サプライチェーンマネジメント論

9レッスンの0が完了(0%)。

第7章ジャスト・イン・タイムとクイック・レスポンス・ロジスティクス

このレッスンへのアクセス権がありません

コース内容にアクセスするには、登録またはサインインしてください。

過去30年以上の間にビジネス・マネジメントの世界ではたくさんの新しいアイディアやコンセプトが生まれた。ある物は残り、ある物は消えた。この中で広く受け入れられ、実践された重要なアイデアの一つがジャスト・イン・タイムである。ジャスト・イン・タイム、もしくは、JITとは技術であると同時にフィロソフィーでもある。根本にあるのは、可能であればどんな場合でも必要に迫られるまで行動を起こさないという簡単な原理である。

  したがって、川下で需要が起こらない限り、製品は生産されず、部品もオーダーされないことになる。本質的にJITとは、パイプラインの出口の需要が市場に製品を引っ張り出し、これらの製品に引き続いて部品の流れが同じ需要によって決められるという「プル」型の概念である。この概念は、製品が、需要予測に基づいてバッチごとに生産、もしくは、組み立てられ、サプライチェーンの中にある種々の機能と組織の間の「バッファー」として位置づけられる伝統的な「プッシュ」型システムと対照的である。(図7.1参照)

図7.1 ロジスティクス・チェーンにおける「プッシュ」型対「プル」型

Demand ‘pull’           需要による「プル」            

Customer                顧客

        D1      D2      D3      D4     

Finished products (demand forecast level)最終製品(需要予測レベル)

        RDC1            RCD2                   

        Regional distribution centers   地域配送センター                     

Finished products       最終製品

        Factory warehouses      工場倉庫                       

Finished products       最終製品

        Factory                         工場                       

Work-in-progress                仕掛品

        Sub-assembles           組み立て

        Components              コンポーネント

        Vender/supplier         ベンダー/サプライヤー

        Product ‘push’          生産による「プッシュ」

  顧客要求を満足させる伝統的なアプローチは、在庫のレベルが前もって決められたあるポイント、いわゆる再オーダー・ポイント(ROP)まで落ち込んだ時に通常再オーダーを行うという統計学的在庫管理の形を取っている。

  このアプローチでは、再オーダー・ポイントや再オーダー・レベルは補充リードタイムの予想される長さによって事前に決定される。(図7.2参照)オーダーされる量は在庫費用と補充オーダー費用を比較考量した経済的オーダー量に基づくであろう。

図7.2 再オーダー・ポイント方法による在庫管理

Stock level                     在庫レベル

        Reorder quantity                        再オーダー量

Reorder point                   再オーダー・ポイント

        Average lead time demand                平均的なリードタイム要求

        Lead time                       リードタイム

        Safety stock                    安全在庫

        Order placed                    オーダー

Order arrives                   オーダーの到着

        Time                            時間

  他には、図7.3で示したように、オーダーされる量が既に決定されている補充レベルによって決められる場合、オーダー間の決められた間隔で在庫レベルを周期的にレビューする方法もある。

図7.3 周期的レビューに基づく補充システム

Stock level             在庫レベル

        Replenishment level     補充レベル

        Review period           レビュー・ピリオド

  これらの統計的在庫管理には多くのバリエーションがあり、うまくマニュアル化され、長年実践されてきた。しかしながら、これらのすべてが一つの弱点を持つ傾向にある。その弱点とは在庫レベルが必要とする量より多くなるか、あるいは、少なくなるということである。こうした傾向は特に需要の割合が変化したり、需要が「不規則に」起きる場合に顕著になる。需要が不規則に起こるのは、例えばテレビの部品の需要がテレビ本体の需要に依存しているように、あるアイテムの需要が他のアイテムの需要に「依存」している場合や、工場でのテレビ本体の需要が市場での最終的な需要から派生した小売業者の需要によって決定されるように、需要が「派生」した場合である。

  図7.4では、依存需要の影響、すなわち、小売りレベルでの定期的な買取りが再オーダー・ポイントの使用によって、工場ではどのように大きな需要へと変化するかを示している。

図7.4 オーダー・ポイントと依存需要

1.      Regional distribution center (RDC) inventory:

地域ディストリビューション・センター(RDC)在庫

        many small independent demands from customers

顧客からの独立した数多くの少量需要

        inventory       在庫   

Order point     オーダー・ポイント

J F M A M J J A S O N           1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11月

2.    Central warehouse inventory:    集中倉庫在庫

few large demands dependent on RDC demand

RDCの需要に依存した数少ない多量需要

Order point     オーダー・ポイント

J F M A M J J A S O N           1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11月

3.    Plant inventory:                工場在庫

irregular demand dependent on warehouse demand

                倉庫需要に依存した不規則な需要

Order point     オーダー・ポイント

J F M A M J J A S O N           1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11月

  それぞれのレベルで合算された需要がその次のレベルで集計される多編成のディストリビューション・システムの場合にも、同じような現象が起こる可能性がある。図7.5がそのような状況を示している。

図7.5 工場での不規則な需要の原因

Combined demand at the plant    工場で合算された需要

Quanlity ordered        +               オーダーされた品質+

Combined demand                 合算された需要

        Regional center 1               地域センター1        

Regional center 2               地域センター2

Quality ordered*                オーダーされた品質*

Basic demand (pallet loads)     基本需要(パレット積み)

        Depot A                 デポA  

Depot B         デポB  

Depot C         デポC  

Depot C         デポD

        *Orders placed in multiples of 50 pallet loads

*50パレットごとに行われたオーダー

        +Orders placed in multiples of 250 pallet loads

+250パレットごとに行われたオーダー

  これらの例における共通した特徴は、ロジスティクス・システムそれぞれのレベルでの需要が、次のレベルの需要に依存しているということである。需要が直接他の在庫アイテムや製品に関係したり、派生したりする場合には、需要は「依存」していると定義される。逆に、あるアイテムの需要が他のアイテムの需要に関係しない時、つまり、他のアイテムの需要の役割を担わない時、その需要は「独立」していると定義される。この特徴は重要である。なぜなら独立需要が伝統的方法を使用して予測されるに対して、依存需要予測はロジスティクス・チェーンの次のレベルでの需要によって予測されなければならないからである。

  図7.5の例を使用すれば、地域センターにおいて合算された需要パターンに基づくデータを使用して、工場が需要を予測しようとすることは不適切であることがはっきりするであろう。むしろ需要は先行するそれぞれのレベルにおける個々の需要から計算されるべきである。最終需要のポイントにおいてのみ需要予測が適切になされる。この例ではデポが最終需要のポイントであるが、実際には、ほとんどの場合、デポでの需要はそれ自身小売業者や他の仲介業者の需要に依存している。しかしこれらの需要は明らかにサプライヤーの直接支配することのできない需要であるので、需要の予測される見通しを作成しなければならないであろう。

  古典的経済的発注量(EOQ)モデルによって、われわれは、オーダーする「最適」な量があり、したがって、保有すべき在庫量があると考える傾向にある。EOQモデルは、在庫費用を、補充オーダーのコスト、および、生産段取のコストに均衡させることによって、この最適量を導き出す。(図7.6参照)

図7.6 経済的発注量の決定

Cost                            コスト

        Total cost                      総コスト

        Inventory carrying cost                 在庫費用

        Ordering/set-up cost            オーダー・段取コスト

        EOQ                             EOQ

        Quantity                                量

EOQは以下の式で簡単に導きだせる。

                EOQ = √2AS/i

                A = Annual usage                        年間使用量

S = Ordering cost/set-up cost         オーダー・段取コスト

i = Inventory carrying cost        在庫費用

  したがって、例えば、もしわれわれが一年間に製品Xを1000個使用し、1個当りのコストが40ポンド、オーダー・段取コストが100ポンド、在庫費用が25パーセントとすれば、式は以下のとおりとなる。

                EOQ =  √2 x 1000 x 100/40 x 0.25  = 141

  問題は、この再オーダー量が、(最終日を除けば)全オーダーサイクルの1日の必要量よりも多くなるということである。例えば、もしEOQが100個であり、毎日の使用量が10個であるならば、サイクルの最初の日には90個の在庫超であり、次の日には80個の在庫超となる。

  問題を一層ひどくするのは、予想より長くなりがちな補充リードタイムの間の需要、および/もしくは、リードタイムそれ自身の変動に対する安全弁として安全在庫という追加の在庫を保有することである。

  結果として、活動資本に継続的な出費をもたらす非生産的な多くの在庫を抱えることとなる。

日本的フィロソフィー

  スペースの無さが在庫を含む物的資源の最大限の有効活用を日本の産業に促していると言われているが、これが真実であるかどうかは単にアカデミックな重要問題であるとしても、事実日本においては在庫は無駄であるとの見解が広く受け入れられている。

  日本ではしばしば在庫は大きく深い湖にたとえられる。(図7.7参照)この湖の水面下には巨大な凹凸の激しい岩山があるが、湖の深さのために船長はこれらの岩にぶつかる心配をしなくてもよい。

図7.7問題を隠す在庫

Inventory               在庫                   

        Volatile demand                 変動する需要 

Inaccurate forecasts    不確かな予測 

Unreliable suppliers    信頼できないサプライヤー 

Quality problems                品質問題 

Bottlenecks             ボトルネック

  ビジネスとの比較は簡単である。湖の深さは在庫を表し、岩山は問題を表す。これらの問題は、不確かな予測、信頼できないサプライヤー、品質問題、ボトルネック、産業間の問題などを含んでいるかもしれない。日本的フィロソフィーは在庫は単に問題を隠すというものである。したがって、その取り組み方は湖の水深を(例えば図7.7のBレベルまで)浅くすべきであるというものである。そうすれば船長は問題に直面せざるを得ず、それらを避けることはできないであろう。同様にもし在庫が削減されれば、マネジメントは予測の不確かさや、信頼できないサプライヤーなどの種々の困難に立ち向かわなければならなくなる。

  日本は湖の水深を浅くする方法としていわゆるカンバン方式を発展させた。カンバン方式は組み立て方式のオペレーションによって生まれたが、その原理はサプライチェーンや、他のオペレーションにも応用可能である。カンバン方式の名前は、材料の数量が間違いなく送られるように川上のサプライ・ポイントに合図を送るためカンバンが使用されたことに由来している。

  カンバン方式はチェーンのより下部で生じる需要によって引っ張られる「プル」型である。生産オペレーションにおいては、当面の需要に必要な量だけ生産することが目的となる。同様にこの動きはチェーンの次のワークステーションでの需要を引き起こす。

  カンバン方式の量(つまり、サプライ・ワークステーションからの需要量)を漸次削減することによって、ボトルネックがはっきりする。そうすれば、マネジメントはボトルネックに注目し、ボトルネックをもっともコスト効率のよい方法で取り除くことができる。新しいボトルネックが現れるまでさらにカンバン方式の量は削減されるであろう。したがって、カンバン方式のフィロソフィーは本質的に、すべてのステージにおいて最小限の在庫を持ち、原料と在庫の工程量および輸送量をもっとも可能な最小限の量にまで削減することによってバランスの取れたサプライチェーンを達成することである。究極の目的は「一個流し(一個の経済的バッチ量)」である。

  実際にはこの理論は必ずしも経済的バッチ量(もしくはオーダー量)の伝統的な決定方法と矛盾しない。違っているのは、日本がオーダー・コストや段取コストを表す曲線を左に移動させることによってバッチ量を最少化しようとしていることである。(図7.8を参照)言い換えれば、日本は段取コストとオーダー・コストを削減する方法を追求することに注力しているのである。

図7.8 段取コスト/オーダー・コストの削減

Cost            コスト

Order/batch quantity    オーダー量/バッチ量

経済的バッチ量とオーダー量に関して曲線を左に移動させる効果が図7.9に示されている。

図7.9 経済的バッチ量/オーダー量の削減

Cost                    コスト

        Total cost (1)          トータル・コスト(1)

        Total cost (2)         トータル・コスト(2)

        Inventory carrying cost 在庫費用

        Set-up cost (1)         段取コスト(1)

        Set-up cost (2)         段取コスト(2)

        EOQ(1)                  EOQ(1) 

EOQ(2)                  EOQ(2)

Order/batch quantity    オーダー量/バッチ量

ロジスティクスに対する影響

  生産および製造における一般常識がバッチ量を最大化するということと同じように、サプライチェーンの他の部分でも同様な考え方が見受けられる。したがって、われわれはコンテナー単位やトラック単位で輸送しようとするし、顧客はプライス・ペナルティーのために少量でのオーダーを躊躇するし、また、デリバリー・スケジュールは一般的にルートの効率性とデリバリー貨物の混載を最適化することに重点を置いている。明らかにそのようなアプローチはJITのサプライチェーンの要件とは正反対である。JITフィロソフィーのもとでは少量のシップメントが頻繁に行われ、顧客の要求する正確な時間にミートしなければならない。

  ロジスティクス・マネジメントとは、非経済的なコストの上昇なしにこれらの要求を達成できる方法を発見しようとすることである。トレードオフが無くてはならないかもしれないが、そのゴールは総合的なサプライチェーンの費用効果を改善することでなくてはならない。

  すでに多くの組織が様々なやり方でこの挑戦にこたえてきた。JITロジスティクスの基本的理念は、チェーンのすべての要素が同期化され、シッピングと補充需要のすばやい識別が存在しなければならないということであり、もっとも重要なことは、最高レベルの計画管理を確実に行うということである。この計画管理における顧客の義務は、事前に決定されたスケジュールを「固定」するためにそのスケジュールを確約することである。言い換えれば、いったん合意されたリードタイム内で需要が川上のサプライヤーに対して伝えられれば、それらの需要は変更できないのである。

  更なるJITロジスティクスに対する影響とは、もしサプライヤーの保有する超過在庫を取り除かなければならないとすれば、工場に入ってくる原料フローの管理が重要な問題となるということである。特に混載する機会を捜し求めることがもっとも優先されなければならない。したがって、たとえば、一つのサプライヤーが顧客に対して少量でJITデリバリーを続けるよりもむしろ、多数のサプライヤーからのオーダーが一つのデリバリーに混載されるべきである。マネジメント・フィロソフィーとしてのJITの出現が工場向け混載サービスに精通したサードパーティー・ロジスティクス・カンパニーの成長と一致していることは多分驚くべきことではないであろう。これらのサードパーティー・サービスは、工場向けデリバリーのための仕分けや混載を行うセントラル「ハブ」や集配センターを利用する「ミルクラン方式」にもとづき、サプライヤーから原料や部品のピックアップを行うことができるのである。このサービスにはまた品質コントロール、加工、連番管理、最終組み立てのような付加価値サービスも含まれている。

  このようなサードパーティー・サービスのよい例が、英国においてTNTがローバーに提供しているサービスである。この例では、サプライヤーとTNTがともにローバーの工場に隣接する特別にデザインされたTNTの集配センターに混載した部品をデリバリーする。部品は要求された量で要求された時間に組み立てラインの使用ポイントにデリバリーされるまで連番管理される。これによって工場向け原料フローのスムースな流れが可能となり、工場での完成車デリバリーが混み合わない。

企業文化へのJITの影響

問題                    一般常識                                JITの戦略的考え

質対コスト              「容認できる質」での                最高で、首尾一貫した質

最も安いコスト                  「ゼロ・ディフェクト」

在庫                    大量在庫                                「継ぎ目の無い」デリバ

                        -大量購入ディスカウント              リー・フローによる少量

                        -製造スケール・メリット                在庫

                        -安全在庫によるプロテクト

フレキシビリティー      長く「最低限の」リードタイム    短いリードタイム

                        最低限のフレキシビリティー    顧客サービス主導による

                                                        高いフレキシビリティー

輸送                    「容認できるサービス・レベル」での       完全に信頼できるサービ

                        最も安いコスト                  ス・レベル

ベンダー/キャリヤー    タフで「敵対的な」交渉                ジョイント・ベンチャー

                                                        的「パートナーシップ」

サプライヤー/キャリヤー        多い。一つのソースを避ける。  少ない。オープンな関係

の数                    信用度、依存度が無い。

ベンダー/キャリヤーの  最低限。多くの秘密。                オープン。情報の共有。

コミュニケーション      きつい管理。                    共同した問題解決。多角

的な関係。

一般                    ビジネスはコスト主導                ビジネスは顧客サービス

主導

出展 George A. Issac III, Creating a Competitive Advantage Through Implementing Just-in Time Logistics Strategies, Touche Ross, Chicago, U.S.A.

  自動車業界のような複雑な組立工程においては、組み立て前に部品を事前に連番管理することが重要である。(以下の英国日産における組み立てラインへのシートのデリバリーを参照)

同時デリバリー いかに英国日産がシートを受け取るか

経過時間

0      -ペイントされたボディーが日産のトリム・ラインへ発送される。

-次に生産される12台の車の正確な車体スペックが日産からシート・サプライヤーへデータ送信される。

-サプライヤーはピッキング・リストに情報を送信する。

-レンジからシートカバーが選択される。

1      -(逆オーダーによって)組み立てのためにカバーが用意される。

        -部品(フレーム、フォーム、完成品、プラスチック部品)の同時生産によるシ

ート組み立て

2      -品質検査と積み込み

        -特別車による在庫ポイントへのシートのデリバリー

        -ライン・サイドでの在庫

3      -フロント・シートに続いてフィットするリアシートの作成(待機用の台が空のワゴンへ返却される)

-15から20分ごとのデリバリー間隔

  効果的なJITロジスティクスに更に必要なのは、少なくとも情報共有と協調プランによる顧客とサプライヤーとの可能な限りの密接な関係である。以下のフォルクスワーゲンと部品サプライヤーとの関係はそういった一つの例である。

バンパーのジャスト・イン・タイム

  1988年の終わりにフォルクスワーゲンはエムデン工場でパサートの新しい組み立てラインを2つ稼動し始めた。

  大型部品の射出成型のスペシャリストであるペグフォルムが、ジャスト・イン・タイムにしたがった組み立てのため、パサートのバンパーを供給することが決定された。

  エムデンから50キロ離れたオルデンブルグにあるペグフォルムの新しい工場では、フォルクスワーゲンの「予定組立スケジュール」が実際の組み立ての6ヶ月前に受け取られ、定期的にアップディトされるために、適切なバッチ・サイズでのバンパーの成型とペイントが可能となり、バンパーは84のバリエーションをもつ中間在庫品として保管される。

  エムデンでの実際の組み立て6時間前に最終組立スケジュールがペグフォルムに送られる。フォルクスワーゲンで6時間後に行われる最終組立に一致する正しい順序で39秒ごとにバンパーのワンセットが中間在庫から取り出される。

  これらのセットはチェーン・コンベヤーを使って2つのバンパー組立ラインに移動され、そこでスティール・インレー、フォグランプ、キャラバン・フック、マウンティング・エイド、その他の部品が装備される。

  300以上のバリエーションが可能である。

  それぞれのバンパー組立ラインは78秒ごとに一つのバンパーセットを製造する。バンパーは特殊なパレットに積まれて、トラックに積み込まれる。取り替え可能なコンテナーがいっぱいになれば、フォルクスワーゲンのエムデン工場に運ばれる。オルデンブルグでの積み込みとエムデンでの積み下ろしはよく組織されているので、最終組立の順序は乱れない。

  エムデンの積み下ろしと組み立てポイントの間は1時間のバッファーが用意されている。

  JITによる解決は必ずしも適切であったり、正当化されるものではないという点が強調されるべきである。JITを正当化するのは需要量の問題ではない。それどころか、大きな数量でたいてい需要予測可能な製品であれば、伝統的な経済的バッチ量に基づき作業することが最も効率がよいであろう。そうではなく、JITロジスティクスの実行可能性に実際影響を与える変数は、一つのカテゴリーの中にあるいろいろなオプションとアイテムの価値である。(フォルクスワーゲンの例で言えばバンパーの異なるスタイル、形、色等である。)一般的に種類に対する要求が多くなり、価値が高くなれば、JITと特に同時デリバリーがより好ましくなる。(図7.10参照)

図7.10 JITと同時デリバリーの正当化

Variety                                 種類

        JIT & synchronous deliveries    JITと同時デリバリー

        Economic batch quantities       経済的バッチ量

        Value                           価値

  要約すれば成功するJITロジスティクスの要件は以下のとおりである。

  • 工場向け需要のプランニングとスケジューリングの管理アプローチ
  • サプライチェーン・パートナー間のコミュニケーションと計画連関の高度化
  • 工場向け混載と連番管理のためのサード・パーティーもしくはロジスティクス・パートナーの高い使用頻度
  • 積み込み、および積み降しをすばやく行い、少量出荷を容易にする車両や設備のデザイン
  • 必要なマテリアルの価値と種類が平均より高くなる傾向

クイック・レスポンス・ロジスティクス

  JITフィロソフィーは「クイック・レスポンス・ロジスティクス」の名のもと最近普及している。クイック・レスポンス(QR)の基本的考え方は、時間ベースの競争で優位を得るためには、機敏ですばやいシステムを発展させる必要があるということである。したがって、QRとは、「適正な時に、適正な場所へ、適正な製品」を供給するために結合したインフォーメーション・システムとJITロジスティクス・システムを包括した用語である。

QRを可能としたのは、インフォメーション・テクノロジーの発展と、特に電子データ交換(EDI)、バーコードの登場、POSシステムおよびレーザー・スキャナーの使用などである。

本質的に、QRにある理論は、需要はできるだけリアルタイムで、また、できるだけ最終消費者に近い場所で捉えられるべきであり、ロジスティクス・レスポンスはこの捉えられたインフォメーションの結果実行されるべきであるというものである。このようなアプローチの例は、北米の最大リテーラーであるウォルマートのレジから直接売上データを受け取っているプロクター・アンド・ギャンブル社(P&G)のケースでみられる。このインフォーメーションを利用することによって、P&Gは生産計画を行い、補充ベースでのウォルマートへのデリバリー・スケジュールを作成する。この結果、ウォルマートは在庫が少なくなり、同時に、品切れも少なくなる。一方、P&G社はすばやい情報を得ることによってより効率のよい生産とロジスティクスを行えるというメリットがあるだけでなく、もっとも重要なことは、ウォルマートへのセールスを著しく増やすことができたということである。インフォメーション・システムへの投資は膨大であるが、その回収もまた膨大である。QRの初期での導入によって2年以下での資本回収が期待できる。

  QRは明らかに在庫に代わってインフォメーションを利用する古典的なケースである。図7.11はより高度なサービス・レベルが要求される場合のQRの比較優位を示している。QRには高い固定費が必要かもしれないが、サービス改善に係わる増分原価は比較的低いのである。

図7.11 クイック・レスポンス・システム対伝統的在庫依存システム

Cost            費用

        Inventory       在庫

        Quick responses クイック・レスポンス

        Service level   サービス・レベル

  QRシステムの更に有利な特徴は、システムのプロセス・タイムをスピード・アップすることによって、累積リードタイムが短縮されることである。この結果、在庫を少なくすることができ、(図7.12参照)それによって更にレスポンス・タイムを短くすることができる。要するに、「好循環」である。

図7.12 ロジスティクスの「好循環」の引き金となるクイック・レスポンス・システム

        Quick responses                 クイック・レスポンス

Less inventory required         必要な在庫が少なくなる

Less pipeline inventory         パイプライン在庫      が少なくなる

Reduced lead times              リードタイムが短くなる

        Less safety stock               安全在庫      が少なくなる

Reduced forecasting error       予測間違いが少なくなる

  クイック・レスポンス・システムは、バイヤーの事前の購買決定に基づく伝統的な在庫依存システム(要するに「プッシュ」型)のコストが巨額になる可能性の高いファッション業界とアパレル業界で現われ始めた。ある試算によれば、伝統的ロジスティクス・システムを行っている米国のテキスタイルおよびアパレル産業において掛かるコストは254億ドルであった。その内訳は以下のとおりである。

                強制値引き      140.8億ドル

                品切れ          60.8億ドル

                在庫費用                50.8億ドル

                トータル                254.4億ドル

  もしQRのコンセプトがサプライチェーン中に受け入れられたとしたら、チェーンのすべての関係者は多大な利益を得ることができるかもしれない。したがって、ファッション衣料の場合には、その目的は、小売業者がアパレル製造業者にリンクすることであり、また、アパレル製造業者が生地のサプライヤーにリンクしているテキスタイル製造業者にリンクすることである。一つの報告されているケースでは、米国にあるテキスタイル企業のミルキンと、男性用スラックスのメーカーであるセミノール製造会社、および、リテーラーのウォルマートが、インフォーメーションを共有することによってリンケージを作り上げている。最終消費者需要の情報がセールス時点でキャッチされ、すばやくサプライチェーンの中をフィードバックすることにより、リードタイムの目覚しい短縮が達成でき、これによって、在庫の大幅な削減も可能となった。

  米国で行われている他のケースが、小売りファッション店である「リミテッド」のチェーンの中にみられる。チェーンの中の何千もの店がそれぞれPOSデータを使って毎日顧客の好みを追っている。これをもとにして、オーダーが世界中のサプライヤーに対して衛星通信によって送られる。香港を混載センターとして利用し、商品はオハイオ州コロンバスにあるリミテッドの配送センターへ運行しているボーイング747のチャーター便によって週に4回米国に送られる。配送センターで商品は値札を付けられ、トラックと飛行機による小売店へのすばやい積み出しのために再保管される。再オーダーから小売店に並べられるまでのすべてのサイクルを6週間で行うことができる。伝統的なシステムでは6ヶ月以上掛かるであろう。

ベンダー管理在庫

  伝統的に、顧客がサプライヤーに対してオーダーをする。この理論は自明なようであるが、固有の非効率さが重要な問題となっている。第一に、サプライヤーは事前に需要の情報を与えられない。彼らは予測することを余儀なくされ、結果として不必要な安全在庫を抱える。第二に、サプライヤーはしばしば予測していなかった製品の短期需要に直面し、このことが彼らの製品や配送スケジュールの頻繁な変更につながって、余分なコストを生み出す。逆説的な最終結果は、避けられない膨大な品切れによって顧客サービスが損なわれるというものである。

  いまでは需要を管理する代替方法が出現した。修正モデルでは、顧客はもはやオーダーをせず、その代わりにベンダーと情報を共有する。これらの情報とは、顧客の製品の消費量や販売量、現在の手持在庫、販売促進のようなマーケティング活動の詳細などに関するものである。

  これらの情報をもとにして、サプライヤーは顧客の在庫の補充に責任を持つ。オーダーが行われないかわりに、顧客がキープしておきたいと望む在庫量の上限と下限が示される。

  その在庫量の幅の中に顧客の在庫を維持することがサプライヤーの責任となる。

  顧客へのベネフィットは在庫レベルが著しく削減され、品切れリスクも消えることである。さらによくあることだが、顧客は在庫が販売されたり、使用されたりするまで在庫の支払いを行わなくてよく、かなりのキャッシュ・フロー・ベネフィットになる。サプライヤーの利点は、電子データ交換によって実際の需要の情報に直接アクセスできるため、生産と配送をより効率よく計画およびスケジュールすることができ、それによって、設備稼働率をあげ、同時に安全在庫に対する要求が著しく削減されることである。

  需要管理と補充のこのシステムはベンダー管理在庫(VMI)として知られているが、このアレンジがたいてい顧客とサプライヤーの親密な協力関係に依存しているため、共同管理在庫(CMI)という用語の方がより適切であろう。

ロジスティクス・インフォメーション・システム

  優良企業は互いに共通点を持っている。それは、クイック・レスポンスを実現するための情報と情報テクノロジーの使用である。情報システムは組織形態を作り変え、また、組織間のつながりを本質的に作り変えている。情報はいままでも効果的なロジスティクス管理の中心であったが、情報テクノロジーによって、いまでは、競争的ロジスティクス戦略の原動力となっている。

  現在では、生産や配送といったビジネス業務を、一方ではサプライヤーの業務、他方では顧客の業務にリンクさせる統合されたロジスティクス・システムが登場している。これらのシステムはよく統合業務システムもしくは統合業務パッケージ(ERP)と呼ばれている。すでに企業は、共有された情報を通じて、市場における製品の補充と川上でのサプライヤーの業務を文字通りリンクしている。これらのシステムの使用は、予測を通じて需要を予期しなければならないというよりも、既知の需要にレスポンスすることができるという意味で、サプライチェーンをデマンドチェーンに変化させる潜在性を秘めている。

  典型的な例は、BhSの英国の店で販売されている衣類とアパレルの補充プロセスから生じた情報システムである。販売ポイントからの毎日の情報によって、本社は補充需要を決定できる。この情報は、個々の店舗の需要をバーコード管理された小口貨物にまとめるサプライヤーに直接送られる。これらの小口貨物はロジスティクス・サービス・プロバイダーによって集荷され、彼らの集配センターで店舗ごとに仕分けされる。要するに、ジャスト・イン・タイム・デリバリーが実現され、店舗の在庫を最小限に抑えることができ、混載によって輸送費も抑制される。(図7.13および7.14参照)

図7.13 日々の販売データ主導の再供給オーダー・システム

Supplier                        サプライヤー         

        Logistics service company       ロジスティクス・サービス会社

        Head office                     本社

        Store                           店舗

図7.14 情報に基づいて混載ピックアップと店舗ごとのデリバリー管理が実行される

Scheduled pick-ups from suppliers

サプライヤーからの計画されたピックアップ   

Transshipment centre            集配センター

        Consolidated local delivery     混載されたローカル・デリバリー       

Supplier                        サプライヤー         

        Logistics service company       ロジスティクス・サービス会社

        Head office                     本社

        Store                           店舗

  他のケースで組織は情報を通して散らばった在庫をまるで一つの在庫のように管理できることを発見した。このベネフィットは大きい。もし在庫が集中管理され、補充とオーダー量の決定がまるで一つの在庫のように行われれば、多くの安全在庫は必要でなく、たった一つの安全在庫だけがあれば十分となる。在庫自身は生産ポイントの近くであろうが、消費地点の近くであろうが、システムのどこででも保有することができる。これは「仮想」在庫管理や、電子在庫と呼ばれている概念である。

  スウェーデンのベアリング・メーカーであるSKFはグローバル予測供給システム(GFSS)と呼ばれるヨーロッパ全域でのネットワークを確立した。GFSSは、ヨーロッパの顧客がSKFのセールス・オフィスや電子データ交換(EDI)を通じてオーダーをした時点で需要を把握することのできる需要管理システムである。リアルタイムでコンピューター・システムはオーダーされたアイテムが保管されている場所を確認し、もし在庫が無ければ、SKFの五つの主要工場のどの工場でいつ次の生産が行われるかを確認する。この情報システムはこの確認に並行して輸送スケジュールを立てるので、顧客のオーダーがGFSSに受け取られると同時に、デリバリーする日の確認書が発行される。

  この種のシステムはだんだん平凡なものとなってきている。なぜならオープン・システム構造によって、コンピューター同士のリンクがより簡単に実現できるようになったからである。デジタル・エクィップメント・コーポレーションは、組織がパイプラインの一方の端からもう一方の端まで需要を管理することができる汎用的な統合ロジスティクス情報システムを開発した。図7.15はこのシステムの構造を示している。

図7.15 統合ロジスティクス情報システム

出展:Digital Equipment Corporation

Billing                         請求       

Credit                  クレジット       

Demand flow data                需要フロー・データ           

Production scheduling   生産計画               

Purchasing              調達

Shipped                 船積

Billed                  請求   

Committed               与信

Available               使用可能                                       

Scheduled               計画           

Request                         リクエスト

E.T.A.                  到着予定

Requisition             調達依頼

Demand flow management  需要フロー管理       

Economic shipping units 経済的船積単位

Actual demand           実際の需要       

Replenishment requirements      補充需要                     

Allocation              配分           

Rated shipments         みなし船積

Forecast demand         需要予測               

Available               使用可能                               

Shipped                         船積       

Loads to pick           引取のための積み込み

Forecasting             予測           

Deployment              配置           

Finished goods inventory status         完成品在庫状況 

Finished goods warehousing              完成品倉庫保管 

Transportation                          輸送

promotion schedules                     販売促進        スケジュール

Minimums maximums EOQ                   最低・最大EOQ

Transaction reporting                   取引報告              

Receipts adjustments                    受取調整

Locations service areas stocking rules        サービス・エリア保管ルール

Shipments                               船積

Routes carriers rates                   ルート・キャリヤー・レート

Promotion scheduling                    販売促進        スケジュール

Inventory planning                      在庫計画         

Inventory costing                       在庫原価計算           

Networking planning                     ネットワーキング        ・プランニング

Transportation planning                         輸送計画

  ロジスティクス情報システムは、単にサプライチェーンの統合を達成させるための手段として考えられるべきではない。ビジネスの内部管理は、オーダー履行に関するすべての活動を計画し、調整し、管理する能力を通して大幅に改善することができる。図7.16は、ロジスティクス情報システムの基本的機能を示すと共に、共通のデータベースによって、ロジスティクス・プロセスの中にある重要な部分をそれぞれより効率的に管理するためにどのように情報を供給することが可能であるかを示している。

図7.16 ロジスティクス情報システムの機能

Planning function       計画機能

Stock management                在庫管理

By product/customer     製品/顧客別

By location             地域別

Demand forecasting      需要予測

        Strategy planning       戦略計画

        Co-ordination function  協力機能

        Production scheduling   生産計画

        Materials requirements planning 原料調達計画

        Sales/marketing planning        セールス・マーケティング計画

        Data base               データベース

        External data           外部データ

        Customer orders         顧客オーダー

        Inbound shipments       工場向け船積

        Internal data           内部データ

        Production              生産

        Inventory               在庫

        Customer service communication function       

顧客サービス・コミュニケーション機能

        Customer order status   顧客オーダー状況

        Inventory availability  在庫使用可能状況

        By product              製品別

        By stock location       在庫地域別

        Inbound shipment status 工場向け船積状況

        Control function                管理機能

        Customer service levels 顧客サービス・レベル

        Vender performance      ベンダー・パフォーマンス

        Carrier performance     キャリヤー・パフォーマンス

        System performance      システム・パフォーマンス

ロジスティクス・システム・ダイナミクス

  QRとJITロジスティクスへ移行する大きなアドバンテージの一つは、ロジスティクス・システムの中のロット量を減らし、スループットの割合を増大させることによって、パイプラインの中の活動レベルの変動を減らすことできることである。

  ロジスティクス・システムは、産業ダイナミクスとして知られる技術を発展させたジェイ・フォレスターの名前を取った「フォレスター効果」を持つ傾向にある。フォレスターは産業ダイナミクスを以下の様に定義づけた。

「産業ダイナミクスとは、組織構造、(方針の)拡大、(決定と収益の)時間的遅れが、どのように相互に作用し、企業の成功に影響するのかを示すために、産業活動の情報のフィードバック特性を研究することである。それは企業、産業、国家経済の情報、金、オーダー、原料、人、資本財のフローの間にある相互作用を扱う。」

「産業ダイナミクスは、マーケティング、製造、会計、研究開発、資本投資といった管理部門の機能を統合するための唯一の枠組みを提供している。」

  特別に開発されたコンピューター・シュミレーション言語であるDYNAMOを使用することによって、フォレスターは、配送チャンネルであるリテーラー在庫、ディストリビューター在庫、工場在庫という三つのレベルを含む製造・配送システムのモデルを開発した。それぞれのレベルは情報フローと物のフローによって相互に結び付けられた。このモデルは、現実の関係とデータを使用し、オーダー伝達タイム、オーダー・プロセス・タイム、工場リードタイム、船積デリバリー・タイムといったパラメーターを含んでいた。そして、マネジメントは、たとえば、小売売上の変化、変更された製造レベルの影響、他の方針変更や、それらの変更の組み合わせといったトータル・システムに対する影響を吟味することができた。

  この複雑なシステムのモデル化から明らかになったことは、システムの一つのパートにある小さな障害が、パイプライン中にとてもすばやく影響を広めるように拡大し得るということである。

  ディスカウントなどのセールス・プロモーションに多大な資本を投入する消費財製造メーカーの多くが、それらの活動の本当のコストがなんであるのかを理解していない。まず、ディスカウント自身によるプロフィットの減少がある。また、ロジスティクス・システムへの障害という隠されたコストも存在する。プロフィットの減少から考えてみよう。ディスカウントが限定された期間だけ提供された場合には、そのディスカウントは明らかに、増加したセールスだけではなく、すべてのセールスに適用される。したがって、もしプロモーション期間中のセールスが例えば1100ケースであり、プロモーションが無ければセールスは1000ケースであったと仮定すれば、増加した収入は増加した100ケースから生じるだけである一方、ディスカウントは1100ケース全てに適用される。さらに、小売業者は、ディスカウントと「先渡しオーダー」による利益を得ようと考えるかもしれない。言い換えれば、後日定価で売るために、将来の需要を購入するのである。ある研究によれば、このような理由のために16パーセントのプロモーションのみがプロフィッタブルであり、残りはただの赤字の「買取りセールス」である。表7.1はこの問題を示している。

表7.1 利益を生まないトレード・プロモーション経済

                                        ケース数              総額(ドル)

ベースライン*

(プロモーションが無かったとしても

4週間のプロモーション期間の間に

生じたと思われるセールス)                 400                4,000

顧客への増加したセールス+

1週間の呼び物による                       100                1,000

3週間のディスプレイと価格引き下げを

行った50パーセントの店舗による           250                2,500

4週間の価格引き下げだけを行った

50パーセントの店舗による                   80                   800

総計                                      430                4,300

リテーラーによる10週間の先買い         1,000                10,000

プロモーション期間中の総セールス                1,830          18,300

プロモーション費用

($18,500 x 15% ディスカウント)                                2,745

1ドルの売上増に対するコスト

(プロモーション費用割る総増加セールス)                          .64

プロモーション効果

(顧客に販売された増加ケース割る

総販売ケース)                                            23.5%

*週のセールスが100ケースで1ケースごと10ドルの定価を想定している。

+シングル・ソース・データと小売業者のプロモーション購入の分析による。

  この仮定した例での理想的状態に係わらず、プロモーションはそれが生み出す1ドルの増加に対して64セントの費用を製造業者に負担させる結果となる。もし製品の粗利益率が64パーセント以下ならば、プロモーションは損をするであろう。

プロモーション活動のプロフィットに対する二つ目のインパクトは、プロモーション活動が「加速効果」と、これによって生み出されるロジスティクス・パイプラインを通してのフォレスター・タイプのコスト急上昇を引き起こすかもしれないということである。これは、ほとんどのロジスティクス・システムにおいて「リード・アンド・ラグズ」が生じること、言い換えれば、システムの中のインプットや変化に対するレスポンスが遅れるということが理由である。たとえば、倉庫やディストリビューション・チャンネルの中間在庫の存在が、工場での需要に起こる本質的なひずみの原因となり得る。これはシステムの中のオペレーションの特性に生じる変動の原因となり得る「加速効果」のためである。

小売業者に製品を卸している卸売業者にその製品を供給しているメーカーの例を取ることによって、加速されるひずみの効果を示すことができる。メーカーはバッファーとして8週間の在庫を維持しなければならないポリシーを持ち、卸売業者は12週間の在庫を維持し、小売業者は3週間の在庫を持つ。プロモーション活動のような理由により、月間の最終消費者需要が前月比10パーセント増加したとする。もし小売業者が従来のサービスレベルを維持したいと望むならば、小売業者は3週間の安全在庫を維持するために10パーセントではなく、11パーセント(つまり、10+10(3/52))卸売業者へのオーダーを増やす。卸売業者は11パーセントの需要増に直面し、もし在庫レベルを調整し直すならば、メーカーへの月間オーダーを13パーセント(つまり、11+11(12/52))増加させる。同様に、8週間の安全在庫を望むメーカーは15パーセント(13+13(8/52))生産を増やすことになる。したがって、10パーセントの消費者需要増は、結局15パーセントの生産増につながる。もし最終需要が次の期に落ち込めば、同様な逆の現象が起こるであろう。

プロモーション活動をよく行う企業が継続的に工場向け出荷の大幅な減少や増加を経験するは珍しいことではない。図7.17は、そのようなプローモーション活動が工場に及ぼす遅行効果と増幅効果を示している。製造需要におけるこのような予測できない変化が製造単価を著しく引き上げることが想像できよう。

図7.17 プロモーション活動が製造需要に及ぼすインパクト

Volume                  量

Norm                    平均水準

Retail Sales            小売売上

Production requirements 製造需要

プロモーション活動がよく行われるグローサリー産業においては、小売取引のオーダー・ポリシーとサプライヤーの製造スケジュールがより密接につながる必要性が認められる。米国においては、製造ラインの最初から小売店で消費者に購入されまでの時間が一般的なドライ・グローサリー製品で83日であるとみられている。(図7.18および7.19参照)

図7.18 グローサリー産業のデリバリー・オーダー・サイクル

出展:米国グローサリー生産者協会

        Retailer                        小売サイド

        Manufacturer            生産サイド

Initiate order          初期オーダー

        Order transmission      オーダー送信

        Receive order and initiate processing        オーダー受領・初期処理

        Order processing                オーダー処理

        Authorize shipment      船積許可

        Delivery                        デリバリー

        Interface               境界線

        Receive shipment and store      貨物受取・保管

        Retail warehouse storage                小売倉庫保管

        Place on shelf          店頭販売

        In-store inventory storage      店舗内在庫

        Remove product from shelf       店頭からの製品の排除

        Inventory depletion             棚卸減耗

        Complete production and store   生産完了・保管

        Warehouse order                 倉庫オーダー

        Manufacturer inventory depletion                製造者棚卸減耗

        Initiate production cycle               初期生産サイクル

        Production                              製造

        Purchase materials                      原料の購買

        Ram material storage                    原料保管

図7.19 グローサリー産業の生産フロー

出展:米国グローサリー生産者協会

        Retailer                        小売サイド

        Manufacturer            生産サイド

Initiate order          初期オーダー

        Order transmission      オーダー送信       

        1 day                   1日

        Receive order and initiate processing        オーダー受領・初期処理

        Order processing                オーダー処理

        Authorize shipment      船積許可

        6 days                  6日

        Delivery                        デリバリー

        Interface               境界線

        Receive shipment and store      貨物受取・保管

        18 days                 18日

        Retail warehouse storage                小売倉庫保管

        Place on shelf          店頭販売

        24 days                 24日

        In-store inventory storage      店舗内在庫

        Remove product from shelf       店頭からの製品の排除

        Inventory depletion             棚卸減耗

        1-3 days                                1-3日

        36 days                         36日

        Complete production and store   生産完了・保管

        Warehouse order                 倉庫オーダー

        Manufacturer inventory depletion                製造者棚卸減耗

        Initiate production cycle               初期生産サイクル

        Production                              製造

        Purchase materials                      原料の購買

        Ram material storage                    原料保管

これは、需要変化の「津波」効果が、すべての中間在庫と再オーダー・ポイントを通過して著しく増幅される可能性があることを示している。クイック・レスポンス・システムのベネフィットの一つとして、小売のキャッシャーと製造ポイントを電子データ送信でリンクすることにより、この急上昇効果を劇的に抑えることができる。この事実だけでも、リンクされたバイヤー/サプライヤー間のロジスティクス情報システムへの初期投資を正当化するのに十分であろう。

クイック・レスポンスの生産戦略

サプライチェーンの関係者全員からクイック・レスポンスの要求が高まっており、この動きは、より短いタイム・フレームでよりバラエティーに富んだサービスを求める顧客の要望を満たすよう生産サイドにプレシャーを与えている。

それに対する答えはフレキシビリティーでなければならない。われわれが既に見たように、もし生産リードタイムとロジスティクス・リードタイムをゼロまで削減できるならば、完全なフレキシビリティーが達成できる。言い換えれば、組織はどのような量でも技術的に実行可能であるリクエストであれば答えることができるかもしれない。ゼロ・リードタイムはあきらかに達成不可能ではあるが、フレキシブル生産システム(FMS)に対する新しい焦点は、この方向への本質的な進展の可能性におかれている。

ロボット工学のような新技術はフレキシブルな生産の達成に大きく貢献できるけれども、生産フレキシブルの主要な要因とはならない。生産フレキシブルへの大きな障害は、変更に掛かる時間、特にボリュームのあるレベルから他のレベルへの変更や、一つの種類の生産から多品種の生産への変更に掛かる時間である。一般的にこの時間は「段取り替え時間」と呼ばれている。もし段取り替え時間をできる限りゼロに近づけることができるならば、顧客要求へのフレキシブルなレスポンスには何の問題も起こらなくなることが明らかとなるであろう。

日本の企業は、驚くことではないが、率先して段取り替え時間削減の技術を発展させてきた。「シングル段取り」が日本の工場の最終目標である。言い換えれば、マネジメントと工場は、常に段取り替え時間の削減方法に注力しているのである。ときどき、そのような削減は新技術を含んでいるが、たいていはプロセス自身を完全に異なる方法によって捉えることにより達成される。多くの場合、単に一般常識に疑問を投げかけることによって、段取り替え時間は時間単位から秒単位までに削減されてきた。

要するにわれわれは、大量生産によってほとんど変更のない長い製造工程を伴う規模の経済から、多品種少量生産によってより多くの変更が必要となる範囲の経済への本質的な転換を経験しているのである。

範囲の経済モデルでは以下のようなことが暗示されている。

「ある工場では、一定のレベルで単一の製品を製造することを専門とする別の工場と少なくとも同じコストで多品種の製品を生産できる。言い換えれば、一つのユニットの経済的オーダー量(EOQ)および特別な製造デザインは付加コストを生まない。範囲の経済は原料主導のバッチ・システム・テクノロジーを多機能フロー・システム組織に変える。」

このフレキシビリティーがもたらすマーケティング優位は非常に大きなものである。要するに企業は多様な顧客の要求を適確に引き受けることができ、「黒でありさえすれば、お好みのどんな色でも」というヘンリー・フォードの「T」モデルのモットーに代わり、より高度なカスタム化を提供できる。顧客が個々に探し、「ニッチ」部門がより小さくなっている今日の市場においては、競争優位の主なソースは、フレキシブルな生産を多様な顧客のニーズにリンクさせることによって得られる。

典型的な例が、特に色に注力することによって、ファッションの変化に対する機敏なレスポンスを行い、ワールドワイドなビジネスを作り出したイタリアのファッション・メーカーであり、ディストリビューターでもあるベネトンにみることができる。ニット製品を小さなバッチで染色することのできる革新的プロセスを発展させることによって、ベネトンは多様な色の在庫をそれぞれ大量に保有する必要性を減らし、染色の小さなバッチによって、自らのフレキシビリティーを大幅に高めた。ベネトンのレスポンスの速さはまた、市場の販売情報のすばやいフィードバックによって支えられているハイスピードな配送システムに行った投資によっても支えられた。

多くの企業が、今、マス・カスタマイゼーションのマーケティング戦略を可能にするサプライチェーンの構築を模索している。この裏には、今日多くの市場において顧客がそれぞれの特別な要求のためにオーダーメイドの解決策を要求しているという背景がある。完成品在庫を増やすことなく、また、生産オーダーに通常掛かる生産費を上昇させることなく、このマーケティングの目標を達成する方法を見つけ出さなければならない。

この目標は、実際の顧客の需要がわかるまで、製品の最終形態や最終組立を引き伸ばすことによって達成できる。デル・コンピューターやヒューレッド・パッカードが押し進めている戦略がそのような例である。

他には、コンピューター援用設計(CAD)や、コンピューター援用製造(CAM)の形のハイテクがマス・カスタマイゼーションのための方策を提供している。どのようにテクノロジーが個別の顧客要求に対して製品をカスタム化する支援ができるかという興味深い例が、米国の小さな靴メーカーであるカスタム・フットにみることができる。彼らの店舗は、スタイルや、皮の種類、色などのサンプルを置いているだけで、在庫を抱えていない。顧客は利用できるオプションから選択を行った後、完全な足へのフィットを実現できる最新式のスキャナーで足のサイズを正確に測る。電子オーダーが彼らのイタリアのサプライヤーに送られ、米国の顧客に3週間以内に完成品がデリバリーされる。これらの完成品は非常に競争的な値段で購入できる。

日本においては、トヨタが、たとえオプションが制限されても、顧客の需要に対する高度なレスポンスを提供できるフレキシブルな生産とロジスティクスの原理を使用してきた。(図7.20参照)

トヨタの生産システムの特徴は、「日次適応生産計画」の概念である。その目的はすべてのバリエーションを少なくともいくつかは毎日生産することである。理想的には、(需要が有ると仮定して)すべての工場が毎日すべてのバリエーションを生産することを目指すべきである。そのねらいは、最小限の在庫から需要を満たすため、バリエーションの最適混合によって「レベル・スケジュール」を達成することである。

図7.20 トヨタは重要なオペレーションをより早く行っている

        New product development         新製品開発

        Self-organizing development     自己管理開発チームと早期のサプライヤー

        teams and early supplier        参加により新製品の発表をスピードアップ

        involvement speed up the        する

        appearance of new product

        Production                      製造

        JIT lot sizes and flexible      JITのロットサイズとフレキシブルな部門

        cells create rapid flow through が工場内のすばやいフローを作り出す

        the plant

        Customer                        顧客

        Dealer ordering                 ディーラーのオーダー

        Limited options and on-line     制限されたオプションとオンライン・

        order entry system mean orders  オーダー入力システムにより、オーダーが

        can be scheduled almost at once ほぼ同時にスケジュールできる。

        Plant schedule                  工場スケジュール

        A full-mix daily schedule       日次適応生産計画と直接流れる

        and orders that flow directly   オーダーにより、サプライヤーは在庫    so suppliers multiply                回転率を増やせる。

        inventory turns

西ヨーロッパでもまた、多くの自動車メーカーが、「予測生産」よりむしろ「オーダー生産」戦略へ動いている。しかしながら、ローバーのようなメーカーでは、トヨタ戦略のように利用できるオプションを制限することによって顧客選択を抑える方法ではなく、パイプラインをより効率よく管理することによってオーダー生産を達成しようとしている。したがって、例えば、ディーラーに在庫を保有させるのではなく、完成品在庫の管理を中央で集中して行ってきた。また、総需要の80パーセントがバリエーションのたった20パーセントにあたるという80/20ルールの恩恵を受けている。予測によって生産されたモデルとオプションもあるが、需要の残りの20パーセントは確定オーダーに対して生産されるだけでなく、その生産スケジュールは優先されて行われる。

今ではジャスト・イン・タイム製造とジャスト・イン・タイム・デリバリーに基づくクイック・レスポンス・ロジスティクスを行っている企業が本質的な競争優位を得ていることが明らかになっている。これまで見てきたとおりすべての産業市場、消費市場およびサービス市場は時間に敏感となってきている。したがって、情報のリンケージとフレキシブルなオペレーションを通じて、企業が、以前は不可能だと考えられていた顧客の個別の要求に対するすばやいレスポンスを達成できる「機敏なレスポンスを行える組織」を構築することが重要である。