1. 初動72時間と代替輸送(空路等)の運用事例・課題
- 発災直後の対応:2024年1月1日16時10分の本震発生直後から、政府・業界連携で被災地向け物資支援を開始した。発災翌日の1月2日には、パン36,000個が石川県産業展示館(能登地域の広域物流拠点)に到着し、同日中に穴水町などへ搬送された。1月3日10時40分には、悪路のため石川県産業展示館から陸路で運べない地域へ、陸上自衛隊ヘリが飲料水3,600本・パン2,640個を珠洲市野々江地区に空輸した(11:20着)。このように、道路寸断下でも陸・海・空のあらゆる手段を活用して迅速な輸送が図られた。
- 道路阻害と代替ルート:発災直後は能登地域の道路が土砂崩れや津波で寸断・渋滞し、物流が著しく遅延した。1月7日からは災害救助車両等以外の通行規制や「一般車両自粛」広報を実施し交通を整理した。道路進入困難な孤立集落や悪路対策として、自衛隊・海上保安庁のヘリや船舶を投入した。例えば国土交通省北九州港所属の作業船「海翔丸」が1月3日に出港・5日に七尾港着で輪島市内避難所へ飲料水・食料を輸送した。海上保安庁も1月2日からヘリ・巡視船で輪島・七尾・珠洲に携帯トイレ・食料・飲料水等を供給し、海上から自衛隊給水車への給水支援も行った。また民間RORO船「フェリー粟国」等で灯油・発電機なども輸送され、民間フェリーで緊急車両の輸送も実施された。さらに、ドローンを試験的に孤立集落への物資輸送に活用する事例もあった。
- 輸送容量と環境依存:航空輸送では一度に搬送できる量がトラックに比べ少なく、気象条件に左右される弱点が指摘された。たとえば悪天候でヘリ飛行ができない日もあり、空路輸送にはバックアップ手段(船舶や地上)も必要だった。
- 現場での混乱と改善点:発災初期には、到着物資が夜間に避難所へ届いたため受付担当が混乱する事例があった。また、搬入された物資の多くがパレット積みでなく、人力で荷下ろししたため現場が混乱した。フォークリフトや操作要員の不足も明らかとなり、当初は荷揚げ・荷下ろしに支障が出た。こうした経験から、物資拠点では事前にフォークリフト等の資機材を確保し、物流専門業者への委託発注体制を整備する必要性が浮き彫りとなった。実際、物流事業者の支援で倉庫内の入出庫動線が整理され、フォークリフトを使った荷捌きが円滑化した事例もあった。
2. 行政・業界団体による支援スキームの設計・実行状況・実績
- 国(内閣府・国交省等)の支援体制:政府は発災当日の1月1日から各省庁・業界団体と連携し、被災者生活に必要不可欠な物資の調達体制を整備した。1月2日以降は全国から食料・飲料水・毛布などが集中的に調達・輸送され、最終的に食料350万食、飲料水170万本等のプッシュ型支援物資が配布された。このプッシュ支援では被災地方公共団体の要請を待たずに必要物資を確保し、民間物資供給業者や自衛隊の輸送力を活用した。運送事業者が輸送手段を確保できない場合には全日本トラック協会(全ト協)に協力要請し、トラック手配を行った。1月中旬以降は石川県産業展示館から市町への輸送を自衛隊から民間へ順次移管し(2月9日~)、3月23日にプッシュ型支援を終了。以降は被災地ニーズに応じたプル型支援(自治体主体による調達・配送)に移行した。
- 石川県の準備と運用:石川県は地震被災想定に基づき、県内12か所の備蓄拠点(アルファ化米・飲料・毛布など)や事前訓練による物流体制を整えていた。県と石川トラック協会・小売事業者等は災害協定を締結し、被災時の物資輸送・調達を共同で実施できる体制を構築していた。実際、1月2日から自衛隊と県トラ協の連携で物資輸送を開始し、協定に基づき食料や日用品の調達を進めた。また、小松空港や能登の産業展示館など複数の施設を緊急物資受入・集積拠点候補に選定し、石川県産業展示館を広域物流拠点として1月2日から稼働させた。さらに、内閣府の「物資調達・輸送支援システム」を活用し、被災地のニーズ把握と物資調整を行う計画だったが、発災当初は担当職員の不在等で運用開始が1月11日まで遅れた。
- 業界団体・支援スキーム:国土交通省は1月5日付で、被災事業者の営業所が損壊しても他地域から車両を派遣できる特例を通達し(被災地域での臨時活動拠点配置を事前承認)、輸送人員不足に対応した。また、一般貨物自動車運送事業者には運転者の144時間ルール適用猶予などを拡大し、被災地での継続輸送を支援した。全ト協は石川県トラ協と連携し、1月5日発表の措置(臨時拠点特例)等を会員に周知。さらに、支援活動の課題整理・記録化にも着手し、能登地震の緊急支援物資輸送をまとめたレポートを公表している。これら官民連携により、災害時の物流確保体制が運用された実績がある。
3. 民間物流企業・地域との連携によるBCP・災害対応事例
- 物資拠点での協働作業:被災地物流では民間企業同士の機材・ノウハウ共有が功を奏した。広域物資拠点(産業展示館)では、民間企業からフォークリフトやロールボックス、ハンドリフト等を借用し、効率的な荷捌きを実現した事例がある。物流事業者のアドバイスにより倉庫内の整理・動線が整い、在庫管理や資材搬送が省力化できたという。こうした取組は企業間共助の好例であり、平時からの協定締結や訓練が有効であることを示している。
- 物流施設と自治体の防災協定:大手物流施設運営者も地域と連携している。たとえば大和ハウス工業の「DPL(マルチテナント型物流施設)」では、全国18自治体と防災協定を締結。災害時には施設内を避難所や物資集積拠点として開放し、支援物資の一時保管や駐車場を提供することを想定している。このように物流拠点が自治体と連携し拠点機能を外部提供するモデルは、被災地の迅速な支援に寄与するものとして注目されている。
- 企業間のネットワーク共有・記録化:全ト協と石川県トラ協は共同で能登地震の物資輸送活動記録を作成し、学んだ教訓を後世に残した。また、サプライチェーン全体での協力枠組み構築も進んでおり、九州では企業ワークショップを通じて「災害時相互協力合意書」や緊急連絡網を策定する事例がある。物流業界内でも平時の情報共有・合同訓練の重要性が高まっており、災害発生時に備えた横断的な支援体制づくりが各地で検討されている。
- 事業継続計画(BCP)の実践例:能登地震では、事前にBCPや防災マニュアルを策定していた企業の対応が奏功したケースが多い。たとえば企業内で災害対策訓練や安否確認訓練を定期実施していた事例では、地震発生時に迅速な初動対応が可能だったとの報告がある。災害時には行政・企業間の連携も不可欠であり、物流業界でも地域の行政・事業者・避難所等と連携した事業継続対策が引き続き求められている。
以上の事例・課題整理から、物流企業は発災前の拠点準備・資機材・訓練・協定を充実させ、被災後は行政・業界と協働して迅速に体制を立ち上げることが重要である。特に能登半島のような道路寸断リスクの高い地域では、多様な輸送手段(陸・海・空)の事前検討や、拠点間物流ネットワークの整備が実践的な教訓となっている。
**出典:**内閣府・石川県・国交省・全ト協資料ほか各種報道。