紛争の現状

開戦10日目を迎えた現在、停戦の見通しは依然として見えない。イラン外相アラグチ氏はNBCの「ミート・ザ・プレス」でイスラエルと米国による攻撃を強く非難し、「国民のために戦い続けなければならない」として停戦要求を公式に拒否した。またロシアが「多くの異なる方向で支援してくれている」と明言し、ロシアとの軍事協力を公式に認めた。 FreightWaves

軍事面では、イランは開戦以来500発超の弾道・艦艇用ミサイルと約2,000機のドローンを発射したが、発射ペースは開戦当初から低下傾向にあり、アナリストはミサイル・ランチャーの在庫枯渇と長期戦を見据えた温存戦略の両方を要因として指摘している。一方で国連は3月6日時点でこの紛争を「大規模人道緊急事態」と宣言しており、約2,500万人が難民として影響を受けている。 FreightWaves

トランプ大統領はイランを「非常に激しく攻撃する」と宣言。米国務省は中東・湾岸12カ国以上に滞在する米国人に即時退避を勧告しており、戦争の早期収束は現実的な見通しではない。 CNBC


ホルムズ海峡と紅海:二重封鎖の固定化

今回の紛争が生み出した最大の構造的変化は、ホルムズ海峡と紅海(バブ・エル・マンデブ海峡)という2大チョークポイントが同時に事実上閉鎖されたことにある。紅海には喜望峰回りという代替ルートが存在し、所要日数は10〜14日増加するものの貨物は動く。しかしホルムズ海峡には等価の代替ルートが存在しない。湾岸港への唯一の海上出入口であり、封鎖されれば貨物の動きは遅くなるのではなく「完全に止まる」という点で、紅海危機とは次元が異なるリスクだ。 Wikipedia

また、2025年10月のイスラエル・ハマス停戦以降、商業船舶への攻撃をほぼ停止していたフーシー派は、イラン攻撃開始後に「紅海作戦の再開」を宣言する構えを見せており、指導部がイスラエルの空爆で弱体化しているため今のところ実力行使には至っていない。しかし紅海への再攻撃が始まれば、二重封鎖が完全に確定する。 Lloyd’s List


国際コンテナ運賃への影響

湾岸向け貨物の壊滅的打撃

攻撃開始時点でホルムズ海峡周辺を航行中だった貨物は約13万5,000TEU・推定40億ドル相当に達し、そのうち米国・欧州向けの約2万2,000TEU(約8億7,700万ドル相当)が宙に浮いた状態となっている。マースク・MSC・ハパックロイド・CMA CGM・日本郵船を含む全主要船社がホルムズ通航を停止し、湾岸向けの新規予約を事実上停止している。 Wikipedia

緊急割増金の実態

マースクは3月2日付でホルムズ海峡閉鎖に伴う緊急運賃値上げを正式発動した。UAE・カタール・サウジアラビア(ダンマン・ジュバイル)・バーレーン・クウェート・イラク・オマーン(ソハール)向け全域が対象で、「ホルムズ海峡閉鎖に起因する運航制約と増加コストをカバーするための緊急運賃値上げ」として、船荷証券第20条の契約上の権利に基づき即時効力で実施している。 The Times of Israel

戦争リスク保険料は紛争前の船体・機関価値の0.25%から0.5%超へと倍増した。船舶評価額1億5,000万ドルのコンテナ船では1航海あたりの保険料が37万5,000ドルから75万ドルへと跳ね上がり、このコストはシッパーへの割増金として直接転嫁される。 Wikipedia

グローバル運賃への構造的波及

ホルムズとバブ・エル・マンデブ海峡の二重封鎖により、湾岸地域に深刻なボトルネックが発生しているのみならず、スエズ運河への回帰の可能性も完全に消滅した。直前まで一部のスエズ運河通航を再開していたマースクのMECLサービスとジェミナイコオペレーションのME11/IMXサービスは、再開計画を全面撤回した。 The Washington Post

Xenetaのピーター・サンド首席アナリストは「中東地域向けでは少なくとも紛争が続く間、運賃上昇を織り込むべきだ。海上輸送に真の代替手段はない。地政学リスクが過去のどの時期よりも高頻度かつ深刻に現れており、業界には10の緊急計画を立てても新たな展開で全て無効にされるという疲弊感もある」と述べた。 NBC News


国際航空貨物運賃への影響

構造的なキャパシティ喪失

Freightosの推計によると、通常は中国〜欧州間の航空貨物キャパシティの約4分の1が中東を経由している。航空貨物コンサルタント会社Aeveanの分析では、アジア太平洋〜中東・南アジア〜欧州回廊全体のキャパシティが利用可能貨物トンキロメートル換算で39%減少しており、アジア〜欧州間の航空貨物市場における「根本的かつ構造的な変化」が短期間で生じていると指摘している。 The Washington Post

運賃収束という新たな現象

海上輸送から航空輸送への代替需要が急増する中、航空貨物運賃はオフシーズンにもかかわらずピークシーズン水準に向けて上昇しつつある。ロンドンを拠点とする複数の引受会社がペルシャ湾の戦争リスク補償の「解約通知」を発行しており、船舶評価額1億ドルに対して0.5%のプレミアムは1航海あたり50万ドルの追加コストを意味し、この負担は貨物オーナーに直接転嫁される。 Fox News

サプライチェーンへの産業的波及

ブレント原油は3月4日時点で1バレル80〜85ドルと、攻撃前の70〜75ドルから10〜15ドル急騰しており、バンカー燃料コストの上昇を通じてコンテナ船社全体のコスト構造を押し上げている。カタールのLNG生産停止の影響もあり、欧州向けジェット燃料価格の急騰が航空貨物コストにも二重の圧力をかけている。 The Washington Post


総括

開戦10日目の現時点で、イラン外相の停戦拒否・ロシアの軍事支援の公認・トランプ大統領のさらなる攻撃予告という三つの要素が重なり、短期収束シナリオはほぼ現実的でなくなっている。コンテナ運賃は湾岸向けを中心に緊急割増金が既に発動されており、スエズ回帰計画の全面撤回によって喜望峰迂回の長期化も確定的となった。航空貨物はアジア〜欧州間のキャパシティが約40%消失するという構造的打撃を受けており、「ジャスト・イン・タイム」モデルから「ジャスト・イン・ケース」モデルへの転換、在庫バッファーの拡大(通常の30日から45〜60日へ)、契約条件の「実費運賃」条項への切り替えが、荷主側の緊急対応策として浮上している。 Fox News