物流・倉庫・荷主の脱炭素は「現場の努力」だけでは伸びません。なぜなら、排出を決めているのは日々の運用以前に、倉庫建屋・空調冷凍・マテハン・車両更新・エネルギー調達といった“投資と契約”だからです。企業が社内で炭素価格を設定し、投資や戦略基準に組み込む仕組みがICPであり、投資判断を動かすための経営ツールとして位置付けられています。
開示の観点でも、内部炭素価格を使ってGHG排出量を財務と関連付けることが「有用な考え方」として示されています。
導入レンジは“物流施設・倉庫投資で使う”前提なら、4,000〜20,000円/t-CO₂を軸に設計すると運用が破綻しにくい(短命の省エネ更新に4,000円、長寿命資産の投資判断に20,000円を併置する一次情報の例がある)。
本稿は、ICPを「設備投資評価」と「調達・契約・Scope3管理」を一本の稟議ロジックにし、CLO/物流統括管理者が経営会議で説明できる形に落とすことを狙いとする(既存の“ICP入門”と切り口を分け、実装に寄せる)。
ICPの導入目的
ICP(社内炭素価格)を設備投資評価に組み込む最大の狙いは、脱炭素を「努力目標」から「投資採否のルール」に変えることだ。物流・倉庫では電力・燃料がコストの中心で、倉庫建屋・空調冷凍・マテハン・車両更新など一度の投資が排出量を長期に固定する。CDP回答でもICP導入企業が一定数確認され、金融庁の開示例ではICPでGHGを財務と関連付ける考え方が示される。現場の投資判断と開示・IRを同じロジックで接続するのが最終目標である。
物流・倉庫・荷主でICPが効く領域
投資評価(CAPEX)
ICPは「企業内の投資・戦略基準に炭素価格を含めて事業判断する仕組み」とされ、投資採否に直接つながるのが強みです。
倉庫・物流の投資論点は、空調・冷凍冷蔵・照明、太陽光/PPA、BEMS、断熱、マテハン自動化、フォークリフトや構内車両更新、拠点集約など“寿命が長い資産”に集中します。ここにICPを加えると、単純な回収年数では落ちる案件が「炭素価値(削減量×ICP)」で採択側に寄りやすくなります(CO₂削減量×ICPを“みなし利益”として上乗せする一次情報の例)。
調達(サプライヤー・3PL・キャリア選定)
CDPの日本版レポートは、Scope1/2/3の内訳ではScope3が大きい企業が多く、特に調達(カテゴリ1)がScope3で影響の大きいカテゴリーの一つで、削減にはサプライヤーとのエンゲージメントが重要だと述べています。
荷主にとっての物流は、まさに「調達した輸送・保管サービス」に近い性格を持つため、ICPを“キャリア選定の評価軸(価格×排出量)”に入れると、購買/調達の意思決定に脱炭素を接続できます(目的に「サプライヤーとの協働」が含まれる例)。
契約(運賃・SLA・共同化の判断)
契約は物流の排出を固定化します。運賃だけでなく、納品頻度・リードタイム・積載条件・荷役条件が排出(=走行回数・待機・空車)に効くため、ICPを入れるべきは「輸送そのもの」より、契約条件を決める稟議です。これは、サステナビリティ情報と財務情報のつながりを意識した開示が重要であり、ICPでGHGを財務と関連付けることが考えられる、という開示例の方向性とも整合します。
Scope3管理(境界の拡張)
実務の順番は、まずScope1/2(拠点燃料・電力)を押さえ、次に必要な場合にScope3(原材料調達、R&D、M&A等を含む)を適用範囲に入れるか検討する、という整理が提示されています。
物流では、荷主側がScope3(輸送・保管の委託)を避けて通りにくい一方、データ未整備で拡張すると破綻します。したがって「範囲は段階的に広げる」こと自体が、ICP導入の重要な目的になります。