『資本主義の再構築』レベッカ・ヘンダーソン

水野弘道は2014年、CFOとしてGPIFに加わった。

水野はGPIFのパフォーマンスを向上するために、日本のあらゆる企業にESGの活用を奨励することで経済全体の健全性を向上する方法をとることにした。

非公式の場で水野は、環境や社会活動に基づく運用方針は、長らく保たれてきた日本の文化的価値観に合致する点を強調した。

企業にESGの課題を重視するよう促せば、日本経済のパフォーマンスが向上すると考えられる理由はいくつかあった。ESGの「G}、企業統治重視から始めるのは当然に思える。過去20年にわたって、日本企業のリターンが競争相手の外国企業を大幅に下回っているのは、日本企業の取締役会が正解標準に比べて弱いからだという認識が一般的だ。日本の多くの経営幹部は地位がしっかり守られているため、業績不振で追放されるプレッシャーや、新たな機会を発掘するプレッシャーを感じていない。

GPIFがまず資産運用担当者に要請したのは、投資先の企業に統治機構を改善して投資家に権限を付与するように求めることだった。具体的には事業に関するより詳しい情報開示、長期的な戦略についての株主への説明、企業統治を念頭に議決権を行使することなどである。

ESGの「S]、社会問題を重視することも、大きな配当を生むとみられた。日本の出生率は1970年代半ばの人口置換水準を下回る水準に落ち込む一方、労働人口は世界一のスピードで減少している。日本の閉鎖的な移民政策を踏まえると、長期的な経済成長には女性の労働参加を促すことが必須だが、これを実現するには根深い構造問題に取り組まなければならない。

ESGの「E」の環境問題を解決することも、年金受給者の長期的な厚生を確保するために不可欠だと水野は考えていた。野放図な気候変動は、日本の食料供給を不安定にし、ただでさえ災害の多い島国で自然災害を頻発させる。「これから30年間にわたって年金を支払えたとしても、年金受給者の孫の世代が外で遊べなければどうしようもない」と水野は語る。


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