『経営の精神』加護野忠男
資本と労働とはそれぞれ異なった性質を持っている。資本と比べた労働に固有の性質は、価値の可変性にある。
しかし、労働はそうではない。同じ賃金を払って手に入れた労働でも、働く人の意欲によって、また協働のさせ方によって労働がもたらす価値は大きく異なる。その意欲を高めるのが経営の重要な課題である。この課題にこたえるための方法について学問的な答えを与えようとして成立したのが経営学である。
人の努力をお金で買おうとする成果主義の試みは常に繰り返し実行に移された。そのつど、期待は裏切られてきた。人の意欲はお金では買えないのだということを、アメリカでも日本でも、また欧州や中国でも経営者は何度も思い知らされてきた。それでもお金に頼ってしまう経営者があまりにも多い。なぜそうなるのか、経営学の未解決の謎の一つである。