートカーは自動車の製造と所有権に関するプロセスを再定義させることになるだろう。

「先送り」によるバリューチェーンの再構成

バーチャル・サプライチェーンを他から区別する明確な特徴の一つは、最終的な商品やオファーが最後の可能な瞬間まで創り出されないことである。この考えは、もし「時間、場所、有用性」と称されてきたものの創造が先送りされるのであれば、最大限の柔軟性が得られるということである。時間と場所の先送りは、組織が在庫の中央管理を図り、システム内の総在庫量の削減と生産効率の改善の両者を可能にしたときに起こる。後者は要求の総量を予測することが、たとえば個別地域の要求を予測するより一般に容易であることからもいえる。

時間と場所の先送りを追求することによってヨーロッパでは、たとえばヨーロッパ流通センター(European Distribution Centres / EDC)など、広範囲の要求に応じる企業を生み出した。この戦略の問題点は広く取上げられてきた。それは輸送コストの著しい増加であったり、さらに地域ごとの要求の違い(たとえば、地方言語、包装)であったり、そして商品は完成された在庫としてそれに比例して高い保管料で維持されていることであったりする。

第三のタイプの先送り――商品の有用性の先送り――が魅力的なものになるのはこの点である。

これまで、生産は工場で行うべきであり、それらの工場は一般的に中央集権的で標準化された製品を作り続けるべきであると考えられてきた。このモデルの問題点は、変化のスピードの速い市場において、実際の需要を知る前に一定の製品をつくるというリスクが生じることである。すでに見てきたように、多くのハイテク、ファッション、季節的なマーケットにおいてはサイクルが短いため、製品の鮮度が落ち、在庫が廃棄される率が高まる。

バーチャル・サプライチェーンにおける代案は、在庫に代わって情報や俊敏性を利用することである。もし実際のエンドユーザーの要求についての情報が素早く伝えられ、サプライチェーンのパートナー同士で共有されたならば、そしてもし柔軟な製造工程と先送りによって最終製品が需要に則して造られるのならば、明らかに競争力のある大きなアドバンテージが得られるだろう。それでは、このような望ましい状態はどのようにして達成できるだろうか。

まず最初に必要なのは、バリューチェーンが上流と下流のパートナーのバリューチェーン――事実上の拡張企業のためのバリューチェーン――を含むように再検討することである。図9.2はこの概念を示している。

図9.2  拡張されたバリューチェーン

Supplier value chain          サプライヤーバリューチェーン

Inbound Logistics               インバウンド・ロジスティクス

Operations                          オペレーション

Branding                            商標化

Outbound logistics              アウトバウンド・ロジスティクス

Customer value chain         顧客バリューチェーン

ここで問題は、最終ユーザーの価値を構成する雑多な要素はチェーンのどこで創られるかである。最終製品のかたちを可能な限り遅らせ、そしてリスクを減らすことが課題である。この達成には、製品デザインを全く新たに考え直すことを多くの場合意味するだろう。その製品は構成単位に分割能なのか、それは後工程において適切に配置されるようデザインできるのか。ヒューレットパッカードは製品開発哲学の本質的な要素として「適切な配置のためのデザイン」を掲げている。

多くの場合、製品の最終組立てや仕上げはサプライチェーンの他のパートナーによってなされるだろう。多くの物流業者は今、拡張された、ときに国際的なサプライチェーンの中で付加価値を与えるパートナーとして活動している。

先送りの戦略によって製造された場合のコストは伝統的な大量生産に比べて高いかもしれないが、在庫を抱える費用の低減、廃棄処理の削減、顧客満足の改善などトータルのコスト・利益は考慮に値するだろう。多くの意味で、先送りの概念は経済の伝統的な教えを不必要なものにしている。

バリューサプライチェーンにおける情報の役割

先端をいく組織は、サプライチェーン・マネジメントを成功させる鍵は情報システムにあると認識していた。しかし、わたしたちが今理解しつつあるのは、多くの市場において、とくに特注の製品の場合、これまでになく短期間のうちに需要と供給とを一致させ得るような情報の要素があるということである。

この拡大された情報システムは、簡単なプランとコントロールに基づく古典的な情報システム、すなわち顧客とサプライヤーとが直接ばれ、サプライヤーが市場の変化にリアルタイムで対応することによって時間とスペースとを短縮するようなシステムのレベルを超えている。レイポートとスヴィオクラ(Rayport & Sviokla)は、「マーケットスペース」という造語によって、電子商取引、インターネット、バーチャル・サプライチェーンの世界を表現した。マーケットスペースの中では、顧客の需要はその発生毎にCAD/CAMを通じて定義され、また柔軟性に富んだ製品が最小単位で生産される。同じように、専門的なサプライヤーたちは独自のネットワークを通じて、革新的でしかも費用効果の高い方法で複雑な構造をもつ問題や生産上の問題を解決することができる。たとえば、ボーイングとエアバスが新しい航空機のデザインと組立てを共同で行うとき、バリューチェーンの両端同士を結びつけるようなグローバルな情報ネットワークがなければその実現は不可能であろう。

サプライチェーン・マネジメントに関する潜在的なインパクトを考えたとき、インターネットは20世紀末最大の成果の一つではないだろうか。

インターネットはバーチャル・サプライチェーンを構築するための完全な道具である。それは広大なグローバルマーケットに最小限の費用でアクセスしたり、顧客が検索の時間と行動を起こすための費用を最小化し得るだけではなく、サプライチェーンに属するそれぞれ異なる組織が費用効果の高い方法で互いに情報を共有することを可能にする。これらの「エクストラネット(EXTRANET)」と呼ばれるようになったやり方は、革命的なサプライチェーン・マネジメントである。互いに異なる内部の情報システムをもつ各組織は、今や営業や生産のために顧客のデータにアクセスして、その情報を利用して在庫を補充したり将来の需要に対してサプライヤーに注意を促すことができるようになった。

次に掲げる例は、イギリスの有名な小売店であるテスコがエクストラネットを使ってどのようにサプライヤーたちと結びついているかを示したものである。この企業はすでにインターネットを使ったホームショッピングや宅配システムも試験的に始めている。会社内部でもイントラネットが、各店舗で情報を共有しビジネス上のコミュニケーションを簡易にするものとして利用されている。わたしたちはインターネットとそれに附随する技術がバーチャル・サプライチェーンに関して将来どのような功績をもたらし得るかという点について、恐らくまだ表面的なことを集めたに過ぎない。図9.3は、サプライチェーン・マネジメントに関するインターネットの現段階での応用例をいくつか示している。

図9.3.インターネットの応用とサプライチェーン

Customer serice                                    カスタマーサービス

  • Information and ・・…                       製品、サービスの情報とサポート
  • Electronic help desk                         ネット上の相談窓口                                              
  • Mass customization and ・・…          マス・カスタマイズとオーダー処理

Marketing channel                               マーケティング・チャンネル

  • Public relations and advertising      公報、広告
  • Market research and test                 市場調査とテスト
  • Electric malls and catalogues           ネット上のショッピングモールとカタログ

Information retrieval                            情報の検索

  • Online news                                     オンラインニュース
  • Statistics, reports and ・・・…            統計、報告、データベース
  • Data mining                                     データ発掘
  • Competitive analysis                        競争力の分析      

Supplier relationships                          サプライヤーとの関係

  • Logsitics                                           ロジスティクス
  • Product search                                 製品調査
  • Electric data interchange                 EDI
  • Ordering and payment                     発注と支払
  • Supply chain integration                  サプライチェーンの統合

Financial transactions                          財務処理

  • Selling and payment                        売上げと支払                                                        
  • Managing accounts                          口座管理
  • Credit card payments                       クレジットカードの支払

Building strategic alliances                  戦略的同盟を築く

  • Newsletters, bulletin boards,…        ニュースレター、掲示板、討議のデータベース
  • Sharing knowledge and ・・…           知識と経験の共有

Electronic distribution                          ネット上の配送

  • Product, data, information               製品、データ、情報

Internal communications                      組織内部コミュニケーション

  • Complete internal, external,…         完全に内部的、外部的、垂直的、水平的コミュニケーション
  • Gruopware                                       グループウェア
  • E-mail                                              Eメール
  • Collaboration                                    共同作業
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Human resources and employee …      人的資源と従業員間の関係

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変化の創造

われわれが見てきたように、より少ないコストで多くの顧客価値を提供する統合されたサプライチェーンを創造し実現する道は険しい。組織におけるロジスティクスの役割について明確なビジョンが必要であるだけでなく、意味のある組織の変化こそがまた必要である。上流と下流のパートナーと共同で仕事をする新しいやり方が造られなければならない上に、それを支える情報システムの設置が不可欠である。

これらのすべてを実現することは可能だろうか。この問いには肯定的に答えられる。というのも、本章において議論された根本的な変化がなければ、組織にとって将来の成功はあり得ないからだ。企業の多くが、大きな変革が達成可能であることを見出しつつあることは、わたしたちにとって有利なできごとである。さらに、世の中の傾向は今やビジネスの内部と外部における境界の解体をより強く志向している。過去に階層的であった企業は今ではより平坦化されており、サプライヤーと敵対的な関係を保持していた企業は今ではパートナーシップについて語り、顧客価値の創造についての新しい再活性化された志向性が生まれた。

品質とサービスの面で前例のないレベルでの競争に直面し、変化の必要性を認識した企業のよい例が、ゼロックスの例に見られる。

ゼロックスは、多様な市場を志向し、ロジスティクスとサプライチェーン・マネジメントを包括する世界規模でのプログラムの変化への取り組み方に対し、本質的な変革が必要であることを認識した。したがって、ゼロックスがロジスティクスとサプライチェーン・マネジメントに対するアプローチを再構築することで、競争力のある地位を明確に築きあげたそのやり方の概要を述べることはこの本を終わるのにふさわしいであろう。

統合されたサプライチェーンの調査 :ゼロックスの例

この箇所は米国ゼロックス社のマシュー・ステンロスとグラハム・スイートによって書かれたもので、彼らの好意により掲載の許可を得た。

ゼロックスは財務サービスとドキュメント・プロセスを行う巨大なグローバル企業である。本稿は、統合されたサプライチェーンによってそのドキュメント・プロセス業務のロジスティクスがどのように改善されたかに関して述べたものである。

ゼロックスのドキュメント・プロセス業務における第一の任務は、ドキュメント・プロセスに関する一連の製品、すなわち大規模の電子プリンター、複写機、コピー機、ワークステーション、工学製品、テレコピー機、その他これらの製品に附随する製品、を世界的規模で開発し、製造し、売買し、アフターサービスを提供することである。これらの製品は世界130カ国以上で、15000の直営店とディーラー、流通業者、代理店のネットワークによって販売されている。また、アフターケアのために、世界中の30000人の技術者集団によってバックアップされている。

ゼロックスはヨーロッパ、北米アメリカおよび極東の世界22ヶ所に主要な製造工場をもっている。これらの工場からは、顧客へのサービスおよびアフターサービスを担当するマーケティング部門に製品が出荷される。マーケティング部門の役目はすべての製品を陳列棚に乗せることであり、地域別に組織化されている。ヨーロッパとアフリカの顧客はゼロックスヨーロッパが担当し、米国の顧客は米国マーケティング・グループが、またカナダと中南米の顧客はアメリカ・オペレーションが担当し、日本と環太平洋地域の顧客は関係会社の富士ゼロックスが担当している。これら個別のマーケティング部門の中に、販売、サービス、流通グループがある。

サプライチェーンの中で、何が実現されなければならないのか。この問題の枠組みをあらゆる方向から形成するのに役立ったのが、ゼロックス全体の共同目標である。その目標とは、

  • 顧客満足
  • 資産への貢献
  • マーケットシェア
  • 従業員満足

多くの部分でゼロックスは垂直に統合された企業であり、直接製品を製造し、販売し、サービスしているため、サプライチェーンは図9.4.に示されている形になる。一見して分かるように、ゼロックスのサプライチェーンは閉じられたループである。資産に大きな割合を占めているスペアパーツや機械などの返却されたパーツと機材のリサイクルによって、新規物品の購入はバランスがとれている。この環境保護的な取り組みは将来発展するだろう。

1989年に、ゼロックスは米国を中心としたさまざまな電子産業の在庫実績を自社のものと比較した調査を行った(図9.5参照)。この結果、ゼロックスの重役は先端を行く企業とのギャップを感じることになった。在庫に関する資金を減らすことによって、新たな製品を開発する資金が生まれるチャンスが存在することが明らかになったのである。さらに、流通、ロジスティクス、資材、製造の各部門が働き過ぎであることも分かった。彼らの実績は問題ではなかった。機能単位のオペレーション組織の目的と成果が、企業全体の在庫のあり方を制限しているのがむしろ問題であった。

図9.4.ゼロックスのサプライチェーン

New assets                                                 新たな資本                                                          

$1.9bn in material purchases                    190億ドルの購買資材

Acquire                                                      取得

$400m in value recovered                          4億ドルのリカバー

$2.3bn in COP                                           230億ドルのCOP

$1.2bn Logistics costs                                120億ドルのロジスティクスコスト

New  Build  Remain                               新規製造、据え置き

Distribute                                                  流通

Deliver                                                      配送

$1.6bn in-field invoentory including 30,000 tech reps holding $300m inventory

                                                                  160億ドル分の流通している在庫(30000人の技術者のもつ3億ドル分の在庫を含む)

Removal                                                              転移

Asset strip                                                 資産の切片

Recovery & repair                                     修復と修理

1989年、各組識ではなく、サプライチェーン全体を通しての資産管理のパフォーマンスを改善することを目的としたセントラル・ロジスティクス & アセット・マネージメントグループが発足した。「改革主体」としてのグループの任務は、統合した戦略とプロセスの開発と実践を通じて、在庫とロジスティクスの管理を財政的に支援することであった。しかし、このグループは決して単なるスタッフ組織ではなかった。ラインの各組織とともに、顧客満足、ロジスティクス・コストと在庫の削減について、進行中の改革を毎年毎年達成する責任を持っていたのである。。ここから二つのことが生まれた。一つは、この任務が単なる在庫削減キャンペーンに終わることなく、企業グループ全体での目的に結びつくものになったこと。そして二つ目に、短期的な活動と長期的な活動とがバランスを取ることが要求されたことである。

図9.5 ゼロックスの在庫実績(他の電子産業との比較)

Unisys                     ユニシス

Contorol Data          コントロールデータ

Emerson                  エマーソン

Kodak                      コダック

IBM                         IBM

Honeywell               ハニウェル

HP                           HP

Motorola                  モトローラ

Digital                     デジタル

GE                           GE

NCR                        NCR

TI                            TI

Xerox w/lease          ゼロックス(リースを含む)

Xerox w/o lease        ゼロックス(リースを除く)

Average                   平均値

アプローチは多様な要素からなされた。第一に、ビジョンが創られねばならなかった。統合化されたサプライチェーンは、企業グループにとって競争力の優位性をもたらすものであり、サービスレベル、資産運用、ロジスティクス・コストにおいて最高の水準に到達することを目的とした。ビジョンを定めるための具体策は、戦略的ルートマップの作成と、顧客満足、資産運用、ロジスティクス・コストを測定するための対象の特定である。この新しい統合のコンセプトは、初めは「ショーケース」の中で試され、そして国際的規模で実行する前に上手く調整された。全体の進行をチェックするため、サプライチェーンのパフォーマンスの尺度が統合された。そして最終的に、情報システムの基本部分の改革を伴うプロセスの再構築こそが、結論であった。

ルートマップ

 最初に行った活動の一つは、業績を改善するためのルートマップを作ることだった。この図によって、現状と将来の状態をともに示され、サプライチェーンのプロセスに影響をおよぼした変化とは何かを数値で分析することで、年毎の業績改善目標が明確になった。図9.6はこのルートマップを示したものである。ゴールは4年後に設定され、業績とプロセスの双方を基準にしている。これにより、経営者と従業員に4年間の計画青写真が示された。さらに、これは従来なかった新しい尺度を説明する上で役立つものだった。たとえば、以前は各組織の在庫実績の測定は、物品がそれぞれの手元にどれだけあったかという観点からのアウトフローを基準にしていた。それが、全体のサプライチェーンに対する在庫、つまりマーケティングと製造の双方を含む全組織の収益に対するパーセンテージへと変わったのである。同様に、ロジスティクス・コストは製品の流通コストとして把握され、その幅は4-5パーセントといわれていた。しかし輸送コストや、在庫や税のコストなどを含むサプライチェーンを全体から見ることで、そのコストは11パーセントに近くなった。伝統的に、サービスレベルは内部の問題、たとえば倉庫にある品物の入荷・梱包・出荷にどれだけ時間がかかったか、に基づいたものと考えられてきた。しかしそれが、米国ロジスティクスグループの顧客のうちいくつかのグループに対する調査によって、顧客満足とは納入指定日に対する信頼性だと定義することができた。ゼロックスの顧客満足調査では、顧客がサプライチェーンのパフォーマンスを本当のところどのように認識しているかに関する質問がなされ、情報が集められた。

図9.6. サプライチェーンの統合――ルートマップ

% of revenue                                                               収益に対する比率

Inventory                                                            在庫

Logistics cost                                                                     ロジスティクス・コスト

Logistics customer satisfaction                                                         ロジスティクス顧客満足                                          

Unit process optimization                                                       ユニットプロセスの最適化

Cross-organizational process change                                                                組織横断的プロセスの変革

Change agents                                                                 変化の主体

 結果は劇的なものだった。ロジスティクスプロセスに満足する顧客は100パーセントに達し、さらに在庫は半減し――10億ドルの削減――、そしてロジスティクスについて4パーセント、つまり3億から4億ドルの削減が達成されることになった。しかし、ここではサービスレベルのコストを叩くことが問題なのではない。ゼロックスはサプライチェーンを再構築することによって、文化、業績の指標、昇給システム、企業内の関係や行動パターンを変革する必要があったのだ。プランは、能力を最大限活用した共同のオペレーションユニットから始められた。その能力のいくつかは「自然発生的」であったが、他のいくつかは世界中のさまざまな地域にある参加企業のアイデアを借りることによって生まれた。そして、サプライチェーンによって互いの組織を結びつけていることが理解されてくると、グループはサプライチェーンの部分として活動することができ、自らが変革の主体であるかのように組織横断的なプロセスの変革を始め、それにより統合へと向かっていったのである。

ユニットプロセスの最適化

 この大きな成果は、一日で起こったのではない。企業の各部所は異なる経験を基盤にしており、サプライチェーンの中で活動するための洗練度は違っていた。それらのオペレーション・グループは、オペレーション・ユニットとしての実践を共有することでそれぞれの活動を改善し、大きな成果を得ることができたのである。多国籍の組織横断的チームは1986年から存在していたが、サプライチェーンの統合に目をむけることでその役割は強化された。在庫を担当する人間や顧客への納入、製造/サプライヤー管理を担当する人間などがそのチームに参加したが、しかしそれはロジスティクスや製造部門のひとに限定されていたわけではない。製品設計、マーケティング、品質、財務、情報管理の担当者などもチームに大きな役割を果たしたのだ。

 この組織横断的チームは、戦略の開発と実行にとって、守護者でありステークホルダーであった。戦略の統合が進んでいくと、このフォーラムによってラインマネジメントが組み込まれるようになり、一つの組織の中で実証されたアイデアは他の組織でも共有され発展していった。さらに、個々の組織のプロジェクトは決して重複することなく、全体の方向の中で確実に意味あるものになった。顧客満足測定システムによって、不満を持つ顧客に対する改善策は正しく行われ、また難解な測定値は、たとえば顧客の指定日への納入実績の比率などといったように、実際に操作する人間にとって分かりやすいものに直された。ヨーロッパとアメリカのチームは、輸送手段の改善によって在庫の編成変えを行った。オペレーション・ユニット間の在庫の共有は情報によって促進され、資産のリサイクルが共同で行われ、また奨励されたのである。

 サプライチェーンによって業務が行われるのと並行して、この共同作業によって総合的なビジネス構造のモデルが形成されていった。この成果の重要な点は、これによってゼロックスが顧客中心の組織横断的プロセス遂行の組織へと再構成され、最終的にビジネスプロセスを再構築したことである。最も高いプライオリティの置かれた部分のひとつは、在庫管理とロジスティクスである。これらの部分はサプライチェーン全体のビジネスプロセスをカバーするものではなかったが、それは明らかにサプライチェーンの統合を促進するレバーとなり、その成果をさらに推進する力となったのである。

プロセスビジョン

 総合的なプロセスビジョンの原理は、ある種の爆発のように在庫管理とロジスティクスを構成する要素に衝撃を与えた。フレームアクションに必要事項が細かく規定されたのである。図9.7では総合的なビジョンの原理の内容と、それらがロジスティクスの分野でプロセスの要素にどのように効果を与えているかが示されている。これらの原理は、それぞれのプロセスにおいて戦略的活動を創り出す基礎となっている。これらのプロセスは組織的に方向づけられてはいないが、それらが実践する活動に基づいている。鍵となるのは、このプロセスの順序である。最初に、顧客オーダーの完遂と附随する物品の流れがあり、それには顧客へのオファーとそれを構成する部品とをともに表わす共通の言語を利用することが重要であった。さらにプランのプロセスは、柔軟性をもつために製造工程を通じて需要に基づいたものでなければならなかった。サプライチェーンは、すべての企業を統合するものとして設計されており、そして最後に強調されたのは、倉庫のストックを管理することではなく、資産のフローを管理することであった。

 このビジョンを現在の状況と比べることで、そしてさらにオペレーション・ユニットですでに進行中の活動を参照することで、変革すべき点が明確となった。これらのことは機材、機材への供給品、およびスペアパーツといったゼロックスのそれぞれの基本的資産タイプ別に実行された。資産のタイプによってマーケティングのルートや資産のフローは異なっている。スペアパーツなどは、多くの場合カスタマーサービスがサービス技術者に要求する。したがってスペアパーツのフローは技術者のストックへと向う。供給品は通常特殊な取扱いの必要がなく、典型的にはテレマーケティングのルートによって提供される。機材は、繊細な電気的ないし技術的部品のため、特殊な取扱いが必要である。さらにそれは、最小の製品でないにも関わらず、いくつかの場合顧客の現場で使用できることが必要である。

図9.7.在庫管理(IM)とロジスティクスプロセスのビジョン

IM & L Process Vision                            IMとロジスティクスプロセスのビジョン

Customer Satisfaction is key                   顧客満足がキーである

Demand-driven supply chain                  需要に基づくサプライチェーン

Time to customer is a competitive advantage

                                                                顧客までの時間が競争優位である

Common product language                     共通の生産言語

Complexity managed through high performance work systems

                                                                高パフォーマンスの作業システムによる複雑性の管理

Recycling is key                                       リサイクルがキーである

Order Satisfaction/Delivery Management オーダー充足/納入管理

Shared ownership of orders                    オーダーの所有権を共有する

Plan for order satisfaction                       オーダー充足のためのプラン

Information availability exchange for inventory

                                                                在庫のための情報アベイラビリティの交換

Same day delivery capability                  同日配送能力

100 per cent built to order on high end 高水準で100パーセントオーダーに応える

Configuration (Asset Information) Management

                                                                コンフィグレーション(資産情報)管理

One logical data base                              ひとつの論理的なデータベース

Co-ordinated, multi-functional, multy-national, configuration management

                                                                協調的、多機能、多国籍のコンフィグレーション管理

Rapid comunication of configuration information

                                                                コンフィグレーション情報の迅速な伝達

Inventory Planning                                 在庫のプラン

One company                                          一つの企業

Service level-driven stocking                  サービスレベルに基づく保管

Demand-driven forecasting                     需要に基づく予測

Logistics & Physical Distribution Planning

                                                                ロジスティクスと物的配送計画

One company, one integrated supply chain

                                                                単一企業と単一のサプライチェーン統合

Networks optimize customer sat. at lowest cost & inventory

                                                                最も低いコストと在庫によって、顧客満足を最適化するネットワーク

Plan networks as a continuum from customer to supplier

                                                                顧客からサプライヤーに連続したプランのネットワーク

Logistics Operations                               ロジスティクス・オペレーション

Manage flow not stock                             ストックではなくフローを管理する

Plan the work                                          仕事のプラン

Integrate warehousing and transport     倉庫と輸送の統合

Same day delivery capability                  同日配送の能力

 1980年代に、スペアパーツと供給品について多くのチェーンが生まれたが、ゼロックスはその中で基準に達するかあるいはそれに近いレベルだった。このうちの多くの部分は、オペレーション・ユニット間で共有された最良のやり方を通じて成し遂げられ、多国籍の機能横断的チームがそれを促進した。これら二つの領域での改革は引続きあったが、セントラル・ロジスティクスとアセット・マネジメントグループの主要な関心事は機材に関するものであった。最も大きな改革は、この領域で見られたのである。これらの改革は同時に、ひとつの組織やオペレーションユニットを超えてプロセスの変化を要求した。この点こそ、セントラルロジスティクスとアセット・マネジメントが共同で成し遂げた、ビジネスへのインパクトであったのだ。

 戦略の統合によって、機材ネットワークの未来図が作られていった。プロセスの再構築は、市場でのそれぞれの機材に対する顧客の要求に見合うよう行われた。パーソナル用や、あるいは小さな事務所用のコピー機やテレコピー機などの商品タイプのものは、顧客がほしいときにすぐに納品可能にするために、簡単に取り付けられるよう設計される必要があった。一方、膨大な量が要求される商品タイプ(コピー機の月間販売台数ではなく、コピーの枚数によって測定される)は、顧客のオーダーを100パーセント達成することが要求される。顧客の望む日数でこれを遂行するため、在庫情報の変換が必要だった。

 この戦略によって、製品の流通は、その製造と部品の供給部門に統合された。それは、個人的および組織的実践のやり方、そしてその実践を支えるシステムの構築、新しい製品の設計に対して、つねに継続した影響を与え、そしてまたマネジメントの方法をつくりあげた。この戦略は図9.8に示されている。

図9.8  機材ネットワークの未来図

Vendors                                                              ベンダー

Manufacturing and remanufacturing                                                製造・再製造

Distribution                                                        流通

Customers                                                          顧客

Recycle                                                               リサイクル

Sourcing                                                             ソース

Manufacture                                                       製造

Distribution                                                        流通

Customer Interface                                                             顧客とのインターフェース

General                                                               一般的形態

Balanced sourcing manufacturer                                                     バランスの良いサプライヤー配分

Full product assembly                                                             製品の自社組立

Single touch distribution                                                        ワンタッチ配送

Competitive order to installation 100% delivery to customer committed date

                                                                           顧客の指定日に100%配送し取り付ける、競争力のあるオーダー

High volume complex networks                                                             大量の複雑なネットワーク

Local sourcing prefenrece                                                                            ローカルソースの選択

Build to order                                                                   オーダーの達成

Zero stock                                                                   ゼロストック

Fully configurated customized product                                                               完全にカスタマイズ設計された製品

Mid volume                                                                中程度のボリューム                                                 

Local sourcing                                                              ローカルソース

Configure to order                                                                   オーダーに基づく設計

Minimal neutral finished goods                                                                   最小限の一般的な最終製品

Late addition of customization                                                     カスタマイズのための先送り

Commodity products workstation                                                        必需品を製造するワークステーション

Local sourcing / OEM                                                                   ローカルソース/OEM

Build to full configuration OEM                                                              OEMの完全な設計

Commodity stocks held close to customer but single echeion                                

                                                                           顧客サイドにストック

Fully configurated product (plug and play)                                                                   完全に組み立てられた製品

Asset recovery management                                                       資産回収のマネジメント

Parts strip for new build substitutes                                                          新たな代用品をつくるための部分的組み合わせ

Re-manufacturing                                                    再生産

Minimal stock                                                                   最小限のストック

Local turn around of trials, dust-offs                                                                      テスト製品についてのローカルレベルでの方針転換

プロセスの中のプロセス改革

 ゼロックスは統合されたサプライチェーンの完全な実現に向けて歩み始めたが、やるべきことはまだある。機能横断的プロセスの実践によって、サプライチェーンに携わる人たちの考えは変わった。この変革から、わたしたちはさらに先に進むことができる。現在の業務では、製造に関するプロセスと、市場の需要に見合うためのより柔軟性をもった能力とが焦点となっている。顧客の需要が正確に予測できる環境にあるならば、製造に関するプロセスは全く柔軟性がなくてもいいだろう。しかし今日の環境において必要とされるのは、予測の正確性と、現状の需要に則して生産調整を行う能力との間のバランスである。これによって、責任権限、報酬の構造、工場のレイアウトとシステムについて、大きな文化の変革が求められる。このことは、一夜にしてできあがるものではない。部品の供給パターンの検証や、第一段階のサプライヤーを自身のサプライヤーと見なすことで最大の利益を得ることもまた、求められているのである。

 オーダー満足プロセスは、製造工程全体を通じて合理化されるべきであり、ゼロックスは現在この実現に向けて、組織の再構築に専心している。オーダープロセスを支えるためには、サプライチェーンに携わる人たちが互いに効率的で効果的なコミュニケーションが行えるよう、情報のフローを改善することが必要である。このことから、販売、製造部門、サプライヤーの間では、生産用の共通言語を使った会話への変革が迫られることになる。将来の能力とは、新しい製品の設計プロセスを中断して、製造とロジスティクスが柔軟に製品に反映することを、確実に保証することを意味するからだ。

変革のマネージメント

 最大の変革とは、すでに設定されている目標に、内面的な目標を合致させることである。個々の意志は、その実践を通して現われる。初めに、ひとびとに変革が必要であり求められていることを理解させることが重要である。次のフェーズでは、その理解を積極的な認識へと変換し、それを実践させ拡大しなければならない。そして最終フェーズでは、課題を達成するためにはその方法しかないのだと人びとが信念を持つように、その変革によって影響を受ける人たち自身が主体的な変革者となる。人びとが変革のアジェンダを理解し、積極的に実践できる環境が整うことによって、実践のスピードが増すのである。

 ゼロックスは現在、この意味でのサプライチェーンの統合へ向けて、大きな一歩を踏み出している。マーケティング部門と製造部門のシニアマネージャーたちによる実績評価には、総資産がサプライチェーンに組み込まれた。これにより、機能別評価は、機能横断的評価に変わった。マーケティング、製造、および開発部門のマネージャーたちは、サプライチェーンのトータル在庫を収益のパーセンテージと顧客満足として評価している。このような評価がビジネスを進めるやり方の一部になってきた次の段階では、ロジスティクス・コストを同じようなやり方で評価することになるだろう。決してそれを単なるコストセンターとして見るのではなく、たとえば、サプライチェーンを通じて起こった顧客への書類配送の過程における損失である、という具合に。これによって、個別に達成すべき課題として扱うのではなく、サプライチェーンの全体的活動におけるインパクトに焦点を絞ることになる。

図9.9 ロジスティクス・トライアングル

Asset levels                                                      資産のレベル

Logistics cost                                                    ロジスティクスコスト

Customer satisfication                                     顧客満足

Profitts return on assets                                   資産に対する利益

成功への鍵

 いくつもの基本的な要素によってパフォーマンスはすでに改善され、さらにこの先数年にわたる予定が立てられた。その成果は、サプライチェーンに携わるひとびとが合同で問題の解決にあたるような、機能横断的なものであった。そこにはシニアマネージャーの強力で一貫したサポートがあった。ベンチマーキングの強調、問題解決と品質改善のプロセス、機能横断的チームによる作業の奨励といった企業の品質文化から、変革のための好環境が生まれた。これにより、企業内の多様な部門の人びとはプロセスを記述し、分析し、改善するための共通言語を見出した。そしておそらく最も重要な要素は、短期のプロセス変革とユニット最適化といった戦略の実践によって早期に利益がもたらされたことだろう。シニアマネジャーは、変革のペースに苛々することはなかった。

 しかしこれらの実現はまだ終わってはいない。サプライチェーンプロセスの大幅な改善には、まだ道半ばである。わたしたちは大きな一歩を踏み出している。しかし、他の戦略的目標と同様に、わたしたちのレースに終わりはないのである。