導入設計の実務
導入設計は「対象範囲→価格レンジ→意思決定フロー→データ算定→更新ルール」を順に固める。物流・倉庫ではまずScope1/2(燃料・電力)を起点に、必要に応じて輸送委託や包装などScope3へ拡張する。価格は実務上、4,000〜20,000円/t-CO₂を当面の設計レンジに置き、投資案件では“炭素価値=削減量×ICP”をNPV/IRRへ加算する方式が使いやすい。価格は年次(または外部価格急変時)に見直し、稟議テンプレで計算根拠を固定化する。
対象範囲・価格レンジ・更新ルール・稟議フロー
対象範囲の決め方(最初に握る境界)
環境省のガイドは、まずScope1/2/3の排出状況を確認し、排出量の大きなScope/事業/設備を特定し、必要に応じてScope3も適用範囲に含めるか検討する、という手順を示しています。
物流・倉庫向けの“失敗しにくい”境界設定は次の順序です。
第一に、倉庫拠点(電力・燃料)と自社車両(燃料)のScope1/2を対象にし、設備投資評価を先に動かします。
第二に、荷主は委託輸送・保管をScope3として扱う準備をし、データが揃ったLane/拠点から段階拡張します(サプライヤーエンゲージメントの重要性が指摘される)。
ICPの方式(Shadow/Implicit/Internal fee/Internal trading)
CDP日本版レポートでは、ICP導入企業における種類の分布として、シャドープライスが多く、次いで社内費用(Internal fee)、暗示的価格(Implicit)などが示されています。
環境省ガイドでも、Internal fee(内部炭素課金)は資金の徴収・運用を伴い、Internal trading(内部排出権取引)は部門間の排出量取引を伴う、と整理されています。
物流・倉庫の“設備投資評価”に限れば、まずはShadow/Implicitで稟議に組み込む(資金移動なし)→社内に浸透したらInternal feeを検討、が運用上の摩擦が少ない設計です(用途を「参照用」と「投資基準への反映」で整理する考え方が提示されている)。
価格レンジの置き方(4,000〜20,000円/t-CO₂を“使い分ける”)
一次情報で確認できるレンジの置き方として、省エネ設備投資などの評価に4,000円/t-CO₂(直近の価格採用)、寿命の長い建物評価に20,000円/t-CO₂(将来価格の累積平均)を採る例があります。
この二層構造は、物流施設・倉庫の意思決定にそのまま転用できます。短期の更新(LED、空調更新、運用改善)には下限側、長期の資産(倉庫建屋、物流ネットワーク再設計、長期PPA)には上限側を当て、投資判断の時間軸と価格水準を一致させます。
補助線として、実際の開示例では1t-CO₂当たり5,000円の導入や、初期3,700円から10,000円へ引き上げた例が示されており、価格が固定ではなく“運用で変える”前提であることも読み取れます。
更新ルール(年次レビュー+例外改定)
環境省資料のCDP設問例では、毎年、市場の炭素価格(ベンチマーク等)を参照して検討し、突発的な企業活動が発生した場合は都度見直す、という更新ルールの例が示されています。
同様に、投資評価基準にICPを導入した企業の開示例では、取り組み強化に合わせて価格を引き上げています(3,700円→10,000円)。
運用設計としては「価格そのもの」より、見直しトリガー(年次・外部価格急変・目標改定・重大投資案件)を稟議規程に書くことが重要です。
稟議フロー(経営会議に耐える最小構成)
環境省ガイドは、投資判断・予算管理・データ管理を含む運用を複数パターンで整理し、本社(サステナ推進/経営企画等)がルール・制度設計・全体統括を担う形を提示しています。
稟議に入れる“計算の核”はシンプルで、炭素価値=(差分排出量)×(ICP価格)です。CO₂削減価値を「みなし利益」として投資利回りに上乗せする方法が例示されています。
データ算定手順(“最低限これだけ”を固定化する)
環境省ガイドが示す入口は、Scope別の排出状況を整理し、大きい領域を特定することです。
物流・倉庫向けの算定手順は、次の順で標準化すると比較が可能になります。
まず、ベースライン(現状設備・現状運用)の電力/燃料使用量を確定し、次に案件案(更新後設備・運用)の使用量を見積もり、差分を排出係数でt-CO₂に換算します。最後に、差分t-CO₂×ICPを財務モデルへ反映します。
価格を「自社の削減施策の総コストと累積削減量から算出する」発想(限界削減費用の整理)も提示されており、価格根拠の説明に使えます。