サプライチェーンマネジメント論

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第2章 ロジスティクスとカスタマーサービス

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 第1章では、ロジスティクス・マネジメントを、サービスに関する顧客の要求を満足させる手段として定義した。言いかえれば、どんなロジスティクス・システムであってもその最終目的は顧客を満足させることである。単純なことではあるが、生産計画や在庫管理などマーケットから少し離れた仕事に関わっているマネジャーがこれを常に気に留めておくことは以外と難しい。もちろん実際には、組織の誰もがカスタマーサービスに利害関係がある。実際、多くの優良企業では、内部サービス基準の査定を開始しており、社員全員が必ず何かしらのサービスを提供すべきことを義務付けている。

 ロジスティクス・マネジメントは、組織のあらゆるレベルの人を、直接あるいは間接的にマーケットと関連付ける連鎖を確立することを目的とすべきだ。ゼロックスは、内部顧客という考え方を植え付けるために努力してきた企業であり、ゼロックスはこの考え方を、本社員の給与とカスタマーサービスを関連付けるところにまで拡大した。ゼロックスのように、カスタマーサービス・チェーンをビジネスと、さらには企業内取引によって管理することは、ロジスティクス・マネジメントの中心的な課題である。

マーケティング・ロジスティクス・インターフェイス

 多くのテキストでは、マーケティングを、「4つのP」―製品(product)、値段(price)、プロモーション(promotion)、場所(place)―を管理するものと定義しているが、実際には、いつも最初の三つだけが強調されてきたと言っても間違いないだろう。「場所」は、古い決まり文句で言い表せば、必要な製品を必要な場所へ、必要な時に、ということであるが、これは、マーケティングの中心的課題と見なされることはほとんどなかった。

 しかし、現在ではこうした考え方も急速に変化している。潜在する差別化の手段として、カスタマーサービスが急速に認められるようになってきたことがその背後にある。多くのマーケットで、ブランドの力が落ち込み、顧客が進んで代替物を受け入れるようになってきた。製品間の技術的な差も小さくなっており、製品そのものだけで競争力を維持することはより難しくなっている。このような状況の中、自社製品と競合他社の製品との間に明確な違いを提供できるのは、カスタマーサービスである。

 近年ベストセラーとなったマネジメント関連著書、 “In Search of Excellence”は、売上を生み出すのは顧客であり、優良企業のほとんどが多くの顧客を獲得・維持している企業である、という単純な事実を多くの経営者に気付かせた。

 この明白な原則が、世界中の経営者のデスクに置かれた本のテーマとなっていることは不思議だと思われるかもしれない。しかし、景気後退によって、多くの企業はより顧客に注意を払うようになった。“In Search of Excellence”は、カスタマーリレーションズを超えるものだが、この分野に、「ノンエクセレント・カンパニー」を改善するための最大の余地があるのだろう。競争のための武器としてのカスタマーサービスは重要性を増しているが、それには以下の二つの要因がある。一つは、膨らみつづける顧客の期待である。例えば30年前に比べれば、ほぼ全てのマーケットにおいて、顧客はより多くを要求し、より「洗練」されてきた。同様に、企業の購買活動においては、より多くの生産者がジャスト・イン・タイム生産方式に移行するにつれて、バイヤーが買い手からより高レベルのサービスを期待するようになった。

 二つ目の要因は、「コモディティー(ありきたりの商品)」タイプのマーケットへの、緩やかではあるが避けられない移行である。これは、競合する商品の技術格差がなくなるにつれ、「ブランド」の力が減少していることを意味する。少なくとも一般バイヤーにとって、製品の違いを認識することは難しくなっている。パソコン市場の現状を例にとってみよう。将来の買い手に関する限り、競合するモデルは現実には代用可能なものが多い。特に専門家でなければ、製品の外観だけを選択の基準に使うことは難しい。

 このような場合、顧客は値段あるいは「イメージ」などに影響を受けると思われるが、それ以外にも「アヴェイラビリティ」-言い換えれば、製品の在庫はあるか、今購入することはできるか-という見方がある。アヴェイラビリティは明らかにカスタマーサービスの見方であり、事実上カスタマーサービスの力は最も重要であると言える。消費者サービスの力が購入の要因となっているのは、消費者市場においてのみではなく、生産財市場も同様である。

 このような状況に加え、多くの欧米経済において、「サービス」産業が成長している。英国のGNPの75%以上は、非製造業から派生したものであり、毎年この割合は増加している。サービスのマーケティングは、製品のマーケティングの根底にある哲学と同じであるべきだ。そして、特にサービスの「鮮度」の重要性を考えた場合に、アヴェイラビリティーにより重きを置くべきである。それでもなお、サービスと有形商品が成功するためには、サプライヤーがどれだけカスタマーサービスの「付加価値」を通して魅力を増大させられるかにかかっている。

カスタマーサービスとは何か

 第1章では、カスタマーサービスの役割は、買い手と売り手間の物やサービスの取引に 時間的及び場所的な効用を提供することである述べた。言いかえれば、顧客あるいは消費者の手に渡るまでは、物・サービス自体には価値がない。当然、経営上の配送機能は、本質的には物あるいはサービスを「利用可能」(アヴェイラブル)にするということである。「アヴェイラビリティ」は、カスタマーサービスを構成する無数の要因がからまった複雑な概念である。これらの要因には、例えば、配送の頻度と信用、在庫レベル、およびオーダー・サイクル時間などが含まれるであろう。カスタマーサービスは結局、さまざまな要因の相互作用によって決まり、これらの要因は、物・サービスをバイヤーが利用可能となるまでの過程に影響を及ぼす。

多くの企業は、業務上カスタマーサービスに対してさまざまな見方をしている。ラロンド とジンザーは、カスタマーサービスの研究で、3つの項目について、カスタマーサービスを試験することを提案している。

  • 取引前要素
  • 取引要素
  • 取引後要素

 カスタマーサービスの取引前要素は、企業方針や計画に関連している。例:サービス方針の記載文書、組織構造の適切さ、およびシステムのフレキシビリティ。取引要素は、物理的な搬送機能の実行に直接関わるカスタマーサービス変数である。例:商品と搬送に対する信用。カスタマーサービスの取引後要素は、商品使用中に商品をサポートするものである。例えば、商品保証、部品および修理サービス、顧客の苦情および商品取替えの手順があげられる。

 表2.1は、カスタマーサービスの数ある要素の中のいくつかを、これら3つの項目で現している。

 どんな製品及びマーケットの状況においても、3要素の内、いくつかは他のものよりも重要であり、3要素以外にも特定のマーケットにおいて重要性を持つ要因はある。マーケット区分が変われば顧客の要求も変わるため、普遍的な最適要素のリストなど存在しないことを前提にカスタマーサービスを理解することが重要である。企業がサービスを提供する個々のマーケットにおいて、異なるサービスには、異なった重要性が附されるべきであろう。

 カスタマーサービスには多変量的な性質がある点と、特定のマーケットでは特定の顧客の要求があるという点から、どんな企業でもカスタマーサービスに対して明確な方針を持つべきである。サービスを管理する上で十分なフレキシビリティを持った企業は別として、企業のマーケティング・ミックス上サービスが最も重要な要素になることを考えれば、カスタマーサービスについての方針を明らかにした企業が非常に少ないことは、驚くべきことであろう。顧客が要求した時に製品あるいはサービスが利用可能でなく、代わりに競合の製品やサービスが利用可能なのであれば、売上競争に負けるという事実は多くの事例で明らかになっている。ブランド・ロイヤリティーが強いマーケットにおいても、品切れがブランド・スイッチングのきっかけとなり得る。

表2.1        顧客サービスの要素

取引前要素

例えば:

●カスタマーサービス方針の記載文書

(内部および外部に知らされているか、理解されているか、明確であるか、可能であれば

計量化できるか)

  • アクセシビリティ

(顧客からみて、連絡がとりやすく取り引きしやすい企業であるか。窓口が一本化されているか。)

  • 組織構造

(適切なカスタマーサービス・マネジメント構造があるか。それは、サービスプロセスをどのようなレベルで管理しているか。)

  • システムのフレキシビリティ

(特定の顧客ニーズを満たすために、サービス・デリバリー・システムを適合させることは可能か。)

取引要素

例えば:

  • オーダーサイクル時間

(オーダーからデリバリーまでの時間はどれくらいか。信頼度/バリエーションはどうか。)

  • 在庫のアヴェイラビリティ

(各商品の需要の何パーセントが在庫から調達できるか。)

  • 注文履行率

(オーダーのどれくらいが、指定された先行期間の間に完全に満たされているか。)

  • オーダー現状についての情報

(問い合わせに対して必要な情報を提供するのに、どれくらいの時間がかかるか。問題があった場合、顧客に連絡するのか、それとも顧客から連絡が入るようになっているのか。)

取引後要素

例えば:

  • スペアパーツのアヴェイラビリティ

(スペアパーツの在庫レベルはどれくらいか。)

  • 緊急連絡の入った時

(技師が到着するにはどれくらいかかるか。最初の修理費用はいくらか。)

  • 製品トレース/保証

(販売された製品一つ一つの場所が確認できるか。顧客が要求するレベルまで保証を維持・拡大できるか。)

  • 顧客からの苦情、クレーム等

(苦情や返品にどれだけ早く対応できるか。顧客満足を返品の割合で計っているか。)

 最近の研究では、品切れがあった場合、生産者および小売業者がかなりの損失を発生させることが確認された。調査は米国で行われたが、午後スーパーマーケットに買い物に来た客は、調査対象となったカテゴリーの8.2%の項目について品切れに直面することが判明した。同じ買い物客は、この時34%の割合で代用品の購入ができなかった。彼らは、購入を延期したか、別の場所で購入している。この調査が意味することは、小売業者は、品切れによって潜在的な売上の46%を失ったということだ。

 図2.1は、品切れによる利益への影響が、小売業者にとってどれだけ大きいかを示している。品切れのために、買い物客は代用品を選択し、その結果として代用品を買いつづけることになるため、メーカーの損失は結果的にさらに大きくなる。

Fig. 2.1 Revenue loss due to an out-of-stock:   品切れによる収益減

Intended purchase expenditure:                  予定された購入費

Consumer shops elsewhere/does not make purchase:        顧客が他で買い物をし、購入しない場合

Consumer delays purchase:                       顧客が購入を延期した場合

Decrease in value of purchased alternatives:    代替品購入に伴う価値減少

Purchase expenditure when out-of-stock occurs:         品切れがあった場合の購入費

46% decline in intended expenditure:           予定された購入費の46%の減少

  生産財市場においても、サプライヤーに対するロイヤルティについても同様のプレッシャーが作用しているようである。ジャスト・イン・タイム戦略を採用する企業が増えるに従って、サプライヤーに高いレベルの対応を要求することは当然のことであろう。より短いリードタイムと、信頼できる配送が要求されているのである。こうした顧客が合理化のため、より少ないメーカーと取引きをするようになるにつれ、サプライヤーへのプレッシャーはさらに増大する。今日、どんな産業においても、契約サプライヤーとなるには、質の高いカスタマーサービスを提供することを優先させる必要がある。

 多くの企業は、こうした新たな競争環境で苦しんでいる。なぜなら、過去に彼らは製品開発、プロモーション活動、価格競争といったマーケティングの一般的手法に焦点をあててきたからだ。これらは今後もマーケティング戦略上必要とされるが、それだけでは十分なものとは言えない。特に景気後退の結果、多くの企業はオペレーションやロジスティクス戦略に影響するコスト削減に焦点をあてたが、これによって同等のダメージを受けた。価値創造の代価として得られたコスト削減は、価値あるゴールとはならない。ローコスト戦略は、効率的なロジスティクスにつながるかもしれないが、効果的なロジスティクスにはつながらない。 今日、契約を獲るために必要なことは、顧客の価値創造プロセスに対し、はっきりとわかる効果を与える手法を持つことである。

 カスタマーサービスとロジスティクス・マネジメントが、マーケティングの有効性に与える影響が図2.2である。ここでは、最終ユーザーへの影響のほかに、流通業者のような中間的な顧客に対する影響も示している。ブランドの価値を発展させ、市場で製品に対する「旺盛な需要」を創造するため、マーケティングはこれまで、最終顧客あるいは消費者だけに焦点をあててきた。最近になって、我々は、これだけでは不充分であることを認識するようになった。多くのマーケティング経路において、生産者から、流通業者(例えば集中化が進んでいる大型小売業者)への影響力の移行があったので、現在では流通業者のような中間的な顧客と可能な限り強力な関係を結ぶことが極めて重要である。言い換えれば、消費者網とともに顧客網を創造することが大切である。

Fig.2.2 The impact of logistics and customer service on marketing

マーケティングにおけるロジスティクスとカスタマー・サービスの影響

Consumer franchise 消費者網

Customer franchise 顧客網

Supply chain efficiency サプライチェーンの効率性

Marketing effectiveness マーケティングの有効性

Brand values: ブランドの価値

Corporate image 企業イメージ

Availability アヴェイラビリティ

Customer service カスタマーサービス

Partnership パートナーシップ

Quick response クイック・レスポンス

Flexibility     フレキシビリティ

Reduced asset base 資産基盤の減少

Low cost supplier ローコスト・サプライヤー

Market share マーケット・シェア

Customer retention 顧客保持

Superior ROI 高いROI

 強力な消費者網と顧客網の両者は、サプライヤーのロジスティクス・システムの効率性によって、増強されも減少されもする。3つすべての要素が最適の状態で作用してはじめて、マーケティングの効果が最大になる。これら3要素の相互依存を強調するには、3要素が倍数的に増加する関係にあることを示せば良い。言い換えれば、全体効果は3要素をかけあわせたものとなるのである。

カスタマーサービスと顧客保持

 製品の容姿だけで競争する企業は、付加価値サービスを伴って製品を提供する企業に比べて、かなり不利な状況にある。このことはこれまで言及したことから明らかである。「人は製品を買うのではなく、便益を買う」と最初に言ったのは、テオドール ラヴィットである。この言葉の裏には、カスタマーバリューをもたらす「オファー」の完全性という考え方がある。単純な例をあげれば、倉庫に入っている完成品は、有形の形状を持っているという意味では、顧客の手に渡った完成品と同じである。しかし、明らかに顧客が入手した製品の方が、倉庫内の製品に比べはるかに価値がある。配送サービスはこの場合、付加価値の源である。図2.3は、「サービス環境」の概念から、このアイデアを発展させている。

Fig.2.3 Using service to augment the core product

図2.3サービスによる製品の価値拡大   

Quality                 質

Product features       製品の容姿

Technology              技術

Durability etc.         耐久性等

Delivery lead tome and flexibility              配送のリードタイムとフレキシビリティ   

Delivery reliability and consistency   配送の信頼性と一貫性

Single point of contact         窓口の一本化

Ease of doing business          ビジネスのやり易さ

After-sales support etc.                アフターサービス等

 図の中心は、工場出荷時の製品を表す。その周囲は、カスタマーサービスとロジスティクスが提供するすべての付加価値を表す。カスタマーサービスとロジスティクス活動だけが付加価値を与えるのではない。多くの場合、宣伝、ブランド化、およびパッケージングは、すでに製品に認識されている価値を高めることができる。しかしこれまでに見てきたように、製品の差別化のためには、ブランド化だけでは不十分なことは明らかだ。

 サービス環境は、顧客に対してどんな影響を持つのだろうか。

 マーケティングの古典的な定義の一つに、マーケティングの関心は「顧客を確保し、保持する」という定義がある。多くの企業がマーケティング活動において、顧客の「保持」よりは、むしろ顧客の「確保」に焦点をあてた。したがって、古典的なマーケティング計画を調べてみると、顧客保持よりもマーケット・シェアの拡大に片寄る傾向がある。どんなビジネスにおいても新たな顧客は歓迎されるが、既存の顧客は、新たな顧客以上に高い利益をもたらすだけでなく、より頻繁に価値を生む購買活動行うことを理解しなければならない。

 顧客保持の重要性は、顧客の「終身価値」というコンセプトにはっきり示される。顧客の終身価値は次のように計算される。

        終身価値 = 平均取引価値 × 年間購入頻度 × 顧客の平均寿命

 アメリカの自動車マーケットについての研究で、満足を得た顧客は、最初に自動車を購入してからさらに十二年間同じメーカーの同型車をあと四台購入することが発見された。この研究では、こうした顧客保持が、車の製造業者にとって年間の新車売上四億ドル分に相当すると予測している。

 顧客保持をはかる単純な物差しは、次の質問をすることである。「12ヶ月前の顧客の何人が現在もつなぎとめられたままでいるか。」この物差しによって、顧客保持の程度がわかる。企業がこうしたアカウントの売上をどれだけ増やすことができたかを査定するために、保持された顧客が生んだ価値を計上してもよい。(図2.4参照)。

Fig. 2.4 Customer retention indicators  図2.4 顧客保持指標

No. of customers 12 months ago          12ヶ月前の顧客の数

New customers                           新規顧客

Retained customers                      保持された顧客

No. of customers today                  現在の顧客

Value of purchases 12 months ago                12ヶ月前の購入値

Value of purchases by retained customers        保持された顧客による購入値

 さらに、つなぎとめられた顧客が、新規の顧客よりも収益性が高いことを示す証拠がある。まず, つなぎとめられた顧客に対しては、典型的に、低いコストで販売やサービス提供ができる。また、顧客と企業の関係が発展するにつれ、顧客はパートナーと考える企業に、より多くのビジネスをオーダーするようになる。さらに、満足した顧客は、口コミで他人に情報を伝えるので、これをもとに新規顧客のビジネスが生まれるチャンスが増える。

 どんなカスタマーサービス戦略であっても、その主要目的は顧客保持を増大させるものであるべきだ。カスタマーサービスは、明らかに新規顧客の獲得に役立っているが、それはおそらくマーケティング上顧客を保持するための最も有力な武器でもある。

 顧客との「関係」を築くうえで、マーケティングとロジスティクスの関係から、新たな考え方が生まれている。その考え方とは、顧客が代わりのサプライヤーをさがす必要性を感じないほどの顧客満足をつくりだそうとすることである。多くのマーケットでは、顧客が嗜好を大きく変え、ブランドに対する「無差別化」が起きている。このようなマーケットにおいては、あるブランドを購入した顧客は、次の機会には別のブランドを購入することが予想される。

リレーションシップ・マーケティングの背後にある考え方は、顧客のロイヤリティーを維持し、強化するようなマーケティング戦略を展開しなければならないということである。例えば、クレジットカード会社は、カードを使って購入した商品の金額に基づき、顧客が賞品と交換できる得点を与えるようにすることができる。実際、IBMのような企業は、研修制度、顧客セミナー、顧客との頻繁なコミュニケーション等を通して、意識的に顧客との長期にわたる関係を築こうとしている。

サービス主導型ロジスティクス・システム

 ロジスティクスの役割は、カスタマーサービスの目的達成を保証するシステムと、それをサポートする協調プロセスの展開としてとらえることができる。これがサービス主導型ロジスティクス・システムの考え方であり、このシステムは明確なサービス目的の達成のために生み出された。

 多くの場合、企業は外部的な課題よりも、内部的な課題に対応するシステムを作り上げている。

 例えば、強力な生産志向を持った多くの企業は、規模の経済により大量の製品を生産できる「メガ・プラン」を開発する。しかし、現実には、マーケットからの距離が延びるため、この戦略は、フレキシビリティを減少させ先行期間を延ばすことになってしまう。より効果的なロジスティクス・システム設計の出発点は、マーケットの理解である。言い換えれば、我々は、様々なマーケットのサービス・ニーズを完全に理解して、ローコスト・ロジスティクスの解明に努めなくてはならない。

 理想的には、すべてのロジスティクス戦略およびシステムは、下記の順序で考えられるべきであろう。

顧客のサービス・ニーズの確認

カスタマーサービス目標の定義

ロジスティクス・システムの設計

しかし、そうした戦略を直ちに開始して、コスト削減といったような内部要求を達成するためだけに、現存するロジスティクス・システムのリエンジニアリングを行うべきではない。まず、顧客ニーズをよく理解し、そしてこれらニーズが市場区分によってどう異なるかといったことを、カスタマーサービス目標と連動させるべきであろう。その上で、このカスタマーサービスの目標を中心に、ロジスティクス・システムを設計するようにしなければならない。

ここで、このプロセスの最初の2段階、顧客ニーズの確認と、カスタマーサービス目標の設定を簡単にみてみたい。

 顧客ニーズの確認

 顧客がどの様なサービスを要求するかについては、全く同じ要求を行う顧客は存在しないことを覚えておくべきである。しかし、顧客は類似のサービス・ニーズで分類できるセグメントあるいはグループに分けられる。このような分類は、「サービス・セグメント」と考えることもできる。よって、ロジスティクス・プランナーは、顧客を区別するサービスが何であるかを知る必要がある。マーケット・リサーチは、このサービス・セグメンテーションを行う上で大きな助けとなる。なお、この重要な分野において行われている正式な研究が、あまりにも少ないことには驚かされる。

 このような研究プログラムはどのように実施されるべきであろうか。

 最初に強調すべき点は、カスタマーサービスが知覚的なものであることだ。我々が持っているサービスの「厳しい」基準で、サービス・パフォーマンスをどう判断しようと、現実には知覚によって判断されてしまう。我々は、生産にとっては有利ではあっても、顧客に全く価値のない手段を採用してしまうかもしれない。例えば、「ストック・アヴェイラビリティ」は、一般的な企業内部の評価基準であるが、顧客から見た、もっと適切な評価基準は「オン・タイム・デリバリー」であろう。よって、顧客にとって意味のあるサービスの評価基準を開発することが重要である。

 ここで示唆されたサービス・セグメンテーションは、3段階のプロセスを経る。

  • 顧客の視点からカスタマーサービスの主要な要素を確認する。
  • 顧客に対するサービス構成要素の重要度に基づくランク付けをする。
  • サービス選好の類似性にしたがって顧客の「クラスター」を特定する。
  • カスタマーサービスの構成要素の確認

 ビジネス上の一般的な失敗は、「顧客の要望を認識している」と思い込んでしまうことである。しかし、経営者が事業運営に手一杯の状況であれば、マーケットの現状把握が困難になるのは事実である。どのようにすれば、顧客に最も高く評価されるサービスの側面を知ることができるであろうか。企業は、自らが活動するマーケットの複雑さを考えた場合、どうすれば、顧客のサービス・ニーズについて、これらマーケットのセグメンテーションを、より上手に行えるであろうか。企業が顧客からサプライヤーとして選択されるためには、何が必要となるであろうか。

 明らかに、顧客のサービス・ニーズに対する理解は重要である。

 まず、購入決定に影響を与える主な要因を明らかにすることである。例えばもしも我々がメーカーに部品を売る場合、誰がサプライヤーを決定するのであろうか。この質問は簡単に答えられるものではない。なぜなら、多くの場合、複数の人が関わっているからである。我々の客先の購買部長は、他の従業員の代理を勤めているだけかもしれない。一般的には、彼の影響力はより大きなものであろう。また、小売店を通して販売される製品を生産しているのであれば、仕入れの決定は、小売りチェーンと店長個人のどちらによって行われるのであろうか。答えは、営業担当が導き出す。営業担当は的確に誰が政策担当者であるかを知ることが重要である。

 意思決定が誰によって行われるのかがわかれば、カスタマーサービスの研究者は、少なくとも誰を研究の対象とすべきかを判断できる。しかし、バイヤーに与えられるマーケティング要素のうち一体どの要素が、購入の決定にどのような影響を与えるのかという疑問は残る。

 理想的には、あるマーケットにおける意思決定単位が確認された場合、代表的なバイヤーのサンプルについて、個人的なインタビューに基づいた小規模研究プログラムが新たに考えだされるべきである。こうしたインタビューの目的は、顧客から次の事柄について解答を得ることだ。第一に、顧客が、価格、製品の品質、販売促進といったマーケティング・ミックスの要素とカスタマーサービスのどちらを重視しているのかという点である。そして第二に、顧客がカスタマーサービス個々の要素のうち何を重視しているのかという点である。

 カスタマーサービスを評価する上で重要なのは、適切かつ意味のあるカスタマーサービスが顧客自身によって創出されることである。いったん顧客の特質が確認されれば、我々は各特質の重要度を確認でき、一定のサービスを他のサービスと代替しても問題のない顧客がどの程度いるのかを確認することができる。

  • サービス構成要素の重要度に基づくランク付け

 顧客が評価する、各カスタマーサービスの重要性を発見する簡単な方法の一つに、ステップ1に表された方法で判明した要素を、顧客に「最も重要なもの」から「最も重要でないもの」までランク付けさせるやり方がある。但しこれは、特に要素が多数ある場合には、各要素のランク付けは困難である。代わりに数値によるウエイト付けを使用してもよい。例えば、解答者は、各要素の重要度に応じて、1から10のウエイトを付けるように言われるとする。ここで問題なのは、解答者が、ほとんどの要素について重要とランク付けする傾向があることだ。部分的な解決方法は、解答者に、重要度に基づいてすべての要素の合計が百点となるよう点数を割り当ててもらうことである。しかし、これは解答者にとってはやっかいで、多くの場合恣意的な割り当てとなってしまう。

 幸運にも現在では、顧客リサーチ技術の進歩によって、顧客がカスタマーサービスの各要素に付けた重要度を簡単に評価できる。この技術は、トレード・オフのコンセプトに基づいており、日常生活の例を使って説明するのが最もわかりやすい。新車購入を例にとってみると、顧客はある特性、例えばスピードと加速の点からみたパフォーマンス、ガソリン消費量からみた経済性、乗客と荷物の容量からみた車の大きさ、そしてもちろん低価格などを要求する。しかし、どんな車もこれらすべての要求を満たすことはありえないので、消費者は一つあるいは複数の特性を、他の特性とトレード・オフすることを余儀なくされる。

 配送サービスの代替オプションについても同じ事が言える。バイヤーは、配送の信頼を高めるため、あるいはオーダーの完全性をオーダーエントリー等の向上とトレード・オフするために一日か二日リードタイムとして余裕を見ておく必要がある。必然的にトレード・オフの技術によって、実行可能なカスタマーサービスの組み合わせが解答者に提供され、これらの組み合わせについての優先順位が確認される。その後コンピュータ分析によって、解答者の考える各サービスについての重要度が確認される。

3.カスタマーサービス・セグメントの確認

 最後のステップは、先に定義したサービスの特性それぞれについて、解答者の重要ポイントが判明した段階で、好みの同一性があるかをみることである。例えば、ある解答者のグループが、他の解答者のグループとは明らかに異なる優先順位を持っているのであれば、これら二つのグループを別個のサービス・セグメントとみなすことが賢明であろう。

 どのようにすれば、これらのカスタマーサービス・セグメントを判別することができるだろうか。こうした場合にクラスター分析がある。クラスター分析は、コンピュータを使った方法で、あるデータのセットの中において、可能な限り多くの側面から解答者をグループ化する。従って、もし二人の解答者が第二段階のトレード・オフ分析を同じように完了したのであれば、彼らがさまざまなサービスの側面につけた重要スコアは類似するので、クラスター分析において両者は同じグループとされる。

 あるマーケットの研究では、標準産業分類(SIC)に従って顧客をセグメントする伝統的方法が、購買行動にあまり関連していなかったと示唆している。産業セクターでの古典的な顧客分類と、サプライヤーが見出した顧客の特性との間には相関関係はなかった。かわりにいくつかの企業はどの産業界に属すにせよ、デリバリーの信頼性―つまり、「ジャスト・イン・タイム」セグメント―については非常に敏感だったと思われる。同じように、通常の産業分類の範囲を超越する、「価格」セグメントが存在した。他に、テクニカル・サポートとサプライヤーとの密接な連絡をより重要視し、「リレーションシップ」アプローチにより敏感であったセグメントが存在した。この研究の結果、サプライヤーは以前よりも自らのマーケティング努力に焦点をあてることが可能となり、サプライチェーン戦略をリエンジニアして、より顧客の要求に合わせられるようになった。

カスタマーサービスの定義

 ロジスティクス戦略の目的は、顧客が要求する質の高いサービスを、サプライチェーンとしては低コストで実行することである。マーケット主導型ロジスティクス戦略を開発する場合、その目標は、一貫した「質の高いサービス」を、コスト効率の良い方法で達成することである。

 カスタマーサービスの定義は、もし私達がパーフェクト・オーダーのコンセプトを使えばもっと簡単にできる。パーフェクト・オーダーは、顧客の要求が完全に見合った場合に達成される。パーフェクト・オーダーの定義は顧客一人一人にとって別個のものとなるが、通常は顧客をセグメントに分け、既に説明したやり方で、各セグメントのキーとなるサービス・ニーズを識別することは可能である。パーフェクト・オーダーは、これらのサービス・ニーズを、顧客の満足に合致させた時初めて達成される。

 従って、顧客の要求を完全に満足させる割合で、サービスの達成度を測ることができる。通常この割合は、ある一定期間すべての顧客について測定できるが、顧客個人のレベルでのサービス・パフォーマンスを計る際にも使用できる。例えば、セグメント、国、あるいは配送センターなど、どんなレベルであっても使用可能である。

 パーフェクト・オーダーは、多くの場合「オン・タイム・イン・フル(OTIF)」を使って測定される。この考え方を拡大すると、オン・タイム・イン・フル(時間通り、注文通り)であって、かつエラー・フリー(間違いのない)オーダーということになる。エラー・フリーの要素は、契約、ラベリング、および製品やパッケージングへのダメージなどに関連している。パーフェクト・オーダーのコンセプトを使って実際のサービスレベルを測るためには、各要素に対するパフォーマンスを監視し、各要素で達成された割合を掛け合わせれば良い。

 例えば、すべてのオーダーに対する過去12ヶ月間のパフォーマンスが次のような場合:

                オン・タイム :  90%

                イン・フル  :  80%

                エラー・フリー:  70%

実際のパーフェクト・オーダーは以下のとおりである:

90%×80%×70%=50.4%

言いかえれば、この調査期間に、パーフェクト・オーダーが達成される可能性は、たったの50.4パーセントということになる。

カスタマー・サービスのコスト・ベネフィット

 すべての企業は、収益性は顧客によって大きな違いがあるという基本的な事実に直面する。さまざまな顧客が、さまざまな製品を、さまざまな量買い求めるということだけではない。これらの顧客にサービスを提供するためのコストにはかなりのばらつきがある。この件については第3章で詳しく説明したい。

 2.8の法則とは、利益の8割は顧客の2割から生まれるというものである。さらに、サービスにかかるトータル・コストの8割は、顧客の2割(およらく先の2割とは異なる)によって消費されてしまう。割合は正確に8:2とはいかなくても、通常その範囲内におさまる。(これが19世紀イタリアのエコノミストの名前をとった、いわゆるパレートの法則である。)

 従って、カスタマー・サービス・マネジメントを達成したいのであれば、まず顧客の本当の収益性を把握し、次にすべての顧客について収益性を改善させるサービス戦略を策定する必要がある。カスタマー・サービスを提供するためには、コストとベネフィットの二要素があるので、サービスの適切なレベルと、どういったサービスを混ぜ合わせるかについては、顧客のタイプによって変化させる必要があることを忘れてはならない。

 サービスのレベルとコストの関係は、多くの場合、図2.5の様な急な上向きカーブとして描かれる。

Fig.2.5 The costs of service            図2.5サービスのコスト

Costs of service        サービスのコスト

Service level           サービス・レベル

 この現象は、大部分が予想以上の需要を満足させるための、追加的な在庫品のコスト高によるものである。

 しかし、例えば顧客の要求に関する情報の流れをスピードアップさせたり、より早い配送方法を使用することによって、代替的なサービス戦略を提供することが可能な場合、より少ない在庫で同レベルのサービスが提供でき、結果としてカーブが右に押し出される(図2.6)。これが、情報活用によって、在庫を減少させる方法である。

 同時に、サービスのコストを検討する際には、サービスのベネフィットは何であるかを理解することが重要である。新たなサービスのコストが長期的な収入よりもコスト高であるとすれば、そのコストは明らかに妥当なものではない。同様に、マーケットの各セグメントは、高いレベルあるいは低いレベルのサービスに対して、かなり異なった反応をみせる。

 サービスレベルの変化に対する顧客の反応を認識するのは難しい。それは、むしろ宣伝の効果を計量化しようとするようなものである。競争相手のマーケット活動を含め、顧客の行動に影響を与える変数があまりにも多いので、この件について厳密で経験的なリサーチを行うには、かなり複雑な実験計画が必要となる。

 サービスのレベルに関するかぎり、サービスの改善が顧客の購買行動に与えることのできる影響には限度があることは明らかだ。言いかえれば、あるレベルから収穫逓減が始まる(図2.7参照)。

Fig.2.7 The returns to service  サービスに対する収益率

Sales revenue                           サービス収益

Service level                           サービスレベル

 サービス反応曲線がS字型であるのは、いくつかの理由があるものと思われる。第一に、ほとんどの市場において最低レベルとして許容されるサービスがある。これが「最低サービス水準」である。もしもこの点が設定されなければ、追加的なサービス支出に対する収益は最小限になるであろう。例えば、競争的な小売市場において、ストック・アヴェイラビリティを5パーセントから10パーセントに上げようとしても、明らかに効果がない!

 市場にいくらかでもサービス感応性があれば、いったんこの水準を過ぎると、サービス改善に対する収益率が増加するであろう。しかし、あるレベルから収穫逓減が始まるのは避けられない。このレベルを過ぎると、サービス過剰の領域となり、サービスに追加的な支出をしても見返りがなくなる。

 図2.8に示すように、これら二つのカーブを一緒にすると、サービスレベルの決定におけるコストとベネフィットのトレード・オフ関係がよくわかる。

 このモデルから一つ明らかなことは、サービス反応曲線の形、あるいは収穫逓減の始点の位置によらず、コスト曲線が「右に押される」ことができるとすれば、あらゆるレベルのサービスから得られる利益が向上することだ。

カスタマー・サービスの優先順位

どんなロジスティクス・システムであっても、目標はすべての顧客に対して要求されたレベルのサービスを提供することであるべきだが、同時にどんな予算にも限りはあるので、サービスに優先順位をつけることは避けられない。これとの関連でみると、パレートの法則または2.8の法則は、コスト効率的なサービス戦略開発の手段である。基本的にサービスに関しては、すべての顧客や製品が同等の利益をもたらすわけではないので、主要な顧客や主要製品について最高のサービスが与えられるべきであろう。サービスに対する支出は重要であるため、サービスに対する決定は資源配分の問題と考えるべきである。

 図2.9は、ある典型的な企業の利益が、顧客と製品によってどのように変化するかを示している。

 

Fig. 2.9 The “Pareto” or 80/20 rule             図2.9パレートの法則または2.8の法則

% Sales/profits         売上/利益の割合

% Products/customers            製品/顧客の割合

 この曲線は一般的に三つのカテゴリーに分けられる。利益率が上位20パーセントの製品および顧客はカテゴリーA。次の50パーセントくらいまでがカテゴリーB。そして、最後の30パーセントがカテゴリーCである。カテゴリー間の正確な区分は不定である。なぜなら、曲線の形状がビジネスやマーケットによって変化するからである。

 指標としては、販売収入や販売数量よりも、利益が妥当であろう。なぜならば、収入や数量の指標は、検討すべきコスト変化を不明確にする可能性があるからだ。顧客にとっては、このコストは「サービスのためのコスト」である。顧客の利益率を測る方法については後述する。製品利益率については、サービス関連コストが製品によって異なるので、適切なサービス関連コストを識別するよう注意しなければならない。ここでの問題の一つは、従来の会計方法がこれらコストを識別する助けとはならないことである。従来、固定費の問題に取り組む際には、製造コストに焦点をあて、フル・コスト配分の方法を使った会計システムが利用された。

 この分析の現段階で我々が関心を持つべきことは、最小在庫管理単位(SKU)における各製品の、利益に対する貢献度を識別することである。貢献とは、製品がロジスティクス・システム過程で発生する直接的な個別コストと、獲得する総収益との差である。

 まず製品利益率の違いを見てみると、我々はA、B、Cのカテゴリー別にしたことをどう利用したらよいであろうか。まずは、典型的な在庫管理の基礎として使用できる。その場合、安全在庫に代表されるような最も高いレベルのサービスが「A」製品、それよりも多少低いレベルのサービスが「B」製品、そしてさらに低いレベルのサービスが「C」製品と区別できる。よって、我々は下記に示すような保管方針を計画してもよい。

                 製品カテゴリー     ストック・アヴェイラビリティ

                        A                               99%

                        B                               97%

                        C                               90%

より好ましくは、代わりに「A」商品をできるだけ顧客に近いところで保有し、「B」商品と「C」商品はサプライチェーンのより後方に保有することで、保管の差別化をはかることもできる。通常、「B」商品と「C」商品をより少ないロケーションで保有することによって節約された保管費は、より早い輸送手段(例:明日渡し)を使って顧客に商品を配送する追加的コストをまかなえる。

 おそらく製品サービスレベルを管理する最良の方法は、利益貢献度と個別製品需要の両方について注意を払うことであろう。

 これら二つの手段は、図2.10の単純なマトリックスにまとめることができる。このマトリックスについては次のように説明できる。

マトリックス 1:コスト削減に向かって

このマトリックスの製品は量が多いので、需要が多いとみられる。しかし、これらの製品は利益貢献度が低いので、製品コストおよびロジスティクス・コストを見直して、利益を増やす余地があるか検討するべきである。

マトリックス2:高いアヴェイラビリティの提供

このマトリックスの製品は、需要が多く、より高い収益性を持つ。これらの製品については、顧客になるべく近いところで高いアヴェイラビリティを持った、最高のサービスが提供されるべきである。このような製品は比較的少ないので、この戦略に従うことが可能となる。

マトリックス3:見直し

このカテゴリーの製品は、ボックス圏から削除する必要があるか定期的に査定されるべきである。これらの製品は利益に貢献せず(貢献したとしてもわずかであり)、売上からみると回転が遅い。また、企業の製品ポートフォリオに有利に働かなければ、製造停止になる可能性が高い。

マトリックス4:J.I.Tデリバリー

このマトリックスの製品は、高い収益性を持つが、比較的ゆっくりした早さで売れるので、J.I.Tデリバリーに入る。換言すれば、これらの製品は、全体の在庫投資を減らすために、サプライチェーンの遥か後方の中心部に保管され、要求があった時に顧客に直接急送されるべきである。

 この製品に優先順位をつけるには、顧客の優先度を含むようにしてもよい。製品の2.8の法則は顧客にも製品と同様に当てはまるので、主要製品だけでなく主要顧客に資源を集中させることは理にかなっている。

 図2.11は、もし2.8の法則が製品と顧客の両者に当てはまるとすれば、すべてのビジネスは、数少ない高利益商品を購入する少数の顧客に依存することになる。計算式は単純である:

        20%の製品を購入する20%の顧客

        =すべての顧客・製品取引の4%

これは下記の式を提供する:

        全利益の80%×80%=64%

言いかえれば、取引全体のわずか4%が、全利益の64%を生み出す!

 どのようにすればこの重要な事実を実際に活用できるだろうか。最初にすべきことは明らかだ。主要製品をオーダーする主要顧客に最高のサービスとアヴェイラビリティを提供することである。一方では、収益性の低い顧客と製品を常に見直すべきだ。その中間に、顧客がつけた商品の「重要価値」に基づく現実主義の範囲が存在する。これは特にスペアパーツのサービス戦略を開発する場合に適用される。考え方としては、作業休止時間のコストが高い機械を動かすために必要なスペアパーツは、高い重要価値を与えられる。重要性に基づいた「ウエイト」をつけ、その都度2.8の法則に基づいた収益性のランキングを調整してもよい。表2.2は一例である。

表2.2 Critical value analysis               重要価値分析

        Products                                製品

        Profitability rank order                収益性

        Critical value to customers             顧客にとっての重要価値

        Rank × critical                       ランク×重要価値       

        Order of priority for service   サービスの優先順位

        Critical values                 重要価値

        Sale lost                               営業損失

        Slight delay acceptable         わずかな遅れ許容可

        Longer delay acceptable         多少の遅れ許容可

サービス基準の設定

 もしもサービス・パフォーマンスを管理するのであれば、それは予め定められた目標を基準に管理しなければならない。

 究極的には、顧客の期待に100パーセント一致する基準だけを目指すべきだ。その際、顧客の要求について明確で客観的な理解が必要である。同時に、サプライヤーにはこうした顧客の要求に答える義務がある。言いかえれば、顧客が期待するものと、サプライヤーが提供できるものとが完全に一致しなければならない。この点から、サービス基準についての検討が必要であろう。なぜなら、サプライヤーや顧客に対して、長期的な収益性の低下につながるようなサービスを提供する意味はないからだ。

 顧客サービス要素のうち、基準が設定されるべき要素はどんなものであろうか。

 第一に、内部的なサービス基準がある。多くの場合、こうした内部基準は顧客が望む基準を反映している。外部基準は、顧客自身によって明確にされなければならない。そのためには、各マーケット・セグメントについて顧客サービスの定義を明確にするため、顧客の調査と指標をつける研究を続けることが必要となる。

 ここでは、基準が必要となる主な事柄をあげておきたい:

        ・オーダー・サイクル時間

        ・ストック・アヴェイラビリティ

  • オーダー・サイズの制約
  • オーダーの利便性
  • 配送の頻度
  • デリバリーの信頼度
  • 説明書の質
  • クレーム手続き
  • オーダーの完全性
  • テクニカル・サポート
  • オーダー現状についての情報

 これらを一つずつ順番に見ていこう。

オーダー・サイクル時間

これは、顧客のオーダーから配送までに要する時間である。顧客の要求に対して、基準が定められる必要がある。

ストック・アヴェイラビリティ

利用可能な在庫のある商品(最小在庫単位あるいはSKU)需要の割合と関連している。

オーダー・サイズの制約

少量商品のジャスト・イン・タイム・デリバリーを要求する顧客がだんだんと増加している。顧客の需要の幅に対応できるフレキシビリティを備えているかどうかが問われる。

オーダーの便宜性

顧客が利用しやすいか。顧客からどのように見られているか。顧客システムとのインターフェースは良いか?

配送の頻度

顧客は短期間に頻繁な配送を要求している。これはジャスト・イン・タイムに向けた動きをさらに加速する。ここでも柔軟に対応できるかどうかが、パフォーマンス基準の基礎となる。

デリバリーの信頼度

全オーダーのどの程度が時間内に配送されるか。これは配送活動のみならず、ストック・アヴェイラビリティとオーダー処理活動も反映する。

説明書の質

インボイスや配送報告や顧客とのコミュニケーションにおけるエラーの頻度はどれくらいか。説明書は顧客にとって分かりやすいものになっているか。失敗のうちの多くが説明書の不備によるものである。

  

クレーム手続き

どのようなクレームが出されているか。その原因は何か。それらのクレームにどれだけ早く対応できているか。「サービス・リカバリー」のための手順はあるか。

オーダーの完全性

全オーダーのうちどの程度が完全な形、つまり、受注残や分割船積みがなく、配送されるか。

テクニカル・サポート

販売後、顧客にどんなサポートを提供できるか。緊急連絡の入った時や、最初の修理費用についての基準はあるか。

オーダー状況についての情報

オーダー状況についていつでも顧客が確認できるようになっているか。「ホットライン」や、同等のものがあるか。ストック・アヴェイラビリティやデリバリーで将来の課題になりうる点について顧客に連絡する手順はあるか。

これらの事項は、顧客の要求に対して数量化し測定することが可能である。同様に、競合との比較も可能である。

覚えておかなければならないのは、顧客の視点からは100パーセントあるいは0パーセントのどちらか二つのサービスレベルしかないということである。言いかえれば、顧客がオーダーしたものを、要求した時間に、要求した場所で受け取ることが出来るか否かということだ。また、100パーセントの注文履行率を達成するのは極めて難しいということも忘れてはならない。もしも、あるオーダーに対して10の商品があるとして、それぞれの商品が95パーセントのレベルのアヴェイラビリティで在庫として持たれている場合、オーダーが完全に達成される確率は、(0.95)10、つまり0.599である。言いかえれば、完全なオーダーは50%をわずかに超える割合で達成される。

 表2.3は、顧客のオーダーする商品の数が増えるにつれて、注文履行の確立がどのように減少するかを示している。

表2.3 Table2.3 

Probability of a complete order         オーダーを完全に満足させる確率

Number of lines in order                        注文数

Line item availability                  アヴェイラビリティー

理想的には、企業は基準を設けて、カスタマー・サービスのパフォーマンスを監視すべきである。例えば、取引前、取引中、取引後という枠組みを使うと、パフォーマンスを測定するための貴重な指標となる。

取引前

  • ストック・アヴェイラビリティ
  • 目標配達日
  • 質問への解答時間

取引中

  • 注文履行速度
  • オン・タイム・デリバリー
  • 繰越商品
  • 船の遅れ
  • 代品

取引後

●最初の修理費

  • 顧客からの苦情
  • 返品/クレーム
  • インボイス・エラー
  • スペア・パーツ・アヴェイラビリティ

複数のサービス測定に基づいて総合指数を割り出すことは可能で、特にサービス・パフォーマンスを社内で伝達する際の便利な道具となり得る。表2.4にこのような指数を示した。各サービスに対するウエートは、顧客がそれぞれのサービスにつける重要度を反映している。

表2.4 Table2.4

Composite service index 総合サービス指数 

Service element         サービスの要素

Importance weight               ウエート

Performance level               パフォーマンス・レベル

Weighted score                  加重率

Order fill rate         注文履行速度

On-time delivery                オン・タイム・デリバリー

Order accuracy                  オーダーの正確性

Invoice accuracy                インボイスの正確性

Returns                         収益率

Index                           指数

顧客サービスは、競争優位を目指す企業にとって最も重要な戦略の一つであるにも関わらず、通常その管理は最もわるい。この章の重要なメッセージは、顧客サービス・パフォーマンスの質は、ロジスティクス・システムの設計・管理に大きく依存しているということである。簡単に言えば、ロジスティクス活動のすべてが、カスタマー・サービスを生み出す。