主要課題と対策

運用上のつまずきは概ね4類型に整理できる。①部門間調整:物流・調達・経理・サステナ部門で“目的と適用範囲”がズレる。②データ精度:設備・輸送の排出係数や活動量が揃わず、案件間比較ができない。③開示整合:CDPや有報で説明する粒度と、社内稟議の粒度が不一致になる。④税務・会計影響:Internal fee(社内課金)を採用すると、管理会計上は効いても税務/移転価格の論点が生じ得る。対策は、用途別にICPを二層化(参照用と投資基準用)し、データ定義と責任分界を文書で固定することだ。

部門間調整・データ精度・開示整合・税務会計

部門間調整(誰が決め、誰が運用するか)
環境省ガイドは、運用パターンごとに「調達部等の巻き込み」「経理部等の巻き込み」「決裁フローの確認」など、部門連携が前提になることを明示しています。
特にInternal fee/Tradeは資金や排出量の“やり取り”が発生し、グループを超えると徴収が難しくなる、と論点が整理されています。
対策は、CLO/物流統括管理者の管掌で「目的」「適用範囲」「価格レンジ」「稟議テンプレ」「データ定義」を一本化し、投資の実行だけ各事業所が担う設計に寄せることです(本社がルール・制度設計・全体統括を担うパターンが提示されている)。

データ精度(精緻化より“比較可能性”を優先)
Scope1/2/3の排出状況を確認し、排出量の大きい領域から対象にする、という手順は“精緻化の順序”を示しています。
物流領域では、まず倉庫電力・燃料など活動量が取りやすいところから開始し、輸送(委託)の算定はLaneや主要キャリア単位で精度を揃えるのが現実的です。サプライヤーとエンゲージメントなしに削減が困難、という指摘は、「データ取得の交渉」そのものが施策であることを意味します。

開示整合(社内稟議とIRの“同一ストーリー化”)
開示例では、財務情報とサステナビリティ情報のつながりがある開示が重要で、ICPを使ってGHG排出量を財務と関連付けることが考えられる、とされています。
この要求に対して最も強いのが「投資判断に使っている」説明です。したがって、稟議テンプレの項目(価格、用途、適用範囲、見直し)をそのまま開示の素材に転用できる形にするのが対策になります。

税務・会計影響(Internal feeの“次の壁”)
社内課金やグループ内の炭素費用配賦(intercompany carbon fee)は、管理会計上は行動変容に効く一方、税務・移転価格目的との整合性評価が必要になり得る、と指摘されています。
対策は二段階です。第一に、最初はShadow/Implicitで稟議を回し、資金移動を発生させない。
第二に、Internal feeに進む場合は「費用の性格(管理会計か、財務報告・税務に影響する費用か)」「グループ間取引の扱い」「移転価格方針との整合」を税務・経理と同時に設計する(海外拠点があるほど重要)。