サプライチェーンマネジメント論

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第4章 サプライチェーン・ベンチマーキング

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 グローバルマーケットで繰り広げられるし烈な競争を通して、業績を測ることが重視されるようになってきた。その際、単に業績を測るだけではなく、「ベスト・プラクティクス」という観点からの業績測定が重要なのである。

 かつては社内で実績を測ることが重要だとされていた。つまり、生産性や資源の活用度、活動当りのコストといったものに焦点が置かれていた。確かにこうした尺度は大事ではあるが、これらは適切な測定基準に照らし合わされてこそ意味があるということを理解していなければならない。では、ロジスティクスやサプライチェーンを評価する上では何をもって測定すればよいのだろうか。

 実際、この問題解決には幾つかの糸口がある。その1番目が顧客である。というのも実績に対する顧客の評価こそ最も大切だからである。次に、その実績を直接の競合の実績と比較するだけでは充分ではない。自社の実績を「最高水準」と比較しなければならないのである。3番目には、測定される、または比較されるべきアウトプットだけではなく、そのアウトプットに至るまでの過程も重要だ。この三つが今日の戦略的ベンチマーキングと言われるものの中心にある。

 競争的ベンチマーキングとは単純に、最大の競合またはリーダーカンパニーに対する、自社の製品、サービス、活動を測定するプロセスと規定してもいいかもしれない。この対比により測定されるものは、直接的にせよ間接的にせよ自社の実績に対する顧客の評価に影響を与えていなければならない。

 ベンチマーキングを最初に採用した企業の一つにゼロックスがある。同社は競争優位を得る大きなツールとしてこの方法を採用した。ゼロックスは初めに製造活動においてベンチマーキングを採用し、製品の品質と特徴の改善に焦点を絞ってベンチマーキングを実施した。製造活動で成果が発揮されたことに続き、ゼロックスの最高経営者はすべてのコストセンターとビジネスユニットにおいてベンチマーキングを採用するよう指示し、1981年までには全社的に広まったのである。

 当初、修繕、サービス、メンテナンス、経理、流通といった部門で自分たちの「製品」とは実はプロセスであると認識されるまでは、ベンチマーキング導入に難色が示されていた。実は肝心なのはこのプロセスなのである。競合のプロセスを逐一学ぶことで、ゼロックスは競合によって用いられている最高水準の方法を追求することができたのである。

 もともとベンチマーキングは競合にのみ焦点が置かれてきた。しかし、競合の実績だけを注視しているのでは、業務機能ごとにより高い実績を上げられないことがゼロックス社によって明らかになってから一般に認識が変化した。

 競争優位を確立するためには、競合と同じ努力をするというよりもそれを上回る実績を出すことが必要となる。このことは、内部システムやプロセスなどの競合についての必要な情報すべてを入手するのは難しいこともあり、ベンチマーキングの採用幅をより広くした。つまり、ベンチマーキングは競合にのみ焦点を置くことから、より広く、しかし取捨選択によって、自社の業種に関係なく最高の業績をもつ企業の製品に焦点を置くようになった。

 ゼロックスは品質と生産性の両方を上げる重要な要素としてベンチマーキングをうまく利用してきた。企業間の非競合業種での協力提携はこの点で重要なチャンスを与えている。例えば、ゼロックスのロジスティクスと配送ユニットでは、非競合者との協力提携によりベンチマーキングを導入した結果、年間の生産性が2倍になったのである。

ベンチマーキング ■    ワールドクラスのパフォーマンスをベンチマーキングするには競合の分析から始まるが、結果は競合のパフォーマンスをはるかに超えるものになる。競合の分析は製品の比較に焦点が置かれているが、ベンチマーキングでは製品を製造するオペレーティングおよびマネジメント技術にまで及んでいる。更には、競合の分析では同業他社に限定されるが、ベンチマーキングでは業種を問わず、とにかく最高水準のプロセスや技術を模索する。また、通常のスタッフ部門がやるような競合の分析とは異なり、ベンチマーキングではライン組織に携わる人物が積極的に係わるようになる。このようにベンチマーキングは分析というプロセスを超えるものであり、変革を促すツールにももなり得るのである。  ベンチマーキングを用いている企業は、それが経営のあらゆる面で活用できる要素となることを理解した。例えば、10年前のゼロックスはただ製品の比較をして、キャノンの小型コピー機の優位性を説いているだけであった。しかし、その後業種を問わず幾つかの日本のリーディング製造業者を調査することにより、どのようにサプライヤーを管理し、製品を発展させるかという点で根本的に変化を遂げた。これが現在では非常に有名なゼロックスの競争力の源である。  モトローラもベンチマーキングを効果的に利用している1社である。モトローラは世界中の「最高水準」を調査することにより、全ての新製品の開発、全ての資本プログラムおよび全ての再構築を始めようとした。「比較するという枠から遠ざかるほど喜ばしい」と経営幹部は言う。「我々は結局、競争上の同等性を模索していたのではなく、競争上の優位性を模索していた。」この観点からすれば、ベンチマーキングは技術であり、考え方であり、組織に単なる改善だけではなく、優位を目指すことの重要性を確信させる手段なのである。  ベンチマーキングはスタッフ部門の分析と、継続的な業績改善を達成するライン組織構築とを結ぶ役割を担う。ベンチマーキングは企業が進むべき得意分野を特定し得る。同時に、スタッフ部門とライン組織の溝を埋めるためのサポート機能と相互統合メカニズムをどのように変革すればよいかを示唆する。そして、高度なオペレーション現場を見学することで、ライン組織のマネジャーは優れたオペレーションを実施していることを目の当たりにし、他社の実践しているベンチマーキングが妥当かつ相対的なものであることを理解する。このように、的確にベンチマーキングを実施すれば、企業が変革するために不可欠なライン組織幹部のやる気を刺激し、変革へと貢献するように導くことができる。

 今日、ゼロックスは社内240の機能が類似分野のベンチマーキングに定期的に関わっており、品質改善の世界的なモデルになっている。利益は多くの異なった業務分野から生まれる。表4.1はゼロックスの生産利益を改善する5つの実例である。ここでは、フィルム製造や薬の卸売りといった幅広い業種が挙げられている。

表4.1 ゼロックスが非競合のベンチマーキングによって発見した業務改善

企業のタイプ実例
薬の卸売り小売店と配送センター間のコンピューター交信による出荷指示
機械製造1度に最高6個運べるフォークリフトの取扱い
電化製品製造自動計量、自動バーコードラベリング、パッケージング・スキャン
フィルム製造自社管理倉庫保管
カタログ通信販売商品の寸法および重量の記録

 キャンプ氏はベンチマーキングから得られる利点を次のように指摘している。

  • 業種を問わない最高水準のやり方が、ベンチマーキングされた組織のプロセスに効果的に組み込まれる。
  • 創造性を使って、ベンチマーキングの結果を利用することが求められている専門家たちに刺激とモチベーションを与えることが可能になる。
  • ベンチマーキングによって、変化を望まない部門が解体される。その業種では思いもつかなかったアイディアの方が受け入れられ易いのである。
  • また、もともとは食料雑貨産業で採用されていたバーコードのように、認知されなかったために業界での普及に時間のかかる技術的躍進が、ベンチマーキングによって明らかにされる可能性がある。

何をベンチマーキングすべきか

 サプライチェーン協議会のような産業間連合によって作り出されたモデルは、ベンチマーキングを実行する上で有益である。そのモデルがSCOR(Supply Chain Operations Reference)であり、計画・資源配分・製造・配送といった4大プロセスについて設立され、顧客の需要の特定から製品の配送、現金の回収に至る重要なサプライチェーン活動をカバーするものである。SCORの目的は、サプライチェーンの実績を測るための標準的な方法を提供すること、および、他社をベンチマーキングする際に共通の尺度を提供することである。SCORのプロセス要素のサマリーが表4.2である。

表4.2 サプライチェーン協議会による統合的サプライチェーンのフレームワーク

Metric type:尺度             Outcomes:結果                Diagnostics:特徴

顧客満足度                         1.完璧な注文遂行              9.期限厳守

                                          2.顧客満足                       10.保証コスト、利益、値引

                                          3.製品の品質                   11.顧客の要求へのレスポンスタイム

時間                                   4.オーダー遂行リードタイム              12.サイクルタイムを作り上げる

                                                                                    13.サプライチェーンレスポンスタイム

                                                                                    14.製造プランの達成

コスト                                5.トータルサプライチェーンコスト              15.付加価値生産性

資産                                   6.営業循環サイクルタイム              16.予想の正確性

                                          7.在庫品の供給日数              17.棚卸資産の陳腐化

                                          8.資産運用度                   18.設備稼働率

ロジスティクス・プロセスのベンチマーキング

 生産性をより高めるためにはプロセスを改善する必要があることを多くの企業が認識している。ここ数年で製造業者が、品質の鍵を握るのは生産性を調べるのではなく、プロセスを管理することであると気付いたのと同様に、ロジスティクスについてもプロセスの改善とプロセスの管理が重要であることを認識しつつある。これがロジスティクス・プロセス・ベンチマーキングの基本となる考え方である。

 品質改善を実施するポイントはプロセスの結果を調査するのではなく、どちらかといえばプロセスそのものを調査し、改善することにある。このプロセスを「パイプライン」であると考えていただきたい。この「パイプライン」はサプライヤーを始点として、製造またはあらゆる付加価値活動を含む業務本体を通り、更には仲介業者をも通り抜け、顧客に至る。この「パイプライン」の終点で確実に顧客を満足させるためには、その過程で起きるすべてのことを注意深く監視し、管理しなければならない。

 サービス・パイプラインの実績改善の第1段階は、プロセスの仕組みを理解することである。石油パイプラインとは異なり、サプライヤーとエンドユーザーを繋ぐ物資と情報のネットワーク、活動や手順は複雑である。パイプラインの仕組みを把握する方法としては、受注から最終的な商品の配達に至るまでのパイプライン上のステップをフローチャートにするのが適切であろう。非常に簡潔な例が図4.1である。

 次の段階としては、問題のある部分が存在する場合、全体に影響を及ぼすことになる臨界点を見極めることである。例えば倉庫での欠品や製造計画通りにいかない場合などがそうである。この臨界点ではプロセス管理がなされなければならないし、最高水準の企業を指標としたベンチマーキングが大きな効果を発揮する。

 原料供給からエンドユーザーまでの一連の事象を、サプライヤー/顧客の関係の連鎖と考えれば、実践すべきなのはそれぞれのサプライヤー/顧客インターフェースにおけるプロセスと実績のベンチマーキングであることが明確になる。

 図4.2は原料供給からエンドユーザーまでの一連のサービスレベルでのモニターの例である。これにより重要な活動がモニターされ、プロセスが常に評価されるのである。

Customer order:受注

Inventory available:在庫

Credit check:与信チェック

Production schedule:生産スケジュール

Inventory file:在庫ファイル

Production:製造

Back order:受注残

Purchasing:購入

Process order:プロセスオーダー

Invoice:請求

Accounting:計上

Shipping documentation:船積書類

Warehouse withdrawal:倉庫回収

Transportation scheduling:輸送スケジュール

Ship customer order:船積オーダー

Customer order status:オーダーの優先度

Sales and marketing function:セールスとマーケティング機能

図4.1 顧客オーダーの流れ

Supplier delivery performance:原材料配送実績

Material stock availability:原材料ストック・アベイラビリティ

Production plan vs  actual:製造プラン vs 実績

Finished goods stock availability:完成品ストック・アベイラビリティ

Customer specific service levels:顧客別サービスレベル

On-time delivery:オンタイム・デリバリー

Order fill:オーダー達成度

Consumer availability:カスタマー・アベイラビリティ

Supplier:サプライヤー

Materials inventory level:原材料在庫レベル

Factory:工場

Finished goods inventory level:完成品在庫レベル

Customer( e.g. stockist ):(特定商品の)仕入業者

End user:エンドユーザー

図4.2 プロセス管理とサービスの品質

サプライチェーン・プロセス・マッピング

 

 サプライチェーン・プロセスのフローチャート化は、当該プロセスの再構築による生産性改善の可能性を理解するための第1段階である。こうした再構築の機会を支える重要な概念が「付加価値を生む時間」対「付加価値を生まない時間」である。

 非常に簡潔に言えば、付加価値を生む時間とは、顧客に金を払ってもよいと思わせるだけの便益をつくりだすために費やされる時間である。そこで製造を、製品の物理的な動きや取引を生む方法としてだけでなく、付加価値を生む活動として分類することが可能なのである。昔から「必要な製品を、必要な場所へ、必要な時に」と言われるが、これは顧客付加価値を生む活動の概念を要約している。したがって、この成果を出すために行われるさまざまな活動は付加価値を生むものとして分類され得るのである。

 一方で、付加価値を生まない時間とは、その活動を停止しても顧客の利益を減らすことにはならない活動に費やされる時間である。現行のプロセス設計上、一部の付加価値を生まない活動は必要であるが、それは依然としてコストであり、最小化されなくてはならないのである。

 付加価値を生む時間と付加価値を生まない時間との相違点は、ロジスティクス・プロセスの改善をするにあたって非常に重要である。ロジスティクス・パイプラインにおける時間削減については第6章で特に詳しく取扱っているので、再度そこで付加価値と非付加価値の概念について触れることになる。しかし現段階では、「付加価値」対「非付加価値」時間の意味を明確にする際の助けとなるツール探しが有益である。

 一旦プロセスをフローチャート化したならば、まず第1にプロセスに関連のあるマネジャーが集まり、プロセスのどの要素が付加価値を有無ものとするかについて討議し、合意に達することが必要である。容易には合意に達成できないかもしれない。というのは自分が責任を負っている活動が実は顧客に何ら価値を与えていなかったとは誰も認めたくはないからである。

 次に、付加価値活動と非付加価値活動において、どのように時間が消費されたかを簡単なグラフで視覚的に表わすことである。図4.3はその一般的な例である。

Value-added:付加価値

Time , Place &  form Utility:時間/場所/効用

Cost-added:付加コスト

Production , Storage & transport costs & the Time cost of money

:製造/在庫輸送費用/資金コスト

Raw material stock:原料在庫

Production:生産

Finished product:完成品

In-transit:輸送

Regional stock:拠点在庫

Customer order cycle:顧客別オーダーサイクル

図4.3 付加価値活動と付加コスト活動

 図4.4は全体のプロセス時間が40週間であったにも関わらず、付加価値を生んだのがその時間のが6.2%に過ぎなかった実例の分析である。

 この例から分かることは付加価値の大半がプロセスの前半でなされ、在庫期間が長ければ長いほどコストがかかっているということである。

 さらに、製品はそのプロセスの前半で特定の形に形成または梱包されるため、柔軟性が失われている。図4.5ではこの製品が3つの活動要素から始まっているが、急速に25の活動要素に増加していることが分かる。これは異なるサイズ、形状等に梱包され、その後パイプラインの残りの時間を在庫として過ごすからである。

Weeks in the supply chain:サプライチェーン所要日数(週)

Ship to customer:顧客への海上輸送

Distributor:配送業者

Distribution centre pick:配送センター集荷

Shipment:船積手配

Packaging:梱包

Secondary conversion:第2次加工

Primary conversion:第1次加工

Inbound material:原材料入荷

Supplier lead time: サプライヤー・リードタイム

% of total cost added by logistics processes:ロジスティクス活動に伴う総付加コスト割合

6.2 per cent of value-added time over a 40…:40週のサプライチェーンにおいて付加価値を生んだ時間は6.2%

図4.4 付加価値の時間的経過

Number of variants:変化の数

Longest period is spent at the maximum variety level

:変化数が最大の場所で最も長い時間が費やされる

Greatest flexibility is available when the product is generic

:製品が一般的である時に最も高い柔軟性が得られる

図4.5 時間的変化

 サプライチェーンでの生産効率は次の式によって求められる。

付加価値を生む時間/全体のパイプライン時間 X 100

 前述したように、これは10%程度であるが、それはサプライチェーンの大半が付加価値を生まない時間であることを意味する。生産効率を大きく改善しようとするならば、まずサプライチェーンを形成するプロセスと活動を良く理解することが重要である。ここで有効なツールとなるのがサプライチェーン・マッピングである。

 サプライチェーン・マップとは、本質的にはサプライチェーンに沿った原材料や製品の流れにおける活動やプロセスを時間の流れに置き換えて表現したものである。同時にこのマップは、原材料や製品が在庫時のようにただ置かれたままの状態でいる時間を浮き彫りにする。

 このマップでは通常「水平的」時間と「垂直的」時間とに分別する。水平的時間とはプロセスで費やされる時間である。輸送時間や製造・組立時間、製造プラン時間や加工時間といったものがこれに該当するであろう。この時間は必ずしもカスタマー・バリューが作り出される必要はなく、少なくとも何かしらが行われていればよい。垂直的時間はこれとは正反対で、原料や製品の在庫時のように何も変化がない時間をいう。垂直的時間内では価値は付加されず、ただコストのみがかかる。

Commodity market:コモディティ・マーケット

Spinning:紡績業者

              Fibre:繊維

              Yarn finished goods store(Yarn store):紡ぎ糸完成品在庫

Fabric supplier:生地メーカー

              Knitting:編み作業

              Yarn store:紡ぎ糸在庫

              Grey stock:中間在庫

              Dyeing & finishing:染色および仕上げ

              Finished fabric:生地完成品

Underwear manufacturer:下着製造業者

              Raw material store:生地在庫

              Component cutting:裁断

              Cut work buffer:切り抜き刺繍(又はカットワーク又はアップリケ)緩衝在庫

              Sewing:縫上げ

              Finished goods warehouse:完成品倉庫

Retailer:小売業者

              Distribution center:配送センター

              Store:店頭

End user:エンドユーザー

図4.6 サプライチェーンマッピング- 例

 マップ上、「水平的」とはプロセス(流動)時間を意味し、「垂直的」とは在庫のような静止時間を意味する。図4.6は男性下着の製造過程と流通過程のマップを描いている。

 このマップから水平的時間が60日であることがわかる。言い換えれば、原材料を集め、紡績し、編み、染色し、仕上げ、縫上げる等の様々なプロセスには完成までに60日かかる。需要増加に対応するため、パイプラインで費やされる時間を決定するのは水平的時間であるので、この点は重要である。もし需要の増加が継続的であれば、生産性を新しいレベルへ「上げる」必要があるであろう。逆にいえば、需要が減少すれば、臨界点となるのは水平的時間と垂直的時間の両方の合計であるパイプラインの総量となる。つまり、在庫システムを一掃するには175日かかるのである。例えば、変化の激しいファッション業界ではパイプラインの総量はビジネスリスクの重大な決定要素となる。

 パイプライン・マップはまた内部のベンチマーキングにも役に立つ。ごと日のプロセス期間は一日分の在庫を必要としているので、理想的にはプロセスリードタイムを網羅するだけの在庫があればよい。そう考えれば60日間のプロセス期間には60日分の在庫があればよい。しかし、この例では実際には175日間の在庫期間がパイプライン上にあることになる。つまり、個々のプロセスの変化が少なく、需要が激しくなければ、必要以上の在庫が生じてしまう。

 マルチ製造ビジネスでは、製品ごとにパイプライン時間があることを忘れてはならない。さらに製品は複数の材料と梱包資材、部品から生産されるため、全体のパイプライン時間は最も遅い品目または要素の時間によって決まる。例えば、家庭用空気清浄機を製造するための原材料を手に入れる際には、使用されている香料1種を補充するために要した何週間もの在庫補充のリード・タイムが全体のパイプライン期間に加算された。

 この要領でパイプラインマッピングを進めていけば、ロジスティクスの再構築プロジェクトの強力な基礎が提供される。トータルプロセスとそれに関連した在庫がガラス張りになるため、付加価値を生まない時間が削減できる機会が明確になる。多くの場合、サプライチェーンにおける付加価値を生まない時間の大半がこのマップ上にある。なぜなら、それが強要されまたは受け継がれてきた「ルール」を通して自らに課したものだからだ。このようなルールには経済的バッチ量や経済的オーダー量、最小オーダーサイズ、在庫見直し期間、製造プランサイクル、予想見直し期間が含まれる。

 戦略的リードタイム管理の重要なところは、サプライチェーンのあらゆるプロセスとあらゆる活動への挑戦と、「この活動は顧客または消費者に価値を付加しているのか。それともただコストを付加しているに過ぎないのか。」という厳しいチェックを余儀なくされていることである。

サプライヤーと流通業者のベンチマーキング

 サプライチェーンの業績がサプライヤーという川上から流通業者という川下への一連のプロセスに依存していることは明白であるから、サプライヤーおよび流通業者をベンチマーキングプロセスに組み込むことは重要である。実際、今日大半の企業の外注コストが全体の50%かそれ以上になってきているため、外部のサプライヤーがどれだけ効率的であり、どれだけの実力を有しているかを理解することは重要である。同じことが「チャネルマージン」(例えば、工場出荷時と販売時との差額)の大部分を占める流通業者または仲介業者についても言える。

 いずれの場合にせよ、サプライチェーン全体のパフォーマンスを改善するために、サプライチェーンの一連のプロセスにおける効率および有効性の両方を高めることに焦点が置かれるべきであろう。このように、サプライヤーと流通業者のパフォーマンスを見直すことで、全体的なコストの削減とカスタマーサービス増進への貢献度を評価するべきである。

 サプライヤーと流通業者のベンチマーキングで検討されるべきものとしては次のようなものがある。

  • パートナー/共同事業者として業務活動を行う熱意
  • 継続的改善への取り組み
  • イノベーションや変革の受容性
  • スループットタイム削減への取り組み
  • 品質管理手順の活用
  • 一般的なベンチマーキングプロセスの自社への導入
  • ロジスティクスシステム構築上、最重要課題とされる柔軟性
  • 従業員が顧客の関心事項についての理解し、情報を共有しているか
  • コミュニケーションを積極的に行うようにしているか
  • 経営者がトータルクオリティマネジメントの重要性を理解しているか

 図4.7はサプライチェーンにおけるベンチマーキングを実施するべき主要課題を示している。ここで重要なのはサプライヤーや流通業者のパフォーマンスをただ最高水準の企業と比較することだけに注目するのではなく、どのようにインターフェースが管理されているかということにも注目しなければならない。例えば、他の企業がどのようにサプライヤーにオーダーを伝えているのか、どのように自社の製造スケジュールとサプライヤーや顧客の製造スケジュールとを合わせているのかといったことを知る必要がある。

サプライヤー     ○                              中間業者     ○                流通業者

品質       コミュニケーション    スループットタイム  コミュニケーション   付加価値サービス

オンタイム      スケジュール統合   オンタイム     要求計画    顧客本位

利用可能在庫数  共同生産     利用可能在庫数 パートナーシップ   配送活動

図4.7 サプライチェーンの実績に対するベンチマーキング-典型例

 多くの企業が下請業者の業績に対して評価を下してはいるが、サプライヤー・ベンチマーキングという考えは依然として比較的新しいものである。同様に流通業者の実績をただ単に評価するだけではなく、優れていると言われる企業と比較することも重要である。

ベンチマーキング優先度の設定

 他社の実績と比較されるべき事項のうちで、どこに優先度を置くべきであろうか。 ワレックやその他の研究者は次のように定義することで優先度が決定されるべきだと言っている。

  • サプライチェーンのプロセス、および、プロセスのどの部分に戦略的重要性があるのか
  • サプライチェーンのプロセス、および、プロセスのどの部分に業務関連上影響があるのか
  • 「生産」または「購買」のどこに選択肢はあるのか
  • 変革のための内部準備はどこにあるのか

図4.8を参照願いたい。

Strategic importance:戦略的重要性

 企業が将来成功をする上で大きな役割を果たすであろうプロセス

Relative impact on business economics:ビジネス経済学への相対的影響

 以下に不均衡な影響を及ぼすプロセス

  • トータルコスト
  • 収益創造
  • 固定資産の生産性
  • 人的生産性

Make versus buy economics:「生産」と「購買」の経済学

生産性や利益率に強い影響を与え、質の高いサプライヤーから入手が困難であるプロセス

Organizational readiness:組織的準備

改善しようとする社員により指揮されるプロセス

図4.8 ベンチマーキング優先度の設定

 ベンチマーキング優先度を選択するための最終的な指標は、活動または機能が競争優位上持つインパクトであるべきだ。第1章でも説明したように、どのような業種においても中心的な関心事項となる優位性についての二つの次元は、相対的コストと相対的価値である。それゆえ、競合よりも優れた低コスト性と顧客サービスに関して突出した優位性を持つことが、マーケットで成功を収めるためには必要となる。図4.9は競争する上での目標を示している。

Relative differentiation (Effectiveness):相対的な差別化度(有効性)

Relative delivered cost (Efficiency):相対的なコスト優位性(効率性)

図4.9 ロジスティクスの戦略的目標

 ある意味で、水平軸は効率性、垂直軸は有効性の物差しである。つまり、ベンチマーキングの優位性は、この両軸を高めるための活動、プロセスまたは機能への寄与度によって決定されなければならないと言える。実際には多くの企業はただ効率性だけを重視しており、しかも内部のみを見ているだけなのである。有効性を伴わない効率性では何も生まれることはないし、それではあまりにも視野が狭くなってしまう。例えば、貨物の取扱やスペースの利用方法などで倉庫の高い効率性を証明することができるかもしれない。しかし、競合が倉庫保管を止め、代わりに顧客へ直送するようになったら、納入時間の短縮と在庫コストの削減が実現され、結果その競合の方が効果的ということになるのだ。

 ベンチマーキングはただ実績の違いを明かにするだけではなく、行動するにあたっての明確な指針を備えた管理方法を提示する。成功するベンチマーキング・プログラムとは、まず顧客サービスに基づいたロジスティクス戦略を展開させることを可能にし、次にそのプロセスが正に最先端のものであることを確信させる。

 ベンチマーキング哲学に身を委ねた企業は自社への見方を根本的に変え始める。このような企業はじっとしていることなく、現状に満足することなどない。そうした企業にとっては、「継続的改善」は陳腐なフレーズではなく、企業方針そのものである。ベンチマーキング哲学を信じなかった他社が不振に陥ったのに対し、ベンチマーキングに取組んだ企業は発展している。ブリティッシュエアウェイ(BA)の例を参照してみよう。

  ブリティッシュ・エアウェイでのサプライチェーン改善    ブリティッシュ・エアウェイ(BA)は、年間361十万人の乗客を293の飛行機で世界175の拠点へ運ぶ、世界最大の航空輸送グループである。この十数年間、その民営化された元国営会社は、優れた、革新的な顧客サービスをただひたする求めることで、「世界で最も快適な航空会社」の地位を築き、維持しようとしてきた。その戦略は常連である顧客、特に在任中その飛行機代が100万ポンドに至ると言われる企業の役員たちに対して真摯に接することであった。このサービス中心の戦略は功を奏し、1997年5月には年間利益記録を更新したのである。同社はそれに止まるどころか、最高幹部であるロバート・アイリングは、乗客からの収益を増やし、資産活用を改善し、オペレーション・コストを削減することで、向こう5年間で1兆ポンドの増益を目指しつつ、同社の取扱範囲を広げて行くことを表明した。この背景には、過去に最高のサービスを実現することを最優先したが、それにかかるコストを現実的には把握できていなかった、ということがあった。  ブリティッシュ・エアウェイ・ケイタリングはBAの顧客サービス部門であるが、サプライチェーン・マネジメントの短期的および長期的改善によって、その新たなる目標に寄与しようとしている。BAケイタリングは、ロンドンのヒースロー空港とガトウィック空港を拠点とするサードパーティーのケイタリング会社、および、世界各地のBAサプライステーションを経営している150の中小ケイタリング会社が用意する年間214百万の食事をBAへ提供している。その量は相当なものがあり、ロンドンでは年間250トンの鶏肉と73トンの卵、38千ケースのワインとシャンパンが消費されている。BAケイタリングは腐敗しやすい物は扱っていないが、その提供する食事や陶磁器、ガラス製品、プラスティック製品、毛布、腐敗しない乾燥食品といったものを含む食事以外のものについて品質の向上を管理している。更に食事を飛行機へ輸送し、積みこむために必要な器具についても同様に管理している。全体では、ジャンボ機が1機飛立つ度にこのサプライチェーンで扱われるのは4万品にも及ぶのである。  サプライチェーンを監査したのは外部のコンサルタント企業のロジスティクス・コンサルティング・パートナーズ(LCP)であった。LCPの調査により、世界250を超えるサプライヤーが約1,400もの商品を供給していることが判明した。その大半がヒースロー流通センターを通過しており、そこにはおよそ15百万ポンドの緩衝在庫を有していたのである。在庫保有量は季節の変動を受けやすいとはいえ、更なる調査の結果、相当数の緩衝在庫が更にその末端のネットワーク上にもあることがわかった。商品はいつでも必要時に流通センターから引き取られて供給基地へ送られていたが、ケイタリング業者との契約上、在庫管理の責任が明確にされていなかったため、慢性的な過剰在庫になっていた。そして次々と逆のロジスティクス活動(その大半が廃棄品目)量を増やしていったのである。  ケイタリング業者はその当てにならない補充システムから自身の身を守るために緩衝在庫を保有していた。つまり従来の補充システムでは長い補充期間に加え、その配送も定期的ではなかった。この問題の根底には、かつての好景気時期に実施されたコスト削減があった。このコスト削減は、短期的には目標を達成できるが、より広域なサプライチェーンの効果を考慮せずに実施されていたのである。例えば発生する輸送コストを最小限に抑えようと、海外のステーションに供給する際にBAケイタリングは、スペースが許す限りBAの貨物輸送スペースを優遇料金で使用していた。これは配送のタイミングが顧客本位ではなく、輸送業者本位であることを意味している。同様に流通センターの外注化によって、コスト集約型のオペレーターは、より一層在庫保有量を川下に位置するケイタイリングの契約業者に振ることで保管費用を削減しようとする。更にこれらの問題をあせ考えていくと、流通センターまでの川上からの手際の悪い資材調達の結果、不正確なラベルが貼られ、不適当な包装をされた在庫品が納期遅れで配送されてくることになる。  新しい在庫管理システムは、BAケイタリングのロジスティクス実績に飛躍的な変化を及ぼしたが、実践と導入には長い時間が必要であった。その一方で、短期間にオペレーション効率を改善し、より合理的にスムーズに革新していくために3ポイントプランが作成された。同プランの目的は、サプライチェーンの無駄な時間をなくし、提携業者との協力関係を改善しながら、サービスとコストとの根本的な不均衡を是正するものであった。  第1のポイントとなったのがリードタイム短縮であった。迅速な対応によるバックアップサービスと共に配送の頻度、正確性、および確実性を高めることで、ケイタリング業者は緩衝在庫を努めて削減するようになり、コストがかかる保管スペースを持たないようにしていったのであった。その結果、食品調達活動の収益をあげることができたのである。最初の3カ月間でサービスレベルは改善し、余剰在庫を消費することで100万ポンドにも至る節減を達成した。長期的に重要な点は、サプライチェーンのリードタイム、正確性およびBAケイタリング資材管理チームへの支払コストの三つがリンクしていることが証明されたことであった。またコスト削減をするにあたって、サービスレベルや資材管理チームの重用、より洗練されたサプライチェーン管理システムの新たなる構築等をする必要がなかったことも証明されたのであった。  インダストリ・マスマティクス社のESSシステムなどの新たな支援システムの導入が1997年に始まった。この新システムは、更に広がったBAケイタリングのサプライチェーン・プロジェクトの核となり、5年間で約5千万ポンドの経費削減を達成する予定である。更にこのシステムは機能上においても効果が見込まれるため、効率を高めるという意味でも潜在的付加価値を有している。ESSシステムによって、BAの生産性管理とエグゼクティブ・クラブ・データベースというBAケイタリングの2つのサプライチェーン・プラン・システムを、両者の均衡を保ちつつも統合することが可能になったのである。主要サプライヤーをこのシステムに統合し、かつ搭乗予約数に応じて在庫保有することで、BAケイタリングは在庫保有を最適にし、仕向地、フライト、そして実際には個々の搭乗員ごとに在庫管理を可能にしようとしている。同システムが非食品にまで及んだため、個々の顧客の好みに従来以上に対応することで、顧客サービスを再定義するようになるのである。エグゼクティブ・クラブのゴールドカード・メンバーは、自分の好みのワイングラスや特定の雑誌によって歓待されることでそのことを確信できるであろう。もう一つ重要なことは、このシステムによってBAは個々のサービスの実質コストを正確に把握でき、そしてどのように将来のサービス革新の方向性と需要を管理して行くかということをより広く、より正確に計画することができるのである。

ロジスティクス達成基準の特定

 ロジスティクスとサプライチェーン・ベンチマーキングへの厳密なアプローチの一つの利点は、継続的に監視する必要がある多くの重要な達成基準が明確になることである。「主要達成基準」という概念は単純である。企業内で活用できる測定基準はたくさんあるが、マーケットでの成功と失敗を左右するような水準のものは相対的に少ない。

 重要事項はここ数年「バランス・スコアカード」という概念で示されている。バランス・スコアカードの背景にある概念とは、多くの(その大半が非財務的基準である)主要達成基準は、従来の財務的基準よりも戦略に合致した指標を提示できるということである。この主要達成基準は戦略そのものに由来している。つまりバランス・スコアカードは、その目的達成を確実にするために必要とされる活動分野を明示するのである。

 この考えは、ロジスティクスとサプライチェーン戦略の管理にただちに当てはめることができる。目的達成にリンクした適切な達成基準が特定できるのであれば、従来のものよりも適切なスコアカードの基準と成りうるであろう。

 スコアカード作成にあたっては、次の4段階のプロセスがある。

第1段階:明確なロジスティクスおよびサプライチェーン戦略

企業目標およびマーケティング目標を達成するために役立つ自社のロジスティクスおよびサプライチェーン戦略を社内でどのように考えているのか。

第2段階:どのような結果をもって成功とするのか

典型的な例では、「より良く、より速く、より安く」となるかもしれない。言い換えれば、サプライチェーン全体を通して、より低コストで、より短いサイクルで実践することにより達成した、より優れたサービス品質ということになるであろう。

第3段階:結果に影響を与えるのはどのプロセスか

目標を「より良く、より速く、より安く」とした場合、オーダーへの完璧な対応、短いパイプライン期間、そして削減されたサービスコストを導くプロセスが特定される必要がある。

第4段階:プロセス中の成功要因は何か

この活動が主要達成基準の派生の基礎となるのだ。因果関係の分析が主要達成基準を特定する手助けとなる。

 このフレームワークの中で、成功と呼ぶべき3つの主要な結果を「より良く、より速く、より安く」と表現した。この3要素は理想としてはほぼ普遍的であろう。この3要素は顧客本位の達成基準を合わせ持っている点でも重要である。

 図4.10では達成基準概念の対顧客プロセスの方向性を示している。

より良く  → サービスの品質 →  完璧なオーダーへの対応

より速く  →    時間   →  両端をつなくパイプライン時間

より安く  →   コスト   →  コスト削減

図4.10 ロジスティクススコアカードの作成  いったん測定されたものは管理されるようになるから、この測定が正確に行われるのであれば、経営者の注意はこの3要素に向けられていく。ベンチマーキングは経営上、中核的な役割を果たす。すなわち、ベンチマーキングは、まず現時点でのベストプラクティクスが一体何であるのか特定するのを支援し、続いて競争優位を獲得するためにはどのようにプロセスを作り変え、管理していくかに焦点を定