「物流の世界史」マルクレビンソン

だが規制緩和を勧める専門家の言葉は、歴史の教訓を無視していた。市場メカニズムを導入して経済発展を図ることで、貧困から繁栄へと駆け上った国はかつてなかったのだ。

英国を世界最大の経済大国に押し上げた18世紀の産業革命は、政府が意図的に政策を打ち出して繊維製品の輸入を抑制し、繊維機械のノウハウを流出させかねない職人の国外移住を禁じ、共有地を囲い込んで労働者を新興工業都市に流れ込ませたからこそ起きたことだ。

19世紀後半に米国を豊かにした製造業の発展もまた、輸入を制限する保護政策だけでなく、労働組合を禁じ、労働時間の制限や労働環境の改善に関する州法を無効化した法的裁定によって、人件費が低く抑えられたからに他ならない。

第二次大戦後、西欧諸国の経済が急成長したのは、各国政府が大規模な経済プランを導入し、どの企業に融資や外貨を与えるかを政府が決めたからであり、20世紀後半の日本・韓国・台湾の経済が発展したのは、政府の指導のもとで輸入品を制限する保護策をとり、低利融資や安価な土地を与えて特定産業を育成したからである。

市場メカニズムの導入だけで、貧しい経済を豊かな経済に変えることができるというのは神話である。


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