日本の歴史、風土の中で江戸期から長い歴史をかけて培った日本的経営の基盤の上に、日本は第二次大戦後の高度成長を遂げてきた。日本は、周知のとおり石油や天然ガスなどの資源はほとんど皆無だし、農地も決して肥沃ではなく、地震、台風、洪水などの天災は多く、決して豊かな国土ではない。むしろ貧しい国である。こうした現状を日本人は歴史的に理解し、貧しさを克服するために、豊かな社会を夢見て日本人は懸命働いてきた。

宮崎市定は日本を支えたのは、自然を相手に無理をせず、功をあせらず、名を求めず、労苦に耐え、運命に忍従した農民的(農業や林業、漁業などに携わる人々)人生観に支えられたモラルの資源であったと指摘する。日本を支えたのは、武士道を唱えた第二時大戦前の軍人でもなければ、戦後の武士道なき官僚でもなかった。

「自然の資源の少ない日本においては、モラルの資源を愛護することを知らなければ、表面的にはどんなに経済成長を遂げようとも、見かけだおしのその繁栄はけっして長くつづくものではない。いわゆる経済の高度成長も、短期間で達成できたものは、また短期間で失い易いと覚悟しなければならない。」(宮崎496頁)
 
モラルの資源を基礎にして、恥の文化ともいわれる美意識や平等主義、序列意識などの日本的精神が存在する。モラルの資源が日本人を支え、日本の経済的成功の糧となった。日本人にとってモラルの資源は慈愛して、育むべき大切な資源である。