企業の非財務情報開示の歴史は、企業が財務情報だけでなく、環境や社会、ガバナンス(ESG)など、事業活動の持続可能性や社会的影響についても透明性を持って報告する動きの進展とともに発展してきました。以下にその主な歴史的な流れを解説します。
1. 1970年代:環境・社会的報告の萌芽
1970年代は、企業が環境や社会への影響について意識し始めた時期です。この背景には、以下の要素が影響しています。
環境運動の台頭: 1960年代末から1970年代にかけて、環境問題が注目されるようになり、1972年のストックホルム国連人間環境会議などを契機に、企業も環境への配慮を求められるようになりました。
最初の環境報告書: 一部の企業が、環境負荷や社会的影響に関する初期の報告書を発行し始めましたが、まだ限られた企業のみが取り組んでいました。
2. 1980年代:初期のCSR(企業の社会的責任)報告
1980年代に入ると、企業が環境保護や社会貢献に関する報告を行う動きが徐々に広がり始めました。
企業の社会的責任(CSR)の認識拡大: 企業が環境や労働問題、地域社会への貢献などに対する責任を果たすべきという認識が強まり、これを反映した報告が徐々に増加。
環境マネジメントシステムの普及: 1987年に国際標準化機構(ISO)がISO 9000の品質管理システムを発表し、1990年代には環境マネジメントシステム(ISO 14001)も登場することで、企業の環境責任が強調されました。
3. 1990年代:サステナビリティ報告書の登場
1990年代は、企業による非財務情報開示が一層進化し、「サステナビリティ報告書」として広がりを見せた時期です。
GRI(Global Reporting Initiative)の設立: 1997年に設立されたGRIは、サステナビリティ報告のための国際的なガイドラインを開発し、企業に対し透明で標準化された方法で環境・社会情報を報告することを促進しました。GRIガイドラインは現在でも最も広く使用されているサステナビリティ報告フレームワークです。
初のサステナビリティ報告書の発行: 多くの大企業が、サステナビリティ報告書を発行し始め、環境のみならず社会的責任も含めた情報を提供する動きが広がりました。
4. 2000年代:ESG情報の重要性の高まり
2000年代に入ると、環境(Environmental)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を中心としたESG情報が企業価値の重要な指標として注目を集めるようになりました。
PRI(責任投資原則)の登場: 2006年に国連が主導して策定した「責任投資原則(PRI)」により、投資家がESG要因を投資判断に組み込むことが推奨されました。これにより、企業がESG情報を開示することの重要性が増しました。
GRIガイドラインの拡張: GRIガイドラインは進化を続け、企業がより詳細なESG情報を報告できるように拡張されました。また、CSR報告からESG報告へとシフトし、社会的な責任に加えてガバナンスも報告の重要な要素となりました。
5. 2010年代:統合報告とサステナビリティ基準の普及
2010年代には、財務情報と非財務情報を統合した「統合報告」や、さらに詳細なESG基準が整備され、企業の非財務情報開示が本格化しました。
統合報告書の普及: 2010年に国際統合報告委員会(IIRC)が設立され、財務情報と非財務情報を統合した「統合報告書」の作成を推進。企業の長期的な価値創造の視点から、両者を一体的に開示する動きが加速しました。
SASB(サステナビリティ会計基準委員会)の基準: 2011年に設立されたSASBは、特定の業界におけるサステナビリティ情報の報告基準を設定し、企業が重要なESGリスクや機会を明確に報告できるようにしました。
ESG投資の拡大: ESG要因を重視した投資(ESG投資)が急速に拡大し、企業に対するESG情報の開示要求が強まっていきました。
6. 2020年代以降:義務化と透明性の強化
2020年代に入ると、企業の非財務情報開示は、ますます義務化されつつあり、透明性や標準化が強調されるようになっています。
欧州連合(EU)の取り組み: EUは「非財務情報開示指令(NFRD)」を通じて、大企業に対し環境や社会に関する非財務情報の開示を義務付けてきましたが、2021年にはこれを強化する「サステナビリティ報告基準(CSRD)」を発表し、より詳細な非財務情報開示を求めています。
TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の普及: TCFDは企業に対し、気候変動リスクを財務報告に含めることを求め、これをもとに多くの企業が気候リスク情報を開示するようになっています。
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