ハブ壊滅という構造的打撃

今回の紛争が航空貨物に与える影響は、過去の地政学リスクとは次元が異なる。その核心は、世界の航空貨物ネットワークの根幹をなす湾岸ハブが同時に機能停止に陥った点にある。

ドバイ、アブダビ、ドーハは「スーパーコネクター」として世界中の任意の2地点を湾岸経由でつなぐモデルを確立しており、この湾岸ハブ型の航空ネットワークが今や世界の航空旅客・貨物輸送の根幹を担っている。2月28日のドバイ国際空港(世界最大の国際旅客空港)へのドローン攻撃は、このモデルがいかに脆弱であるかを一瞬にして露わにした。 CTOL Digital Solutions

2026年3月1日、ドバイ国際空港(DXB)とドーハのハマド国際空港(DOH)が午前中に相次いで運航停止となり、GCC全域・イスラエル・イラク・イランの各国空域が事実上同時に閉鎖されるという「ハードストップ」が発生した。 CNN

主要航空会社・貨物便の対応状況

世界最大の航空貨物フォワーダーDSVは、トランジット時間の大幅延長・不規則ダイヤ・運賃値上げを顧客に警告し、「状況が不透明なため、フライトスケジュールやネットワークカバレッジにさらなる変更が短期通知で生じる可能性がある」と述べた。キャセイパシフィックは747貨物機20機を含む全中東便を停止。エア・インディアは中東向け全便に加え欧州・ニューヨーク向けの多くの便も運休とした。 NBC News

FedExはバーレーン、イラン、イラク、イスラエル、ヨルダン、クウェート、レバノン、オマーン、カタール、UAE、サウジアラビアへの全フライトを停止。エミレーツスカイカーゴは新規貨物の予約・受付を一時全面停止した。 The Jerusalem Post

世界の航空貨物キャパシティへの影響

オランダのコンサルタント会社Rotateのデータによると、中東系航空会社の運航停止と他社による中東路線の回避により、グローバルの航空貨物キャパシティが前週比18%減少した。アジアの貨物便はロシア上空(制裁の適用可否による)または中央アジア経由に迂回しており、燃料消費が増加する分、積載可能貨物量が減少している。 NBC News

世界の航空貨物の13%が湾岸地域を経由しており、その多くはアジアから欧州に向かう途中の給油・トランジットとして中東ハブを利用している。2025年には航空貨物需要が史上最高を記録していた矢先の混乱となった。 Al Jazeera

運賃への影響と今後の予測

TAC Index(グローバル航空貨物価格指標)のエディター、ニール・ウィルソン氏は「大規模なフライトキャンセルが続く場合、特にアジア〜欧州路線で運賃が潜在的に大幅上昇する可能性を見込んでいる」と述べた。一方、春節明けで中国の輸出がまだ本格回復していない時期にあたるため、航空機の供給に若干の余裕があり、即時の大幅値上げを一時的に抑制する可能性があるとの指摘もある。 NBC News

ただしこれは一時的な緩衝材にすぎない。世界最大の航空貨物フォワーダーDSVは、現在の混乱は中東域内にとどまらず、航空機の再配置・ルート延長・サービス停止・主要航路における利用可能スペースの逼迫を通じて、より広範な影響が出ると警告している。 Wikipedia

欧州・アジア路線への深刻な波及

欧州系キャリアも、トルコ・イラク・イランを経由する従来の南回り回廊が使えなくなったため、中央アジア経由の北回りルートへの切り替えを余儀なくされている。これにより、アジア〜欧州間の主要航空貨物路線全体が影響を受けている。 The Washington Post

海上・航空の「ダブル封鎖」という前例なき事態

「今回のイベントは典型的なブラックスワン(予測不能な極端事象)だ」とする業界関係者の声が相次いでいる。欧州・中南米・アジアの主要港でもすでにキャパシティが問題となっており、海上貨物と航空貨物の双方が同時に詰まるという事態は、パンデミック時に匹敵するか、それを上回る混乱をサプライチェーン全体にもたらすとの懸念が広がっている。 Fox News

まとめ

現時点では、ドバイ国際空港が限定的な運航を再開しつつあるものの、エティハド航空は水曜日まで全面停止を継続、カタール航空・エミレーツスカイカーゴも段階的な復旧にとどまっており、事態の正常化にはなお時間がかかる見通しだ。紛争が長期化すれば、アジア〜欧州間の航空貨物運賃は数週間以内に急騰局面に入り、コンテナ運賃の高止まりと相まって、グローバルサプライチェーン全体が2024年紅海危機を大きく上回るコスト圧力に直面することになる。