『経営の精神』加護野忠男

企業の目的は利潤の最大化であるという前提は、全くの間違いとは言えないが、限りなく間違いに近いと私は考えている。

間違いだと考えざるを得ない理由はいくつかある。

第一は、現実に合わないという経験的な理由であり、第二はそのような目的を掲げると損をするという実利的な理由の二つである。

経営者の中には利益がもっとも大切な目的だと考えている人もいるが、利益よりも大切な目的があると考えている経営者もけっこう多いという現実がある。

不思議なことに利益が目的ではないと言っている経営者ほど、多くの利益を上げている。

松下幸之助は、産業を通じた社会への貢献が企業の目的だと言っておられる。

利益が目的ではないと言い続けているこれらの経営者は、長期の成果を見ると、なみの経営者より大きな利益を上げている。

企業の目的として所有者の利益の最大化ではなく、労働者が共感できる目的を設定すれば、労働者の貢献意欲が高まり、労働の価値は高まる。その結果、多くの利益が得られるのだ。

第二は、企業の目的は利益だと言ってしまうと、多様な利害関係者の支持を得ることが難しいという理由である。

これらの理由から、企業の目的は利潤の最大化だという考え方は、現実的にも、実利的にも誤りであることが理解できるであろう。