『文化が人を進化させた』ジョセフ・ヘンリック
国際交易が盛んになって、海上交通路が十分に開かれるまで、ヒトの集団脳は、居住している大陸の面積や地形の制約を受けていたのである。
ここで強調すべきは、知識や技術の複雑化があるところまでくるとたいてい、文化進化によって労働の専門分化(実際には、情報の専門分化)が進み始めるということだ。こうして生まれた社会では、集団脳のサイズが、知の最先端に立つ集団――現状を改善できるだけの知識をもっている人々――の規模や相互連絡性でかなり決まって間違いに気づけるだけの知識をもっている人が、集団の中にどれだけいるかで決まってくる。そして、どれだけ多数の人を知の最先端に立たせられるかは、その社会がもつ文化伝達の仕組み、すなわち教育制度にかかってくるのである。
集団脳の重要性がわかれば、イノベーションを起こす力、つまり革新力が社会によって大きく異なる理由もわかってくる。特定の個人だけが優秀でも、また、上からインセンティブを与えても、イノベーションを起こす力は生まれない。
それは、知の最先端を行く大勢の人々が、自由に意見を交わし、遠慮なく反論し、相互に学び合って、協力関係を築き、外部の者をも信頼して、試行錯誤を重ねていく――そのような能力と意欲から生まれるものなのだ。
イノベーションには天才も組織も要らない。必要なのは、多数の頭脳が自由に情報をやり取りできる大きなネットワークのみ。
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