① 設置状況
- 欧米では「Chief Logistics Officer(CLO)」という役職名そのものはまだ少数派であり、「Chief Supply Chain Officer(CSCO)」や「Chief Operating Officer(COO)」 が物流機能を統括しているケースが一般的です。
- 特に米国では、サプライチェーン全体を戦略的に管理するため、物流を含めた包括的な「CSCO」職の設置が主流。
- 一方、欧州では、物流業の比率が高く(世界市場の約19%を占有)、物流・サプライチェーン領域の専門経営職の必要性が高まり、CLO職を設置する企業も徐々に増加。
- CLO職を明確に設けている企業では、グローバル物流ネットワークやサステナビリティ対応を経営中枢に位置づける傾向があります。
② 役割
CLOは、単なる「物流部門長」ではなく、経営戦略とオペレーションを結ぶ橋渡し役として以下の役割を担います。
● 戦略面
- 全社的な物流戦略(輸送・保管・配送・返品・設備活用)を策定し、企業戦略に連動させる。
- サプライチェーン最適化を通じて、コスト競争力・納期信頼性・ESG目標の達成を同時に追求。
- 為替変動、地政学リスク、貿易政策など外部環境リスクを踏まえた長期戦略を立案。
● 業務面(オペレーション)
- 倉庫・輸送ネットワーク・3PL(外部物流業者)を統括し、効率性と品質を両立。
- DX(デジタル変革)・自動化・データ分析など物流テクノロジーの導入推進。
- サービスレベル(納期・可視性・柔軟性)を維持しつつ、コスト最適化を図る。
● 経営横断的役割
- CEO、COO、CSCO、CFO、CSOなど他のCxOと連携し、物流を企業全体の意思決定に組み込む。
- ESG・サステナビリティ部門と連携し、Scope3排出削減・リバースロジスティクス・循環型物流を推進。
- 物流KPI(コスト、納期遵守率、在庫回転率、CO₂排出量など)を設定・モニタリングし、改善サイクルを回す。
③ 主な課題
欧米企業のCLOが直面する課題は、以下の7つに整理されます。
- 地政学リスクとサプライチェーン分断
- 米中摩擦、関税、港湾混雑、ドライバー不足、労働コスト上昇などにより、安定的な物流確保が難化。
- リスク分散(near-shoring、多拠点化)をどう進めるかが大きなテーマ。
- 顧客要求の高度化
- 「速く・正確に・環境に優しく」配送することが当然視され、コストと品質の両立が課題。
- デジタル化・可視化
- リアルタイムトラッキング、AIによる需要予測、ロボット物流などの導入が進む一方、レガシーシステムとの統合が障害に。
- サステナビリティ・脱炭素対応
- 物流由来のCO₂排出(Scope3)が多く、脱炭素経営の中核領域。
- EVトラック・SAF(持続可能航空燃料)・モーダルシフトなどの導入コスト負担。
- 組織間の連携・ガバナンス
- 物流は購買・製造・販売など複数部門にまたがるため、全社最適化とローカル最適化の衝突が発生。
- CLO職が経営層に直結していない場合、意思決定に反映されにくい。
- データと人材の不足
- グローバル拠点間でのデータ整備・統一が進まない。
- デジタル物流を推進できる人材(アナリスト・エンジニア・SCM専門家)の確保が課題。
- コスト圧力
- 燃料費や人件費が上昇する中で、サービス水準維持を求められる。
- 外部委託(3PL)の活用拡大により、統制力とコスト管理の両立が難しい。
④ 欧米企業からの示唆
- CLO職の設置は、物流を「コストセンター」から「価値創造の源泉」へ転換する象徴。
- 脱炭素・レジリエンス・デジタル化を同時に求められる現在、物流を統括するCxOレベルの存在は不可欠。
- ESG経営との統合が進む中、CLOはサステナビリティ戦略とオペレーション戦略の結節点としての役割を担う。
- 日本企業が参考にすべきは、「物流を経営戦略の中枢に置く発想」と「CLOが他のCxOと並ぶ地位を持つ組織構造」である。