1.物流事業者のBCP策定の状況

国土交通省「荷主・物流企業のBCPの現状について」(2014年)によればBCPの策定状況は回答のあった物流事業者233社のうち、21.5%にあたる50社しか策定していない。荷主は回答のあった75社のうち57.3%の43社が策定している。

物流事業がBCPを策定していない理由としては、図表1の通り、スキル・ノウハウの不足が過半数を占め、情報不足、人材不足が30%を超えている。

図表1 BCP未策定の理由             図表2 物流事業者BCP策定方法

項目 割合(%)
スキル・ノウハウが不足している 54.5
情報が不足している 36.5
人手の確保ができない 30.3
費用の確保ができない 16.3
必要性や効果を感じない 12.9
コス的に見合わない 11.8
その他 20.8
項目 割合(%)
業界団体のガイドラインを参考とした 44.4
国や地方自治体の公表資料を参考とした 33.3
BCP関連の書籍等を参考とした 31.1
取引先の指導を受けた 17.8
ISO等の規格を参考とした 17.8
コンサルティング企業を活用した 6.7
その他 13.3

荷主と物流事業のBCP策定項目には「自社の災害対策本部の役割と組織体制」、「従業員との連絡手段の確保」、「従業員の確保の体制」などさまざまなものがある。

アンケート項目で荷主が物流事業者に策定を求める項目(荷主ニーズ)と物流事業者のBCP策定項目についての比較がある。

 荷主ニーズに対して、物流企事業者が策定したBCP項目のうち差異が10%以上ある項目が図表3である。

その中でも荷主ニーズは高いが物流事業者の対応が遅れている項目としては、「輸送中の車両の位置情報の共有」(差異41.4%)、「道路等の交通インフラの情報収集」(差異26.9%)である。一方、荷主ニーズは低いが物流事業者が対応している項目としては、「ITシステムの対策」(差異37.7%)、「荷役機械等の確保の体制」(差異18.7%)、「ITシステムの標準化」(差異13%)となっている。

荷主はサービス面でのニーズが高いのに対して、物流事業者は施設対策を重視している傾向がわかる。

 倉庫関連のBCP項目について詳細を見ると次のようになる。荷主ニーズは高いが物流事業者が対応できていない項目としては、「手作業による倉庫出荷作業フローの検討」(差異15%)、「倉庫内貨物の荷崩れ防止対策」(差異11.3%)、「貨物が損傷した場合の荷主との取扱方針」(差異10.1%)である。一方、荷主ニーズは低いが物流事業者が対応している項目としては、既に述べた「ITシステムの対策」、「荷役機械等の確保の体制」、「ITシステムの標準化」以外にも、「非常用発電・通信装置の設置」(差異12.2%)がある。

ここでも荷主がサービス面でニーズが高いのに対して、物流事業者は施設対策を重視している。

装置産業の物流事業者、特に倉庫事業者にとっては、自らのアセットが事業継続のためには重要である一方、荷主にとっては物流事業者に預けている自社貨物の状況についての情報が重要なことは容易に理解できる。

 流通経済大学矢野裕児教授は、大規模災害などで事業継続が直面した場合、重要になるのは「見える化」、各種情報の可視化だと指摘する。特に効果が大きい分野は物流ルートの代替などを含む車両関連と在庫水準の変更や分散化などに関わる施策だと指摘する。

 倉庫事業者はこうした荷主ニーズを配慮しながらBCPを策定することが重要である

なお、BCP策定にあたっては、図表2の通り、業界団体のガイドラインを参考とするケースが44.4%と最大で、国や自治体の公表資料を参考とするケースが33.3%となっている。

2.倉庫事業者のBCP策定のポイント

日本倉庫協会「事業継続計画書(BCP)策定のてびき」を参考に、全社的なBCP策定のポイントを説明する。

  • 事業継続の体制整備

事業継続は、組織内の様々な問題を扱うため、原則すべての部署が参画する。有事の時には事業継続活動の核となる「災害対策本部」(図表6)を立ち上げ、初動対応や復旧活動を担うチームを編成する。

 この体制は、平時から編成し、機能毎に復旧に必要と想定される環境整備や資材調達方法等について検討したり、訓練を実施したりして会社の事業継続対応力を維持・向上させることが必要である。

  • BCPの作成

図表5のフローの通り多岐にわたるため、各項目のポイントに絞って説明する。

2.1目的を明確化する

BCPを何のために作成するのか、経営者の意志を反映した内容で記載する。

2.2想定するリスクを決める

考えられるすべてのリスクを対象にすると検討事項が多岐にわたってしまうため、日本企業にとって最も大きな自然災害リスクである地震(震度6強以上)を想定リスクとして取り組みをスタートさせ、順次対応するリスクを増やしてゆく。

2.3基本方針を決める

基本方針は、平時および有事の際に行動の拠り所となる。人命尊重、社会的責任、社会貢献、経営へのインパクトなどの視点から方針を定める。

2.4中核事業の特定をその目標復旧時間を決める

中核事業(最優先で復旧するべき事業)の絞り込み

  災害時には人的にも設備的にも経営資源が不足するため、中核事業の範囲を通常の3割程度の人員や設備

で回せる規模に絞り込むのが望ましいとされている。中核事業の絞り込みにあたって検討する基準には、「

事業収入への貢献度(荷主別事業規模、拠点別・倉庫別事業規模など)」、「施設的な影響度(倉庫面積、倉庫

事業規模、荷主別倉庫利用面積など)」、「社会への影響度」などがある。

  目標復旧時間の設定

    中核事業に対する利害関係者(顧客、協力会社、株主、金融機関など)からの要請や自社財務状況などを勘案して、中核事業をどの程度の時間内に復旧させるのか、目安として目標復旧時間を定める。

2.5平常時の事業継続活動を決める

平時には、有事に備えて事前に行っておくべき対策の検討や訓練・教育などの定着活動などを通じて、

事業継続マネジメントのPDCAサイクルを確立する。

2.5.1事前対策計画(PLAN)

まずは、緊急時の社内及び重要な理解が関係者との連絡体制の確保が重要となる。

(1)緊急時体制の確立

対策本部と対策支部で役割分担しながら災害復旧に取り組むが、連絡は一元化することが重要である。各役割で最低でも第3優先順位まで責任者候補を任命する。衛星電話やMCA無線等、緊急時にも利用可能な連絡手段を用意する。

(2)重要な顧客・主要協力会社の連絡先

重要な顧客や主要な協力会社と直ちに連絡ができるように連絡先一覧を整備する。施設・設備の管理の委託業者についても、リスト化しておく。

(3)事前対策計画の整備

   中核事業の継続や目標復旧時間内の復旧には、投資を含んだ事前対策が必要となるため、中期的な対策

含めて立案し、「事前対策計画」としてまとめる。この計画は継続的に見直すことが必要である。

2.5.2BCP定着と事前対策の実施(DO)

有事の再に従業員がBCPで定めた基準やルールに従って行動できるように、BCPを浸透・定着させる必要があり、教育と訓練が有効である。現実の災害を想定した訓練を繰り返し実施し、緊急時対応の精度を向上させる。

2.5.3訓練を計画する

訓練には机上訓練や実地訓練などがある。自社のレベルに応じて、テーマ、方法、頻度、対象組織などを選定して、訓練を計画して繰り返し実施する。

2.5.4点検と評価(CHECK)

定期的にBCPを点検して、問題点を改善し、自社にとって最適なBCPにして行く必要がある。点検項目としては、災害時体制、事業継続活動に関する文章(規定、基準、手順書など)、人命に関わる備蓄品(医療品、食料、水など)状況、事前対策計画の実施状況などである。

2.5.5経営者による見直し(ACT)

経営者は必要に応じて、復旧方針を見直したり、事業資源を割り当てるなど、対応策の改善を指示する。

2.6災害時の事業継続活動を決める

災害時に伴うBCP発動から復旧するまでの一連の基準、行動・手順、役割などを具体的に明確にする必要がある。

2.6.1発動基準

平時の状態からBCPを発動させ、緊急事態に体制・行動へ移行する基準です。初動の混乱を避けるためにも明確に定義する必要がある。

2.6.2緊急対応行動

災害発生から2~4時間の緊急時対応行動を定める。災害発生直後の安全確保・二次災害防止、従業員の安否確認、災害対策本部の立ち上げ、復旧活動の開始方法について定める。

2.6.3行動チェックリストを作成する

災害発生直後の緊急行動に準じた復旧作業の行動チェックリストを予め準備して、有事の際には、行動チェックリストに従い、未実施の項目が内容に復旧作業を進める。

2.6.4復旧のための役割分担

復旧に必要な作業を分類し、主要な役割を明確にした上で、従業員や組織に役割分担する。役割分担は自社の規模や業務分担などにより異なるので、実態に合った役割分担を行う。

2.6.5復旧体制による復旧活動

緊急対応行動で落ち着いてきたところで、経営者が中核事業の復旧方針を決めて、復旧に向けた活動を開始する。正確な判断を行うため、被害や復旧の情報を災害対策本部で的確に把握できるように、情報の集約が極めて重要である。

2.7復旧宣言

復旧活動中は災害時緊急対応が発動された状態である。BCP発動状態から平時の状態に戻った場合、復旧を宣言する。

 3章では自社の中核業務の早期復旧を目的としたBCPの策定のポイントについて述べたが、2章で述べたように、顧客が重要と考える「手作業による倉庫出荷作業フローの検討」、「倉庫内貨物の荷崩れ防止対策」、「貨物が損傷した場合の荷主との取扱方針」などの項目にも配慮し、対応していることを荷主へ予めアピールすることで、安心感を与えることも重要である。

参考文献

国土交通省「荷主と物流事業者が連携したBCP策定のためのガイドライン」

http://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/seisakutokatsu_freight_tk2_000014.html

国土交通省「荷主・物流事業者のBCPの現状について」

http://www.mlit.go.jp/common/001055853.pdf

日本倉庫協会「事業継続計画書(BCP)作成のてびき」

http://www.nissokyo.or.jp/bcp/index.html

Originally posted 2019-10-26 22:24:03.