経営者における認知的不調和(cognitive dissonance)は、矛盾する信念や行動を同時に抱くことにより、心理的な葛藤が生じ、誤った意思決定や説明の歪みを引き起こすことがあります。


1. 認知的不調和とは?

  • 定義:自分の信念・態度と矛盾する情報や行動が同時に存在するときに生じる不快な心理状態。
  • :赤字続きの事業を「いつか黒字になる」と信じて撤退しない。

経営者における典型的な事例と対処法

事例 不調和の内容 よくある反応 適切な対処法
① 赤字事業の継続 「撤退すべき」vs「自分の判断は正しい」 「ここまで投資したからやめられない(サンクコストの誤謬)」 外部評価を受ける、第三者のデータで再評価
② 不人気な改革の推進 「現場は納得していない」vs「改革は必要」 社内批判を「抵抗勢力」とみなす 対話の場を設け、意思決定理由を透明化
③ 自分の価値観と企業行動の乖離 「環境配慮が重要」vs「収益優先の投資判断」 矛盾を正当化して放置 ESG評価や第三者意見でバランス修正
④ 組織文化の問題軽視 「従業員はやる気があるはず」vs「離職率の増加」 統計やアンケート結果を否認 データに基づいた文化改善・エンゲージメント強化

認知的不調和への主な対処法

1. 第三者視点を導入する

  • コンサルタント、社外取締役、AI分析などを用いて、自分の意思決定を客観的に見直す。

2. 事実と感情を切り分ける

  • 「撤退は失敗ではない」「感情ではなく収益性」で評価するよう、指標を整備。

3. 心理的安全性の高い組織をつくる

  • 幹部や現場から異論が出ても歓迎する文化をつくる。

4. 意思決定のトレースを残す

  • なぜその判断をしたか、過程を可視化・記録。将来の反省材料や再判断にもつながる。

実在の企業事例(参考)

  • ノキア:スマートフォン転換期に「これまでの成功モデルは機能しない」と認めきれず対応が遅れた。
  • テスラ(イーロン・マスク):自己決定の正当化が極端になり、株主・従業員との溝が生まれる場面があったが、外部取締役の介入やX(旧Twitter)での透明化などで修正。
  • 東芝(粉飾会計問題):トップの判断が内部で疑問視されても声が上げられず、認知の偏りが結果として大きな損失に。

まとめ

認知的不調和は、リーダーとしての意思決定に不可避な現象です。大切なのはそれを「排除する」ことではなく、可視化し、他者の視点と仕組みで乗り越える体制を整えることです。