『リベラリズムへの反発』フランシス・フクヤマ

リベラリズムには内在する本質的な欠陥もあった。多くの教義やイデオロギーは、啓発的であり真実でもある洞察を核として始まるが、そうした洞察が極端に進められると失敗する。教義が、いわば教条化してしまうのである。

リベラリズムの基本的考え方の1つは個人の自立性の尊重と保護である。しかし、この基本的な価値観に行きすぎも見られる。右派の場合、自立性とは主に、国家に干渉されずに自由に売買うる権利を意味した。この概念を極端に推し進めた経済的自由主義は、20世紀後半に「ネオリベラリズム(新自由主義)」へと変貌し、醜悪なまでの不平等を招いた。

左派では、自立とはライフスタイルの選択や価値観に関する個人の自律であり、周辺社会が課す社会規範に対する抵抗を意味した。この道を突き進んだリベラリズムは、現在のアイデンティティ政治へと発展し、寛容というリベラリズム自体の前提を損ないだした。

このような極端な形態のリベラリズムが反発を生み、今日のリベラリズムを脅かす右翼ポピュリスト運動や左翼の進歩派運動を生む源となっている。