柳井正さんは『プロフェッショナルマネジャー』について次のように述べています。非常に示唆に富むコメントです。参考にしたいと思います。

優れた経営者は、発想法が似ているのだろう。僕は同じことをイトーヨーカ堂の名誉会長の伊藤雅俊氏から「前始末」という言葉で学んだ。失敗の予兆を早期に察知して、対処する。経営の基本だ。早期に察知できれば、失敗した事業の後始末よりも前始末の方が圧倒的に効率が良い。それに要する時間や経費は、恐らく一〇分の一程度に減るだろう。 そうした失敗の前兆をはっきりと指摘し続けること、指摘できることが、「ノー・サプライズ経営」のあるべき姿だ。 

ノー・サプライズ経営のための必須要件として、ジェニーン氏は「プロフェッショナル・マネジメントという最高の芸術は、本当の事実をそれ以外のものから嗅ぎ分ける能力と、さらには現在自分の手もとにあるものが、揺るがすことができない事実であることを確認するひたむきさと、知的好奇心と、根性と、必要な場合には無作法さもそなえていることを要求する」と指摘した。


売上高が1,000億円を超えたときに、店舗運営思想を逆転し、商売という場面では、店舗が主役で本部はサポート役というあり方に変えた。店長は本部スタッフに昇格するための登竜門ではなく、会社の主役であり、店長でいることが最終目標でありうるように、報酬体系も変えた。「自立と自律」を達成し、店長の仕事を全うすれば、本部にいるよりも高収入が得られるスーパースター店長制度を導入した。スーパースター店長は、理論上、3,000万円を超える年収も可能になる。もちろん、人間はお金のためにだけ働くわけではない。働くことのやりがいは、正当に評価され、認められることにある。僕は経営者として、店をつくったり、潰したりをゲームのように楽しんだ時期があったことを否定しない。しかし、真の経営はチームワークと正当な人事評価だと今も昔も思っている。

僕は、小売業では、お客さまとの接点の最前線である現場が重要だと考える。店で働く人々の「気づき」がどんどん本部に伝わってこないと、商品の品質向上もできない。店で働く人が、「この商品のここはもっとああしてほしい」「こうしないと売れない」と感じたのであれは、お客さまはもっと強く感じているはずだ。それを直ちに本部に伝えてもらう。そうなるには、商品を売らされるのではなく、自ら商品にコミットし、自分で売る感覚を日常化することが必要だ。 そこで大切な前提は、社長でも社員でもパートでも「対等」であることを、働く人々が現実に実感できることだ。


お互いに努力して一つの目標を実現したいと思えるのは、全員が対等だと信じられるからだ。これがあって初めて、経営や店舗運営におけるリーダーシップが発揮できる。ジェニーン氏は言う。「(リーダーシップは)最高経営者と彼を中心としたトップ・マネジメント・チームの性格の反映として、どんな企業の中にもあって、それぞれの会社の個性をつくり出している。私の考えでは、リーダーシップの質こそ、企業の成
功をもたらす処方に含まれる最も重要な成分である」 僕は、「リーダーシップの質」とは、全員が対等で、現場の人が自分で考え、本当の自分の意見を出し合えるようにすることだと考える。ジェニーン氏は、「私の考えでは、楽しい繁栄の雰囲気をつくるのに最も重要な要素は、経営組織の上下を通じて、開放的で自由で率直なコミュニケーションを定着させることである」とも書いているが、これは人を動かすための大原則である。

一番いい会社とは、「社長の言ってることがその通りに行われない会社」ではないかと僕は思う。社長の言ったことをすべて真に受けて実行していたら、会社は間違いなく潰れる。社長の意見が間違っていることや、もっといいやり方があるかもしれない。社長の言いたいことの本質を理解し、現場では自分なりにその本質を見極め、どう具体化するかを考え、そして実行する。もちろん、実行した結果については報告を求める。 スーパースター店長という仕組みをつくったのも、会社全体をそういう方向に持っていきたいと考えたからだ。


仕事で最も重要なことは、人を動かすことだ。店舗には30人から40人の従業員がいる。従業員を動かしてお客さまのために買っていただける売り場環境にしておくことが第一である。従業員がきびきびとした元気な態度で接客できるようにする。当然、店長は部下よりも断然、気を使わなければならない。 店舗の従業員が活性化すれば、事業は伸びる。店長が、自分の役割を果たし、お客さまと従業員に支持される店になっているかどうかは業績に表れる。業績が上がれば、報酬で報いる。店長個人の人柄や努力も二割は評価するが、基本は成果主義である。僕は、成果以外に給料をもらう理由はないと思う。

数字による管理とは、厳しいノルマを与えることではない。要は、数字に基づく経営である。数字を見るのが早ければ早いほど、そして数字が正確であればあるほど、それだけ早く必要な対策を打てる。そこが肝心だ。「これは最も重要なことなのだが──数字自体は何をなすべきかを教えてはくれない。それは行動へのシグナル、思考への引き金にすぎない。それは水脈のありかを指し示す占い棒に似ている。実際に水を得るためには掘らなくてはならない。企業経営において肝要なのは、そうして数字の背後で起こっていることを突きとめることだ」

ジェニーン氏は、「ITTは同じ規模の会社より急速に、また成功を収めながら成長した。なぜなら、われわれはみずからの数字を知っているおかげで、恐れずに前進できたからである」とも言う。彼の意見に、僕も全面的に賛同する。ユニクロの成長もまた、そうしてもたらされたと思うからだ。

ジェニーン氏は、「数字には個性がある」と言う。「数字には数そのものと同じぐらい重要な個性がある。数字には正確なものとあまり正確でないもの、精密なものとおおよそのもの、詳細なものや平均的なものや漠然としたものがある。数字が持つそうした性質は、通常、その会社の最高経営者と、彼が部下たちから何を期待しているかによって決まる」 数字ほど確実な事実はないと思っている人は多い。だが、数字も人間との関わりの中で独特な変容を遂げるということなのだ。

Originally posted 2021-01-15 23:27:36.