2011年7月号HRB「ニアミス:隠れた災いの種」マーク・F・チャインスキー
ニアミスは事故の「前兆」
「ニアミスは事故が起こらなかったことではなく、事故が起きかけた証拠である」と定義します。
成功や無事に終わった事象の裏には、「実は紙一重だった失敗」が多く潜んでおり、そこに目を向けない組織には再び同じ失敗が訪れると警告しています。
1. 逸脱の標準化
- 小さなミスやルール違反が常態化していくことで、組織やチームが「これは問題ない」と誤って認識。
- 例:NASAのチャレンジャー号事故では、過去の異常が繰り返される中で「これくらいは許容範囲」と誤認されていた。
2. 結果バイアス
- 成功した結果が出ると、その過程であった異常や失敗の兆候が見過ごされる。
- 「何も起きなかった」ことに安心し、再発防止策が講じられない。
3.ニアミスに学ぶための「7つの方針(ルール)」
方針 | 解説 | 実践例 |
---|---|---|
1. プレッシャーに注意する | 緊張・焦りの中ではミスを見逃しやすい。余裕を持った判断が重要。 | 納期前のチェックリスト強化など |
2. 逸脱から学ぶ | 「大事に至らなかった」からと油断せず、原因を記録・共有。 | ヒヤリハット報告制度 |
3. 根本原因に迫る | 表面的事象の奥にある真因(管理不足・設計不備など)を特定。 | なぜなぜ分析 |
4. 結果に責任を持つ | 成果主義だけに偏らず、プロセスの適切さも評価する文化へ。 | プロセス評価と報奨 |
5. 最悪シナリオを考える | 何が起きたら致命的かを先回りして考え、計画を柔軟に備える。 | リスクアセスメントの定期実施 |
6. 段階的な評価を入れる | 計画の節目ごとにリスクを点検・再評価する仕組みを導入。 | プロジェクトゲート制 |
7. 失敗を認めた人を評価する | ミス報告者を処罰せず、改善行動を評価する心理的安全性を確保。 | 報告件数をKPI化し称賛する |
4.教訓と組織マネジメントへの応用
- ニアミスは「未然に学べる事故の教科書」であり、これを真剣に扱う組織ほど安全性・持続性が高まる。
- トップダウンの指示だけでなく、現場の気づきを価値あるインテリジェンスとして活用することが大切。
- 危機管理や品質保証、災害支援物流など「現場判断×即応」が求められる分野では極めて有効。
「うまくいったこと」に隠されたリスクと、「事故にならなかったこと」にこそ向き合うべきである、という極めて実践的かつ組織的リスクマネジメントの本質を突いています。
災害支援、医療、航空、製造、物流といった領域において、“ニアミスを学ぶ組織”が“危機を回避する組織”になるという構造的理解を促します。