組織改革者の気質と素養

ウッド(シアーズ社長)は任天的魅力と温かみにあふれた人物で、事業帝国の構築者と組織構築者の両方の性格を強く併せ持っていた。氏が成功を収めたのは、実務埋没せず、経営戦略に専念したからだろう。本書で紹介したほかのどの経営者にもまして、社内のニーズと社外の事業機会に注意を払い続けた。

経営者が受けた教育や培ってきた経験と、組織ニーズへの取り組み方とのあいだには、ある程度の相関関係が認められる。社内の各組織を体系的に関係づけることに大きな関心を寄せた人々は、大多数がエンジニアリング分野の教育を受けている。

組織課題にいち早く目をとめた人々の多くがエンジニアリングを学んだという事実が、どの程度大きな意味を持つかは不明だ。科学・エンジニアリング分野の課題を解決するには厳密さが求められ、それゆえ彼らはマネジメント・ニーズにも同じように取り組んだのかもしれない。
 いずれにせよアメリカで企業組織の合理化、体系化が進む過程では、エンジニアが大きな役割を果たしたといえる。

組織改革者たちの共通点は、エンジニアとしての素養やエンジニア的な発想だけにとどまらない。みな比較的若く、責任ある地位に就いてほどなく組織改編に関心を払いは始めたのだ。
シアーズのフレイザー委員会も、30代後半から40代半ばまでの人材で構成されていた。ニュージャージー・スタンダードの取締役や年配者が多く、特筆すべきことに、彼らが退任して世代交代が一気に進んだ後にようやく、組織再編が前進したのだ。シアーズ、デュポン、GMの3社でも、組織改編が行われたのは経営陣が大幅に入れ替わった直後だった。

新組織の立ち上げや改編の完了が遅れたのは主に、新市場への参入に伴うマネジメント・ニーズを経営陣が見過ごしたからである。・・・彼らは、問題が販売、財務、製造などの主要活動ではなく、組織にかかわっているという事実を見落としてしまう。あるいは、日々の実務に忙殺されるあまり、あらたなニーズが生まれていることに気付かなかったり、そのニーズにこたえるのに適した組織を構築しそこなったりした。・・・他方、エンジニアリングの素養、マネジメント課題への理論と分析を主体としたアプローチ、若さ、昇進からの歳月が浅い点などはすべて、経営陣が新たなニーズに目をとめ、組織改革者になるのを助けるようだ。