―「BCPがある会社」と「BCPが機能する会社」の決定的な違い―
南海トラフ巨大地震は、
「起きるかどうか」ではなく、「いつ起きてもおかしくない前提条件」として語られる時代に入りました。
しかし、物流の現場や経営の現実を見ると、
BCP(事業継続計画)は「ある」ものの、
本当に機能するかどうかについては、
多くの企業が正面から向き合えていないのが実情です。
南海トラフ地震は「普通の災害」ではない
南海トラフ地震の本質は、規模の大きさだけではありません。
- 東海・近畿・四国・九州という日本の物流中枢が同時に被災
- 東名・名神・新幹線・主要港湾の長期停止
- 燃料供給・人員確保の同時困難
- 復旧まで数週間〜数か月を要する可能性
つまり南海トラフ地震は、「一部が止まる災害」ではなく「前提が崩れる災害」なのです。
なぜ多くのBCPは機能しないのか
BCPが機能しない最大の理由は、
設備やマニュアルの不足ではありません。
それは、
「何を最優先で守るか」
「何を諦めるか」
が決まっていないこと
にあります。
災害時、すべてを守ることは不可能です。
にもかかわらず、多くのBCPは
「全部を守る前提」で書かれています。
その結果、実際の災害時には
- 判断が遅れる
- 現場が迷う
- 責任の所在が不明確になる
という事態が起こります。
物流BCPの核心は「判断の事前化」
南海トラフ地震における物流BCPで最も重要なのは、判断を事前に終わらせておくことです。
たとえば、
- 何を最優先で運ぶのか
- どの顧客を優先するのか
- どのルートは使わないと判断するのか
- どの段階で通常業務を諦めるのか
これらは、災害時に考えることではありません。
平時に、経営として決めておくべきことです。
BCPとは「計画」ではなく、経営判断の集合体なのです。
南海トラフを前提にした物流設計の視点
南海トラフ地震を前提にすると、従来の物流設計は根本から問い直されます。
① 拠点は集中していないか
太平洋側に拠点や在庫が集中していないか。
日本海側・内陸拠点に即時切替できるか。
② 輸送手段は単一ではないか
トラック前提になっていないか。
フェリー・内航海運・鉄道貨物を「非常時の主役」として使えるか。
③ 在庫は「コスト」だけで見ていないか
在庫は平時にはコストでも、災害時には事業と信用を守る資産になります。
BCPは「現場任せ」にしてはいけない
災害対応は現場が頑張るもの、という考え方は危険です。
なぜなら、
- 拠点配置
- 在庫方針
- 投資判断
- 人員体制
これらはすべて、平時の経営判断の結果だからです。
災害時に現場が困るのは、平時に経営が決めてこなかったから、というケースが少なくありません。
南海トラフBCPが企業に突きつける問い
南海トラフ地震は、企業に次の問いを突きつけます。
あなたの会社は、何のために物流を続けるのか。
利益か、社会責任か、顧客か、従業員か。
この問いに答えられない企業のBCPは、形だけのものになりがちです。
物流は「社会を止めない仕事」である
物流は、目立たないが、止まれば社会が止まります。
だからこそ、
- 災害時にどう動くか
- 何を守り、何を諦めるか
を決めることは、経営哲学そのものです。
南海トラフ地震は、
物流企業に
「判断軸を持っているか」
を問いかけています。
おわりに
BCPは、「作って終わり」の書類ではありません。
それは、
災害時に迷わないための
経営の覚悟を言語化したもの
です。
南海トラフ地震を、
「恐れる対象」で終わらせるのか、
「経営を鍛える問い」に変えられるか。
その差が、災害後の企業の姿を大きく分けることになるでしょう。