1. 背景:財務から「非財務」への統合へ

2010年代後半から、企業価値を左右する要因が気候変動・人権・ガバナンス・サプライチェーン透明性などの非財務要素に拡大。

投資家・金融機関・消費者が「財務情報だけでは企業のリスクを把握できない」と認識。

2020年代以降、各国で法的義務化(mandatory disclosure)へ移行。


2. 世界の主要規制フレームワーク(2025年時点)

地域/機関 名称・制度 主な特徴 対象企業

🇪🇺 EU CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive) ・2024年度以降、約5万社が対象
ESRS(欧州サステナビリティ報告基準)に沿って開示義務
・Scope3排出量、人権、バリューチェーン含む EU上場企業+EU内売上超4000万€超の外国企業
🌎 ISSB(国際サステナビリティ基準審議会) IFRS S1(全般)・S2(気候) ・IFRS財務基準と統合性あり
・世界共通の「投資家向け開示基準」
・2025年度以降採用拡大 各国が国内基準として採用(日本・英国・カナダ等)
🇯🇵 日本 サステナビリティ開示基準(ISSB準拠)2026年度適用予定
+有価証券報告書でのESG記載義務化 ・金融庁がISSB準拠の日本版S1/S2を策定中
・2026年3月期以降段階的義務化
・気候関連財務情報(TCFD)を統合 上場企業(特にプライム市場)
🇺🇸 米国SEC 気候情報開示ルール(Climate Disclosure Rule) ・Scope1・2排出量の開示義務(Scope3は条件付き)
・TCFDベース、監査証拠要件あり 上場企業(2026年以降段階導入)
🇬🇧 英国 SDR(Sustainability Disclosure Requirements) ・ISSB準拠+グリーンウォッシュ防止規定
・金融商品・運用業者へのESG透明性義務 上場企業+金融機関
🇫🇷🇩🇪 欧州各国法 Due Diligence法(企業人権デューデリ) ・バリューチェーン全体の人権・環境リスク監視義務
・罰則・損害賠償規定あり 大企業+一定の中堅企業
その他アジア 韓国・台湾・シンガポール:TCFD準拠開示を義務化 2025年前後から段階的義務化中 上場企業


️ 3. グローバル標準の「融合」トレンド

IFRS財団(ISSB) × 欧州ESRS × 米SEC の3大基準が相互参照可能に調整中。

ESG情報は「投資家が理解できる財務言語」へと統合されつつある。

各国当局は「ダブル・マテリアリティ」の採用を検討中:

財務的マテリアリティ(投資家への影響)

インパクト・マテリアリティ(企業が社会・環境に与える影響)


4. 企業への影響

監査対応コストの上昇 非財務情報も「保証付き」開示が求められる(財務監査と同格へ)
サプライチェーン開示負担 Scope3や人権リスクなど、下請け・仕入先まで情報要求が拡大
データ統合の重要性 ESGデータ管理が経理・IR・調達・環境部門を横断的に統合する必要
企業価値評価の変化 サステナビリティKPI(CO₂、廃棄物、離職率、ダイバーシティ等)が企業価値の重要指標化


5. 今後の方向性(2025〜2030)

① 義務化の範囲拡大 Scope3、人権、自然資本、AI倫理など新テーマへ拡大
② デジタル開示(XBRL)標準化 ISSB・EU間でタグ統一 → AI監査・自動分析が進展
③ 保証レベルの強化 監査法人による限定保証→合理的保証へ引き上げ
④ 投資家圧力の増大 ESG格付け・グリーンファイナンス投資枠が非開示企業を排除
⑤ “グリーンウォッシュ罰則化” EU・英国・日本(消費者庁)で虚偽ESG表現への制裁が制度化へ


6. 日本企業の対応ポイント

  1. ISSB・CSRD両対応を前提とした報告体制
    → 財務・非財務データを統合する「サステナビリティ経営管理会計」へ移行。
  2. バリューチェーン全体でのデータ可視化
    → サプライヤー含むCO₂・人権情報の収集。
  3. 統合報告書の実質化
    → ストーリー性(Purpose/戦略)+定量データ(KPI・KGI)を両立。
  4. 保証監査への備え
    → 外部保証コスト・内部統制プロセスの再設計。

まとめ:非財務情報開示は「経営そのもの」へ

非財務情報開示=企業の持続可能性そのものの“見える化”
2025年以降、ESGはIRや広報ではなく「経営・会計の本流」として扱われる時代へ。